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世界リセットなし。~死んだら別人生、それでも俺の歩いた道は残るVRMMO~  作者: ユミヒロ


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第82話 見つけた俺も、順番待ちだった


【本文】


朝、地下入口の前に札が増えていた。昨日の、


《地下見学はできません》


の横。今日は、その下にもう一枚。


《調査班も受付を通ってください》


俺は二回読んだ。


「調査班も?」


シンが机の向こうで頷く。


「調査班も」


「俺、昨日まで普通に入ってたけど」


「昨日まで人がこんなにいなかったから」


入口の反対側。見物人が十三人。昨日の倍くらい。商人。


プレイヤー。荷運び。何を見に来たのか分からない親子までいる。子どもが俺を見て、母親に何か耳打ちした。


嫌な予感がする。


「ねえ、あの人が穴見つけた人?」


聞こえてる。母親が小声で返す。


「指ささないの」


もっと聞こえた。俺はシンを見る。


「これ、いつ決まった?」


「昨日の夜」


「誰が?」


シンは机の横を指した。板が一枚ある。名前が並んでいた。ガラン。


宿の主人。北側の荷運び二人。南から来ている商人一人。パン屋。


ユリウス。セドリック。シン。あと、俺の名前はない。


「俺、呼ばれてないんだけど」


「寝てた」


「起こしてよ」


「昨日、帰って飯食って椅子で寝た人を?」


覚えている。スープを食べていたところまでは。その先がない。


「……じゃあ仕方ないか」


「仕方ないね」


シンは木札を一枚出した。番号、十七。俺に渡す。


「午前はガランが下の支えを見る。ミオが昨日の地図を写す。レンたちは午後」


「午後?」


「午後」


俺は入口を見る。今すぐ入りたい。昨日の三角の刻み。北側監視所候補。


この山を作った人が何を怖がっていたのか。調べたいことが増えたばかりだ。


「俺が見つけた場所なんだけど」


口にしてから。ちょっと嫌な感じがした。シンはすぐに返さなかった。机に置いた炭筆の先を揃える。


それから、俺を見る。


「だからって、道使う人より先でいいの?」


言い方は普通だった。責めてない。でも刺さった。街道を見る。


北から荷車。南から旅人。地下入口は、その真横。人が集まれば道が細くなる。


誰かが立ち止まれば荷車が避ける。その避けた車輪が、雨で柔らかくなった端へ寄る。昨日までに何回も見た。


「……午後でいい」


「十七番ね」


「番号いる?」


「忘れるから」


そこは俺じゃなくてシンが。午前。暇になった。正確には、地下へ入れないだけで仕事はある。


入口の前へ集まる人を、街道側へはみ出させない。荷車が来たら一度散らす。見物人に、


「中は見られません」


と説明する。六回。七回目。南から来たプレイヤーが、笑いながら言った。


「でもレンの知り合いなんだけど」


知らない。顔を見ても知らない。向こうは俺の名前を知っている。俺は少し考えた。


「俺が知らないので、たぶん知り合いじゃないです」


周りで笑いが起きた。本人も笑った。


「掲示板で見たから、なんとなくいけるかと思って」


「いけないです」


「だよなあ」


素直に離れる。嫌なやつではない。こういうのが一番困る。悪気がないから。


昼前。串焼き屋が来た。前に雨で撤退した店だ。今日は晴れている。


煙が入口側へ流れる。シンが顔をしかめた。


「そこだと地下へ煙入る」


「昨日ここ空いてたぞ」


「昨日は風逆だった」


串焼き屋のおじさんが空を見る。


「毎日場所変わるのかよ」


「風が変わるなら」


「山めんどくせえな」


それでも屋台を十歩ずらす。客も十歩ずれる。道がまた空く。俺はちょっと笑った。


地下の古代施設より、串焼きの煙の方が先に運用を変える。昼。


自分の番号が来るまで、俺は入口から二十歩離れた見物場所を作るのを手伝った。作ると言っても、柵じゃない。


白い棒を四本。縄を一本。それだけ。


「これで人、ここに入るかな」


俺が聞くと、シンは縄の角度を変えた。


「何もないよりは」


「説明板も?」


「いる」


「何書く?」


シンは少し考える。


《地下調査中》


《入口を塞がないでください》


《見つかっているものは、まだ正体不明です》


三行。俺は三行目を見る。


「要塞って書かないの?」


「違ったら消すの面倒」


そこか。近くにいた商人が笑った。


「正体不明の方が人来るぞ」


「じゃあ書き換える?」


シンが炭筆を上げる。商人はすぐ首を振った。


「いや、もっと増えるからそのままでいい」


全員、増えすぎるのは嫌らしい。見物場所ができる。最初の三人が、


本当に縄の内側へ入った。誰も命令していない。ただ、ここで見ていいと分かる場所があるだけ。


街道から人が一歩消える。それだけで、荷車が真っすぐ通れた。俺はちょっと感心した。


地下の仕組みを一つ解くより、白い棒四本の方が、今日は役に立っている。午後。


やっと十七番。俺。ミオ。エダン。


今日は地下へ入る前に、監視所候補の地上側へ行く。昨日、壁にあった三角形の刻みを調べるため。ミオが紙を持つ。エダンが縄。


俺は小さい鏡と、白い布。


「白い布、何に使うの?」


ミオが聞く。


「見えるか試す」


「何が?」


「向こうから」


「向こうって?」


「まだない」


ミオが少し黙った。


「順番がレンだね」


何だそれ。北側監視所候補。外から見ると、草に隠れた横穴。昨日より見つけやすい。


一回見てしまうと、逆に何で今まで気づかなかったのかと思う。中へ。細い小部屋。北側街道が長く見える。


壁の三角刻み。昨日はただ写した。今日は向きを見る。頂点が上ではない。


少し右。いや。右上。俺は外を見る。


三角の尖った方。視線を伸ばす。山肌。岩。


低い木。遠い。でも、その先に。木のない白っぽい岩壁がある。


「あそこ」


俺が言う。ミオが横へ来る。


「どこ?」


「白いとこ。斜面の真ん中」


エダンも覗く。


「昔からある裸岩だな」


「何か見える?」


「ここからだと岩」


ミオが三角刻みの向きを紙へ取る。床の線。窓。三角。


一本で結ぶ。だいたい。裸岩の方を向く。


「偶然かも」


ミオが言う。


「でも、見に行ける」


俺が返す。


「今日は?」


エダンが砂器を見る。まだ時間はある。地上だけなら。三人で監視所を出る。


街道を南へ戻らず、斜面の細道。エダンが先。


「ここ、獣道だから荷車は無理」


「人は?」


「今は行ける。雨だと嫌」


昨日の雨が葉に残っている。靴が濡れる。途中。俺の肩に葉から水が落ちた。


首の中。冷たい。


「うわっ」


ミオが振り向く。


「何?」


「山が攻撃してきた」


「被害は?」


「背中まで」


エダンが笑う。


「防具の隙間を狙ってるな」


軍事施設の話をしていると、全部敵に見える。三十分くらい。裸岩へ。


近くで見ると、ただの岩じゃなかった。下半分。石が積まれている。自然の岩に沿わせるように。


古い。崩れている。でも直角がある。俺は走りかけて、止まる。


最近、止まれるようになった。足元を見る。崩れた石。穴はない。


上も安定。近づく。ミオが先に見つけた。


「レン」


指。石の端。三角。小さい。


監視所と同じくらい。ただし向きが逆。尖った方が、北側監視所候補を向いている。


俺は振り返る。山を挟んで。直接は見えない。木が邪魔。


少し上へ行く。岩の横を登る。そこで。細長い隙間。


人一人の肩幅より少し広い。覗く。向こう。遠く。


草に隠れた北側監視所のある斜面。場所は分かる。穴そのものは見えない。俺は持ってきた白布を出す。


エダンが嫌な顔をした。


「振るの?」


「振る」


「誰が向こう見るんだよ」


忘れてた。三人ともこっちにいる。ミオが笑う。声を出して。


「それ、午前中に決めることだったね」


「……そうだね」


白布。使い道なし。俺は畳む。帰る。


入口。シンが木札十七を受け取る。


「何かあった?」


「同じ三角あった」


「へえ」


「向きが、お互いの方」


シンが少しだけ顔を上げた。


「見えるの?」


「確認できてない。三人とも行っちゃったから」


「馬鹿じゃん」


「分かってる!」


ユリウスが横で記録する。


《北側監視所候補と、南寄り裸岩構造に同形三角刻み》


《相互方向性あり》


《視認性、未確認》


最後の一行。未確認。俺はそれを見る。明日やることが、


また一つ増えた。ただ。今日は、俺が見つけた地下へ入るより先に、


順番を待った。思っていたより、何も失わなかった。


第83話 山の向こうにも、同じ窓があった

【本文】


次の日は、人数を分けた。珍しく、最初から。北側監視所候補。


ミオとシン。南寄りの裸岩構造。俺とエダン。ユリウスは入口。


「何でシンが北?」


俺が聞く。シンが白い布を腰へ結びながら言う。


「昨日、三人で同じ場所行った人がいるから」


まだ言う。


「一回の失敗を長く使うなよ」


「使える間は使う」


ユリウスが木札を四枚並べる。


「合図は?」


ミオが答える。


「白布を三回。見えたら北側も三回返す」


「見えなかったら?」


「位置を変える。ただし刻みの軸から十歩以内」


「戻る時刻」


「昼前」


「勝手に下へ入らない」


「入らない」


俺が先に言った。ユリウスがこっちを見る。


「今日は信用する」


「昨日まで何だったんだよ」


「監視」


ひどい。南寄り裸岩。昨日の道。今日は迷わない。


俺とエダンで登る。途中の葉も避けた。背中は濡れない。ちょっと勝った。


裸岩の下。積み石。三角刻み。その上の細長い隙間。


俺が覗く。北側斜面。遠い。昨日は場所だけ分かった。


今日は。白い。動いた。


「いた!」


俺が言う。エダンが隣へ来る。北側の小さい白。一回。


二回。三回。止まる。俺も布を出す。


振る。一。二。三。


向こう。少し遅れて。また三回。見える。


ちゃんと見える。


「通じた」


俺は笑う。エダンも目を細める。


「思ったより遠いな」


「でも見える」


三角刻み。北側からの白布は、最初の一回だけ見失った。雲が切れて、


裸岩の白さと重なったからだ。俺は目を細める。


「どれ?」


エダンが指を出しかけて、止めた。


「指すと逆に分からん。あの曲がった松の左」


曲がった松。その左。小さく動く白。


「あった」


「見えるだろ」


「目印、松の方が強いな」


三角の刻みより、木一本の方が役に立つ。俺は紙の端へ書いた。


《曲がった松》


ミオが見たら、地図に入れるかもしれない。入れないかもしれない。十年後に倒れてそうだから。


白布が三回。俺も返す。一回目は大きすぎて腕が岩に当たった。二回目。


三回目。向こうの白が止まる。しばらくして、また三回。


確認。たったそれだけなのに。離れた場所と、一つの仕組みになった感じがした。


北側も南側も、互いを指していた。偶然の線が、一段減った。


俺は細長い隙間の周りを見る。昨日は外からだけ。今日は、横。岩の裏。


積み石に沿って回る。自然岩との間に、人が一人通れる隙間がある。


「エダン」


「分かってる。入る前に見る」


俺より先に言われた。隙間へ石を落とす。すぐ止まる。深くない。


上から光。崩れもない。入る。三歩。


五歩。奥。小部屋。昨日の北側と、


似ている。同じではない。北側より広い。床穴が二つ。


壁に金具跡。横長の窓。そこから北側街道ではなく、南から上ってくる古道が見える。


俺はしばらく外を見る。下。白嶺へ上がってくる旅人。荷車。


小さい。でも分かる。こっちは南を見る場所。


「北と対になってる」


言いかけて。止める。


「……ように見える」


エダンが笑った。


「ミオに怒られなくなったな」


「怒られてない」


「直されてる」


同じだろ。壁。三角。やっぱり北側方向。


もう一つ。三角の下に、短い線が三本。北側にはあった?


昨日の写しを出す。ない。


「違う印」


エダンが言う。


「役割違うのかな」


分からない。床の端。石の蓋みたいな四角。持ち上げない。


隙間だけ見る。暗い。風。


「下につながってる」


俺が言う。エダンが膝をつく。


「風は来てるな」


地下のどこか。たぶん。でも勝手に開けない。白布確認だけの予定が、


もう一つ増えた。戻る時刻。まだある。エダンが外を見る。


「もう少し見ていいぞ」


今日は止められなかった。逆に変な感じ。


「帰る」


「いいの?」


「下は道具いるし。勝手に蓋開けたらユリウスうるさい」


「そこ?」


「あとガランも」


「そっちの方が怖い?」


「ちょっと」


帰る。入口へ。ミオとシンは先に戻っていた。シンが白布を畳んでいる。


「見えたね」


「見えた」


「三回」


「三回」


変な達成感。ミオが紙を広げる。北側監視所。三角。


南寄り裸岩。線。俺も南側の小部屋を描き足す。南向きの横窓。


床穴二。金具跡。三角+短線三本。四角い床蓋候補。


ミオが手を止めた。


「窓、南向き?」


「うん。古道が見える」


「北側は北向き」


「うん」


「お互いの位置も見える」


「白布で確認した」


ミオは二つの小部屋を丸で囲った。


「じゃあ、少なくとも両側から街道へ近づく人を先に見られる」


セドリックが後ろから紙を見る。


「通行管理でしょうか」


ガランが肩を回しながら来た。だいぶ動くようになっている。


「料金取るなら、窓はもっと道に近くていい」


「警備?」


俺が聞く。


「知らん」


即答。


「でも山の上まで来る前に見る理由はあるんだろ」


ミオが炭筆で一行だけ書く。


《北・南双方の接近を事前視認可能》


軍事。警備。関所。災害。


魔物。何でもありえる。ただ。両方を見る。


という機能だけは、だいぶ濃くなった。昼。


見物人は十六人。さらに増えた。そのうち二人が、南寄り裸岩へ勝手に行こうとした。


シンが止めた。


「そっちはまだ道にしてない」


「地上だろ?」


プレイヤーの一人が言う。


「地下じゃないし」


「獣道。昨日の雨で滑る。落ちても救助班いま地下」


「自己責任で」


シンの顔が少し変わった。怒ったんじゃない。考えた。


「落ちた後、助けるのは誰の責任?」


相手が黙る。俺も黙る。自己責任。便利な言葉だ。


でも落ちた人を、見捨てるか。たぶん見捨てない。なら最初から、


完全に一人の話ではない。プレイヤーは肩をすくめた。


「分かった。今日はやめる」


揉めなかった。シンは札を一枚増やす。


《南斜面は調査中。通行路ではありません》


俺が見る。


「また札増えた」


「人が増えるから」


「札だらけになるぞ」


「減らせるようになったら減らす」


ユリウスがその言葉を聞いていた。


「それ、今日の夕方の話に入れよう」


「何の?」


俺が聞く。ユリウスが答える。


「暫定ルールの見直し」


また会議。嫌な予感。夕方。


宿の広間。長机。でも前みたいに役人だけじゃない。パン屋。


荷運び。宿。ガラン。エダン。


シン。ミオ。北側商人。南側商人。


セドリック。ユリウス。俺。十四人。


多い。鍋屋のおばちゃんは来ていない。


「店があるから無理」


だそうだ。代わりに、


「入口で食べ物売る場所は勝手に変えないで」


だけ伝言が来た。一番具体的。ユリウスが最初に言った。


「今日は所有者を決めない」


助かった。


「料金も決めない。地下全体の公開も決めない。決めるのは、明日から一週間の使い方だけ」


一週間。短い。それなら話せる。パン屋が手を上げた。


「見物人、店には来るよ。だから全部追い返せとは言わない。でも荷車止まるのは困る」


荷運びの男。


「入口の前で立ち話されるのが一番邪魔だな」


北側商人。


「見られないなら見られないでいい。地図だけ売り出す奴が出る方が嫌だ」


ミオが顔を上げた。


「今の地図は公開しません」


即答。そこは決まっている。南側商人が俺を見る。


「発見した人は?」


急に来た。俺は何を聞かれているか分からない。


「何が?」


「どこまで入れていいと思ってる?」


前なら。俺が見つけたんだから、俺が決める。たぶん、


少しはそう思った。でも今日。俺も十七番だった。南斜面へ勝手に行く二人を、


シンが止めた。その方がよかった。


「調査班以外は、今は地下なしでいいと思う」


俺は言った。


「地上の監視所候補も、道ができるまではなし」


「見物人は?」


「入口から離れた場所で、説明板くらいなら」


ユリウスが書く。他の人も口を出す。最終的に決まったのは、すごく普通だった。


入口前は通行優先。見物場所は街道から外す。地下は登録調査班のみ。地上の南斜面も当面調査扱い。


一週間後に見直す。事故があれば即変更。誰も、


「レンが決めた」


とは言わなかった。俺も、言わなかった。会議が終わる。


外。シンが新しい札を書いている。俺は横から見る。


「字、俺より上手いな」


「当たり前」


「当たり前なの?」


「レンよりは」


基準が低い。俺は昼に描いた二つの監視所候補を見る。北を見る窓。南を見る窓。


互いに見える。その下には、地下への風。明日。


今度は、南側の床蓋候補を、下から探す。そう決めたのは俺じゃない。


調査班で決めた。でも。楽しみなのは、前と全然変わらなかった。


第84話 門を閉じても、こっちは通れた

【本文】


南側監視所候補の床蓋は、上から開けなかった。というより。ガランに、


「上から開けるな」


と言われた。理由。


「下が分からん」


以上。


「でも風は」


「風は床を支えない」


それもそう。だから今日は、下から探す。地下。


第75話で見つけた下層階段。下層広路。黒枠一。黒枠二。


黒枠三。今までの地図を全部広げる。南側監視所候補は、地上位置から見ると黒枠一より少し南。


下層広路の横。


「この辺」


ミオが壁へ指を向ける。何もない。普通の石壁。俺は近づく。


「扉ないけど」


「上から風はある」


エダンが手を上げる。


「静かにして」


全員黙る。水。じゃない。空気。


小さい音。ヒュウ。壁じゃない。床。


端。石の継ぎ目から。ガランが膝をつく。今日は地下へ来ている。


肩もかなり戻った。


「ここだな」


床石を叩く。コン。隣。コン。


その隣。少し違う。軽い。


「空洞?」


俺が聞く。


「下か横」


「開ける?」


ガランが俺を見る。


「お前はそれしかないのか」


「調査だから」


「調査は壊すことじゃない」


最近よく言われる。鉄板。細い棒。鏡。


昨日までと同じ。石の端に細い隙間。土を取る。五センチ。


十センチ。その先に、石じゃないもの。木。


腐っている。でも形は残っている。横棒。ガランが触らずに見る。


「引き手か」


ミオが紙へ描く。


「床蓋?」


「候補」


みんなもう自然に言う。木の横。隙間へ鏡。光。


斜め。階段。三段くらい。上へ。


俺は顔を近づける。


「上だ」


「南側監視所?」


「位置は合う」


上から開けず、下から入口を見つけた。それだけで、ちょっと嬉しい。


ガランが石の周りを確認する。


「これは上げても大丈夫そうだ」


「本当に?」


俺が聞く。


「お前が聞くのかよ」


信用してるから聞いた。四人で周りを空ける。縄。蓋に直接結ばない。


腐った引き手は使わない。鉄の鉤を石の下へ入れる。少し。一センチ。


止める。砂。落ちない。もう一センチ。


空気が強くなる。上から。光。開いた。


人一人分。階段。上。ミオが先に覗く。


「昨日の床」


南側監視所候補。つながった。俺たちは上へは行かない。今日は接続確認だけ。


蓋を戻す。位置を記録。これで南北の監視所候補と、地下がつながった。


でも。今日の本題はそこじゃなかった。地図を見る。南側へ抜ける細い階段。


黒枠一。その横。昨日まで見落としていた線。監視所候補へ上がる階段とは別に、


下層広路と平行して細い空間がある。壁厚が、そこだけ変。ミオが紙で距離を測る。


「黒枠一の手前から、向こう側まである」


「壁の中?」


「壁の横」


ガランが石を叩く。重い。五歩進む。軽い。


また重い。


「空いてる」


俺は壁を見る。入口は?見える扉はない。床。


天井。石の継ぎ目。エダンがしゃがんだ。


「これじゃない?」


壁の一番下。四角い石。昨日までの点検口より小さい。腰くらい。


でも上の石と線がつながっている。縦長に見れば、人一人分。ガランが土を払う。


端。指が入る隙間。


「開くな」


「まだ何もしてない」


「顔」


また顔。今度は手順。上へ戻る。木札へ追加。


《黒枠一横・並行空隙候補》


《開口調査追加》


ユリウスが読む。


「戻ってきたの?」


「書き直しに」


「えらい」


「子ども扱いすんな」


「前より進歩した時は褒める」


腹立つ。地下へ戻る。開口。ガラン主導。


石は扉だった。回転しない。横へ滑る。少し重い。


でも動く。向こう。狭い通路。人一人。


高さは普通。下層広路と平行。俺たちは入る。先頭エダン。


次、俺。ミオ。ガランは入口。十歩。


左。壁。その向こうが黒枠一。位置的に。


さらに。黒枠のところだけ、細い通路が外側へ膨らんでいる。俺は壁へ耳をつける。


向こうの音。エダンが黒枠側で棒を床へ落とす。カン。こっちでも聞こえる。


「同じ位置」


ミオが言う。狭い通路は、黒枠一を越える。止まらない。


そのまま向こうへ。俺の背中がぞくっとした。


「門閉めても、こっちは通れる」


誰もすぐ答えなかった。言ってから。強い。仮説として。


でも構造はそうなっている。主通路。黒枠。横の細道。


黒枠の手前から、向こうへ抜ける。誰かが大きい道を閉じても、横の人用通路は残る。


本当に黒枠を越えているか、一度だけ確かめた。黒枠一の手前。エダンが主通路に残る。


俺は細道へ。ミオは地図を持って入口側。


「声出して」


ミオが言う。


「何て?」


「何でもいい」


俺は細道を進む。


「今日の晩飯、何?」


壁の向こうから、エダンの声。


「知らん」


さらに進む。黒枠一の位置。声が少し遠くなる。


「肉がいい!」


「昨日も肉だっただろ!」


聞こえる。そのまま細道を抜ける。主通路側へ戻れる小さな開口。そこから顔は出さない。


声だけ。


「今どっち?」


エダンの声が後ろから来た。


「黒枠の向こう」


「マジか」


ミオが地図の上で線を引く。主通路では、黒枠の位置を越えなければ向こうへ行けない。細道なら、


横から越えられる。古い門を動かさなくても、構造だけで分かった。俺は戻る。


エダンが言った。


「閉じ込める側だけ道持ってるみたいで、ちょっと嫌だな」


「保守用かもしれない」


ミオが言う。


「でも、そういう使い方もできる」


できる。そこが大事だった。ミオが炭筆を動かす。


「少なくとも、黒枠一と独立して通れる」


「二も?」


俺が聞く。


「調べないと」


行く。細道は続く。黒枠一の先。少し上り。


曲がり。途中に小さい穴。主通路側へ。拳くらい。


覗く。下層広路。見える。向こうからは、


こっちが暗くて見えにくい。


「何これ」


エダンが横から覗く。


「見張る穴?」


「候補」


ミオ。さらに行く。黒枠二。また通れる。


黒枠二の横には、小部屋。床に深い溝。壁に木の軸が腐った跡。


以前、別側から見た操作小部屋候補と位置が一致する。俺は地図を見る。点がつながる。黒枠を動かす側。


その人たちは、黒枠を閉じた後も、この細道を使って向こう側へ移動できる。しかも主通路を覗ける穴がある。


「これ、通行管理にしては変じゃない?」


俺が言う。エダンが腕を組む。


「閉じた後に、閉じた向こうへ行きたい理由がある」


ミオは言葉を選ぶ。


「保守なら必要。災害対応でも必要。警備でも必要」


「戦う時も」


俺が言う。


「そう」


初めて。ミオが、そこを否定しなかった。軍事。


その言葉が、一段近くなる。まだ書かない。俺たちは黒枠二までで戻る。


三は行かない。時間。上。木札。


四人。四人帰還。ユリウスが地図を見る。細い並行路。


黒枠を二つ越えている。主通路を見る小穴。操作小部屋候補との接続。セドリックも来た。


今日は、誰も最初に言わなかった。軍事施設。でも。


ガランが地図を指でなぞる。


「大きい道を止めて、脇の人間だけ動ける」


シンが隣から言う。


「止めた側が?」


「そう見える」


シンは少し考えた。


「じゃあ、向こうから来る人を止めて、自分たちは動ける?」


部屋が静かになる。子どもみたいに単純な言い方。だから分かりやすい。俺は北側の窓。


南側の窓。黒枠。排水。並行路。


順番に見る。近づくものを見る。道を維持する。必要なら大きい道を閉じる。


閉じても、運用する側は横を動ける。今まで別々だったものが、同じ目的へ寄り始めている。


ユリウスが記録の末尾へ書いた。


《防衛用途を含む可能性、上昇》


含む。可能性。まだ確定じゃない。それでいい。


外へ出る。入口前の札。一週間の暫定ルール。見物場所には、


ちゃんと人が収まっている。荷車が通る。串焼きの煙は、今日は街道と反対へ流れている。


俺が見つけた地下。俺たちが調べている道。でも、もう俺だけの場所ではない。


その感じと、古い山の中に残った、閉じるための仕組み。その日の最後。


一週間ルールの板に、シンが一行だけ追加した。


《新しい場所を見つけても、勝手に道にしない》


俺は横で読む。


「俺向け?」


「全員向け」


「俺向けに見える」


「心当たりあるなら守って」


ある。かなりある。でも、その板の下には、昨日決めた十四人の名前がない。


誰が決めたかではなく、今ここで使うルールだけが書いてある。それが少し、いいと思った。


二つが、何となく逆に見えた。昔の誰かは、道を閉じる力を作った。


今の俺たちは、その力を誰が決めるのかから、作り直している途中だった。

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