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世界リセットなし。~死んだら別人生、それでも俺の歩いた道は残るVRMMO~  作者: ユミヒロ


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第15話 失敗した線

町の冒険者組合には、成功した地図より失敗した地図の方が多かった。

正確には、白嶺の棚だけ。

他の棚は討伐記録や採取報告がぎっしりなのに、そこだけ紙の端が妙に傷んでいる。

何度も引っ張り出されたらしい。

「山の記録、見たいんですけど」

受付の女性が、俺の肩の包帯を見る。

俺は聞き返した。「その状態で?」

「今日は見るだけ」

「今日は、ね」

信用されていない。

ミオが横で小さく頷いた。

何でそっち側なんだ。

机を一つ借りる。

最初の地図。

三年前。五人。

南側の森を抜けて、峠へ向かう。

途中で赤い線。

《吹雪のため撤退》

二枚目。

去年の夏。八人。

ほぼ同じ。

《足場崩落。荷物一部放棄》

三枚目。

今年の春。四人。

少し東へ寄っている。

最後は同じ峠の手前。

《大型魔物を確認。継続不能》

四枚目。

冬。

《帰路標識消失。二名負傷》

五枚目。

夏の終わり。

《高度障害。三名行動不能》

季節も人数も違う。

装備の記録を見ると、革中心の組も、金属鎧の組もいる。

俺が言う。「寒い時期だけじゃないんだ」


ミオが頷く。

「失敗理由も一つじゃない」

つまり、単純に防寒具を良くすれば終わる話でもなさそうだった。

俺が言う。「全部違う理由で戻ってる」


「戻ってる場所は近い」

ミオが地図を重ねた。

紙越しに線が透ける。

出発地点は違う。

森の抜け方も少し違う。

でも上へ行くほど、線が一本へ集まっていく。

「峠」

エダンが指した。

エダンが言った。「みんなここ行くんだな」

ミオが短く返した。「普通は行く」

後ろから声がした。

振り返る。

大きな盾を背負った男が、資料の束を持って立っていた。

装備が使い込まれている。

新品みたいに光ってない。

盾の縁が何度も削れていた。

「白嶺?」

男が聞く。

俺はうなずいた。「はい」

「今行くなら、登山じゃなくて救助されに行く感じだぞ」

嫌味ではなかった。

笑ってもいない。

自分の束から一枚抜いて、机に置いた。

その地図にも赤い線があった。

同じ峠の少し手前。

「俺たちはここで二日止められた。風が抜ける。立ってるだけで体温を持っていかれる」

男は地図の端に、丸を三つ描いた。

俺はそう返した。「一日目はここ。二日目はここ。三日目の朝に戻るって決めた」

「二日待っても駄目?」

「風が弱くなる瞬間はあった。でも、その先の斜面が凍ってた。進めても帰れなくなる」

帰れなくなる。

その言葉で、第4話のことを少し思い出した。

一人で抜けられる道と、全員で帰れる道は違う。

山でも同じらしい。

俺は聞き返した。「越えられなかった?」

ミオが言った。「越える前に戻った」

「何回?」

ミオが短く返した。「三回」

俺は少し黙った。

一回失敗して諦めた人じゃない。

三回行って、三回戻った。

俺は聞き返した。「次は?」

「装備と人数が揃えばな」

男は俺たちを順番に見た。

「今のお前らは、装備以前に経験が足りん」

俺は反論しなかった。

たぶんその通りだった。

ミオが男の地図を指す。

ミオが聞き返した。「ここへ入る前、他の道は調べました?」

俺は短く返した。「ある程度は」

「北側へ回るとか」

俺はそう返した。「崖。西は雪崩地形。東は森が深すぎる。で、結局ここだ」

男は峠を指で叩く。

「山を越えるなら、まず峠を見る。変じゃないだろ」

変じゃない。

俺だって地図を渡されたら、たぶんそうする。

だから気になった。

「この地図、最初に誰が峠を通れるって決めたんです?」

男が止まった。

俺は聞き返した。「決めた?」

ミオが言った。「みんな同じところへ集まるから」

「昔からある道だ。麓までは荷車も使う。そこから上は……まあ、登るなら一番まともだ」

ミオが聞き返した。「誰かが他を全部調べた?」

「全部なんて無理だろ」

ミオが言った。「じゃあ、一番まともって」

「見つかってる中では、だ」

男はそこで自分でも少し気づいた顔をした。

でも、すぐ首を振った。

ミオが言った。「だからって、崖へ突っ込むなよ。まともじゃない道には、まともじゃない理由がある」

「それは分かってます」

「顔が分かってない」

今日二回目。

「一番まとも」

俺はもう一度、五枚の地図を見る。

一番まともな道で、五組とも戻っている。

男が俺の顔を見る。

俺はそう返した。「変なこと考えてるな」

「まだ考えてる途中です」

「その顔は、だいたい考え終わってる奴の顔だ」

顔に出るの、本当に困る。

エダンが別の報告書をめくっていた。

「これ」

端に小さな書き込みがある。

《山羊痕。北東斜面。岩壁付近で消失》

一行だけ。

討伐対象でもない。

採取場所でもない。

ただの観察メモ。

エダンが男に聞く。「山羊って、峠使う?」


俺は短く返した。「知らん」

エダンが言った。「村の山羊は使わない」

「村の山羊と一緒にするな」

エダンが言った。「モグは強いぞ」

「誰だよモグ」

説明し始めそうだったので、俺は止めた。

「それは後で」

ミオが、地図の北東へ小さく丸をつけた。

線は引かない。

丸だけ。

俺が聞く。「行くの?」


俺は短く返した。「調べる場所」

「同じじゃない?」

俺は首を振った。「違う」

男が腕を組んだ。

「峠を捨てるのか?」

俺は首を振った。

「まだ」

五枚の失敗地図を重ねる。

赤い線は、ほとんど同じ場所で止まっている。

踏破不能。

その言葉が、昨日より少し違って見えた。

山が越えられないのか。

今みんなが使っている線では越えられないのか。

分かったわけじゃない。

でも、試したい場所が一つ増えた。


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