第13話 三枚の地図
「じゃあ、何を見せる?」
エダンに聞かれて、俺は何も言えなかった。
その横で、ミオが紙を三枚出した。
俺は聞き返した。「三枚?」
エダンがうなずいた。「うん」
「答え出てるじゃん」
エダンが短く返した。「今出した」
速い。
広場の長机に、一枚ずつ並べる。
一枚目には、町から村までの道。崩れやすい場所。炭車だと避けた方がいい斜面。夜に通らない方がいい区間。
二枚目は、村に着いてから使っていい水場、宿、修理を頼める家、火を使っていい場所。
三枚目は、薬草の斜面、狩り場、家ごとの畑、子どもがよく遊ぶ沢、冬用の薪を積んでいる場所。
三枚目だけ、村の外へ出さない。
ただ、それで話が終わるほど簡単じゃなかった。
「修理を頼める家って、うちのことか?」
鍛冶道具を持っている男が二枚目を指した。
俺は短く返した。「そう」
斧の男が言った。「夜中まで来られたら困る」
「時間を書こう」
斧の男が聞き返した。「文字読まない奴は?」
「看板」
斧の男が聞き返した。「看板見ない奴は?」
俺が手を上げた。
「それ、もう本人の責任じゃない?」
広場の半分くらいが頷いた。
残り半分は、たぶん俺を信用していない。
斧の男が言った。「うちの裏の井戸も消せ」
俺が聞く。「井戸、二枚目に必要じゃない?」
「表の共同井戸がある」
「じゃあそっちでいいか」
ネリ婆さんが言った。「モグの草場も載せるなよ」
エダンが吹き出す。
「誰が欲しがるんだよ」
「モグが困る」
モグは少し離れたところで、本当に困ってなさそうに草を食べていた。
村長は三枚を順番に見た。
俺たちはさらに、道の分かれ目へ置く小さな目印も決めた。
赤は危険。白は村まで通れる。青は水。
色だけじゃ分からない人のために、形も変える。
赤は三角。白は縦線。青は丸。
ミオが言い出して、エダンの兄が木片を削った。
俺は赤い三角を一つ持ってみた。
「これ、ちょっと格好いいな」
「危険印を持って喜ばないで」
「装備っぽい」
「看板」
「分かってる」
村長は三枚を順番に見た。
「町へ置くのは一枚目だけか」
ミオが頷く。
ミオが言った。「村まで来た人には二枚目。三枚目は案内する側だけ」
「隠してるって怒る奴もいるぞ」
誰かが言う。
ミオは普通に返した。「いるだろうね」
俺は三枚を見比べた。
全部見せるか、全部隠すか。
昨日までは、その二つしかないと思っていた。
「危ない場所だけ、もっと目立たせない?」
俺は一枚目の沢を指した。
俺はそう返した。「地図見ながら歩くと、たぶんここで近道したくなる」
ミオが聞き返した。「レンみたいに?」
「俺を基準にするのやめない?」
ミオが言った。「分かりやすいから」
ミオが赤い墨で印をつけた。
危険。
その横に、迂回路。
道そのものを隠すんじゃない。
選べるようにして、選んだ先で困る場所だけ先に知らせる。
昼過ぎ、町から二人組の冒険者が来た。
昨日の夜襲を聞いて、様子を見に来たらしい。
一枚目の写しを渡す。
俺たちは後ろからついていった。
試すためだ。
「監視?」
一人が笑う。
俺は短く返した。「地図の監視」
ミオが聞き返した。「俺たちじゃなくて?」
「今は」
ミオが言った。「今は、って言ったな」
言ってしまった。
最初の分かれ道で、二人は止まった。
近いのは左。
安全なのは右。
赤い危険印が左についている。
「こっち行ったらどうなる?」
一人が聞く。
俺が答える。「炭車は傾いた」
俺は聞き返した。「徒歩なら?」
ミオが短く返した。「行ける」
「じゃあ左で」
行くんだ。
ミオが俺を見る。
俺も見る。
止めない。
二人は左へ入った。
俺たちは右の安全路をゆっくり進む。
途中で赤い三角を木へ打ち、沢の手前に白い縦線を一本。
自分たちで置いた印が、少し先から見える。
変な感じだった。
昨日までは、地面の形だけを読んで歩いていた。
今日は、自分たちが次に通る人へ残したものを読んで歩いている。
五分後、泥だらけで二人が戻ってきた。
「右で」
誰も笑わなかった。
いや、エダンだけ少し笑っていた。
村へ着くと、二枚目を渡す。
二人は共同井戸で水を汲み、宿へ向かった。
薬草の場所は聞かなかった。
夕方には商人が一台来た。
村の若い男が案内につき、銅貨を二枚もらっていた。
商人は村へ入る前に地図の端へ小さく書いた。
《荷車、雨の翌日は沢側を避ける》
ミオがそれを見つけた。
ミオが言った。「勝手に書いた」
俺は聞き返した。「消す?」
「確認する」
俺たちは本当に沢まで戻った。
昨日の雨で土が柔らかくなっている。
書き込みは合っていた。
ミオは消さず、その横へ小さく丸をつけた。
他のプレイヤーが書いた情報が、俺たちの地図に残った。
それが少し嬉しかった。
全部を俺たちが知っている必要はない。
でも、嘘かどうかは見に行きたくなる。
夜になって、俺たちは薬草の斜面を見に行った。
足跡は増えていなかった。
炭車の道には、新しい靴跡が二人分。
共同井戸の周りには泥。
でも、薬草の斜面は昨日と同じだった。
俺が聞く。「三枚で足りそう?」
ミオは地面を見ていた。
ミオが短く返した。「今のところ」
「珍しく弱い言い方」
「地図は歩いた人に負けるから」
それは、何となく分かった。
俺は町へ出す一枚目をもう一度開いた。
赤い印を一つ増やす。
泥。
さっきの二人が証明してくれた。
エダンが横から覗いた。
エダンが聞き返した。「これ、また増えるのか?」
俺は聞き返した。「増えるんじゃない?」
「面倒だな」
俺は短く返した。「面白いけど」
「お前はな」
初めて、道を見せたことが。
ちゃんとうまくいった気がした。




