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世界リセットなし。~死んだら別人生、それでも俺の歩いた道は残るVRMMO~  作者: ユミヒロ


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第16話 持っていかないもの

翌朝、俺の荷物は重かった。

「何入れたの」

ミオが床に置いた袋を見ている。

ミオが短く返した。「必要なもの」

俺は短く返した。「だから何」

「干し肉。水。縄。予備の縄。火口。油紙。毛布。木槌。赤い三角。白い縦線。青い丸。あと――」

俺はそう返した。「木槌いらない」

「いるかもしれない」

俺は短く返した。「何を打つの」

「行ってみないと分からない」

ミオが俺を見た。

嫌な予感しかしない目だった。

宿の一階。まだ朝飯前なのに、机の上には荷物が山になっている。

昨日までなら、たぶん全部持っていった。

知らない場所へ行くんだから、多い方が安心する。

でも炭車で学んだ。

重いものは、持っているだけで道を変える。

ミオが言った。「一回背負って歩いて」


ミオが聞き返した。「今?」

俺は短く返した。「今」

背負う。

立つ。

肩の傷が、包帯の下で引っ張られた。

ミオが言った。「……木槌いらない」

俺は短く返した。「早いね」

「判断が速い男だから」

俺はそう返した。「昨日、峠を疑うまで十五枚くらい資料見てた」

「数えるなよ」

結局、木槌を置いた。

予備の縄も一本減らす。

干し肉も減らされた。

俺は聞き返した。「食料削るの怖くない?」

「今日は山を越えない」

ミオはそこで初めて俺の顔を見た。

「越えないよね」

確認だった。

「……調べるだけ」

「間があった」

「夢は大きく」

「今日は小さく」

エダンが入ってきた。

昨日まで履いていた靴と違う。

革が厚い。

足首まで紐が回っている。

エダンが短く返した。「兄貴の」

俺は聞き返した。「借りた?」

「昔の。ちょっとでかい」

一歩歩く。

ごそ、と音がした。

エダンの兄が聞き返した。「ちょっと?」

俺は短く返した。「布詰めた」

「それ山で大丈夫か?」

俺は短く返した。「レンよりは」

何を基準にしている。

エダンは自分の袋を机へ置いた。

干し肉。

硬いパン。

小さな鍋。

火口。

細い縄。

予備の靴紐。

村の人間らしいのは、そこからだった。

針と糸。

塩。

薄い布。

小さな木の匙。

俺が聞く。「匙いる?」


俺は短く返した。「飯食う」

ミオが短く返した。「手で」

「嫌だよ」

正しい。

ミオの荷物は一番少なかった。

地図紙を油紙で包んだ束。

炭筆。

細い定規。

予備の紐。

水。

食料。

あとは最低限。

俺が聞く。「毛布は?」


俺は短く返した。「三人で二枚」

女将が聞き返した。「足りる?」

「今日は泊まらない」

同じ答えだ。

今日、という言葉が少し気になる。

宿を出る前に、女将がパンを一つ追加した。

「帰ってきてから払う」

俺が聞く。「帰ってこなかったら?」


女将が言った。「部屋の荷物売る」

エダンが短く返した。「現実的」

「当たり前」

女将はエダンの靴を見る。

「その靴、右の踵が減ってるよ」

エダンが止まる。

脱ぐ。

本当に右だけ少し削れている。

エダンが言った。「兄貴、言ってなかった」

「本人も忘れてるんじゃない」

女将が棚の奥から革の切れ端を出した。

紐で巻く。

見た目は悪い。

でも歩くと音が減った。

エダンの兄が短く返した。「金」

俺はそう返した。「帰ってきてから」

「パンと一緒?」

俺は短く返した。「別」

細かい。

村の広場を抜ける。

兄は炭小屋の前にいた。

何も言わず、エダンの袋を一度持ち上げた。

俺は短く返した。「重い」

「レンより軽い」

「レンを基準にするな」

今日二回目。

兄は袋の中を見ない。

代わりに靴紐を引っ張った。

結び直す。

俺はそう返した。「夕方までに戻れ」

エダンの兄が短く返した。「分かってる」

「暗くなる前」

エダンの兄が言った。「分かってるって」

「分かってる奴は二回言わせない」

エダンが嫌そうな顔をした。

でも紐は解かなかった。

俺は少し離れて待った。

昨日、白嶺へ行きたい理由を三人で話したわけじゃない。

俺は行ったことがないから行きたい。

たぶん、それが一番大きい。

ミオは地図を描く。

でも昨日、白い山を見た時には描かなかった。

エダンは村の外を見たい。

それでも、帰る時間を兄と約束している。

同じ方向へ歩くけど、同じものを見に行くわけじゃない。

それでいい気がした。

町へ寄る。

冒険者組合を出る前に、肩の包帯も替えてもらった。

治療所の女は俺の腕を上げさせた。途中で止まる。

俺は短く返した。「そこまで」

「もうちょい上がる」

「上がるかどうかじゃなくて、上げて痛いなら使いすぎるなって話」

言われた。

俺は聞き返した。「山行くの?」

ミオが短く返した。「麓」

「山行く人、だいたい最初それ言う」

信用がない。

包帯を巻き直していると、昨日の盾の男が入口を通った。俺たちの荷物を見て止まる。

俺は聞き返した。「峠?」

ミオが短く返した。「山羊」

「……何?」

ミオが言った。「山羊の跡を見に」

男はしばらく黙った。

「昨日より意味分からなくなったな」

でも止めなかった。

代わりに、俺の袋の外へぶら下がっていた金属の杯を指した。

「それ、歩くたび鳴るぞ」

一歩歩く。

かちゃん。

もう一歩。

かちゃん。

うるさい。

袋の中へしまった。

俺はそう返した。「助かりました」

「そういうのを先に自分で気づけ」

三回白嶺へ行った人に言われると重い。

冒険者組合の棚で、昨日の五枚をもう一度見る。

北東。

山羊痕。

岩壁付近で消失。

それだけ写す。

失敗地図の赤い線は写さない。

ミオが聞く。「いいの?」


ミオが短く返した。「覚えてる」

俺はそう返した。「そういう人が迷う」

「じゃあ描いて」

俺は短く返した。「自分で」

冷たい。

結局、自分で描いた。

線が曲がった。

ミオが直さない。

ミオが聞き返した。「そこ、変じゃない?」

俺はそう返した。「描いた人に似た」

「性格が?」

俺は短く返した。「線が」

どっちも嫌だ。

町を出る。

白嶺は見えない。

雲が低い。

昨日あれだけ大きかった山が、今日は最初からなかったみたいに隠れている。

普通の道を北へ。

畑が終わる。

林に入る。

少しずつ土が硬くなる。

見覚えのある分かれ道で、俺は足を止めた。

左は、昔から使われている麓への道。

昨日の失敗地図は全部、もっと先でその道へ集まっていた。

右。

道はない。

低い草と石。

その奥に黒い森。

ミオが紙を見る。

「山羊痕はこっち」

エダンがしゃがんだ。

土を指で触る。

「ある」

俺には分からない。

ミオが短く返した。「どれ」

エダンが短く返した。「これ」

細い蹄の跡。

一つ。

その先に二つ。

さらに先で消える。

ミオが聞いた。「本当に行く?」


昨日なら、たぶん即答した。

今日は一度、自分の袋を持ち直した。

軽くしたはずなのに、それでも肩に重さがある。

村までの帰り道。

夕方まで。

エダンの踵。

俺は右を見る。

「行けるところまで」

ミオが地図へ小さな点を打った。

線じゃない。

最初の一個だけ。

俺たちは、道のない方へ入った。


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