↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界リセットなし。~死んだら別人生、それでも俺の歩いた道は残るVRMMO~  作者: ユミヒロ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/97

第11話 一袋目

次の日。

炭車には、ちゃんと炭が載っていた。

一袋。

エダンの兄が腕を組んで見ている。

「二袋いける」

「まず一袋」

ミオが言った。

「空で通った」

「空と一袋は違う」

「半袋にしよう」

俺が言う。

「昨日も言ってたな、それ」

エダンが袋を叩く。

「炭を半分出せばいいだろ」

「できるじゃん」

「できるけど面倒だろ」

兄がため息をついた。

結局、一袋。

山羊車の婆さん――ネリ婆さんというらしい――に教えられた古い筋を使う。

名前を聞いたら、

「昨日から名乗ってる」

と言われた。

聞いてなかった。

ミオは聞いていたらしい。

俺だけだった。

出発してすぐ、分かった。

空車とは全然違う。

取っ手が重い。

止める時も重い。

下りはもっと嫌だ。

炭一袋が、後ろからずっと押してくる。

「待って、待って」

俺が踏ん張る。

エダンが横の車輪へ木片を噛ませる。

ぎりぎり止まった。

「昨日ここ、楽だったよな?」

「空だったから」

ミオがしゃがんで地面を見る。

「石の右」

「右?」

「左は柔らかい」

見た目は同じ土だ。

踏む。

右の方が少し硬い。

炭車の右輪だけ石へ乗せる。

左は土。

ゆっくり下ろす。

荷台が傾く。

炭袋がずれる。

「待っ――」

セナが後ろから袋を押さえた。

「紐」

カイが結び直す。

俺は取っ手を持ったまま動けない。

「誰か鼻かいて」

「自分でやれ」

「離せない」

「我慢して」

厳しい。

三十秒くらい戦って、くしゃみが出た。

炭車が揺れる。

全員が止める。

「お前」

エダンが低い声で言った。

「ごめん」

「くしゃみで炭落とす奴、初めて見た」

「落としてない」

「落としかけた」

ミオは何も言わない。

地図に何か書いている。

「今の記録してないよな?」

「道と関係ない」

第九話と同じ返事だった。

ちょっと安心した。

ネリ婆さんの筋は、確かに遠回りだった。

でも沢を深く渡らない。

急な根も少ない。

車輪が引っかかるところには、平たい石が残っている。

全部じゃない。

足りないところは俺たちで足す。

一枚。

二枚。

三枚。

大げさな工事じゃない。

手で運べる石を置くだけ。

なのに次に車輪が通る時、全然違う。

「これ、楽しいな」

口から出た。

エダンが見る。

「石置くだけだぞ」

「だからいい」

何かすごい装備を作るわけでもない。

スキル名が出るわけでもない。

次に通った時、自分が置いた石の上を車輪が乗る。

それだけ。

町側の森へ出た時、昨日より一時間近く遅かった。

でも炭は一袋、崩れていない。

市場へ押していく。

最初に気づいたのは、炭を買う店じゃなかった。

串焼き屋だった。

「それ、どこの炭?」

エダンが答える。

村の名前。

店主の顔が変わった。

「崩落の向こう?」

エダンが俺を見る。

俺はミオを見る。

ミオは炭を見る。

誰も答えない。

店主は勝手に続けた。

「いや、いい。炭だけ売ってくれ」

商売人は強い。

炭屋へ持ち込む。

量を量る。

湿り気を見る。

店主が袋へ手を突っ込んで、黒くなった指を眺めた。

「悪くない」

値段を言う。

エダンが一瞬固まった。

村で聞いていた額より高い。

「もう一回」

「何が」

「値段」

店主が言い直す。

エダンはまだ疑っている。

「本当に?」

「安くしてほしいなら下げるぞ」

「いや」

返事が速い。

俺は笑った。

売れた。

炭一袋。

ただそれだけなのに、エダンは受け取った銅貨を何度も数えていた。

帰りに塩を買う。

釘も。

女将に頼まれた胡椒は高すぎてやめた。

「一粒ずつ売ってくれないかな」

俺が言う。

「何に使うの」

ミオが聞く。

「気分」

「いらない」

買わなかった。

町を出る前、昨日の商人が寄ってきた。

「道、教えてくれ」

いきなりだった。

「いくら?」

俺が聞く。

ミオが俺を見る。

商人も見る。

自分でも驚いた。

「いや、聞いただけ」

「今、値段聞いたよね」

「交渉の練習」

「誰と?」

「自分と」

苦しい。

商人は笑わなかった。

「銀貨一枚」

エダンの指が止まる。

今日売った炭より、ずっと高い。

ミオは地図を閉じた。

「売らない」

即答だった。

俺より速い。

商人は眉を上げる。

「二枚」

「売らない」

「三枚」

俺はちょっと揺れた。

ミオがこっちを見る。

「揺れた?」

「数字として確認しただけ」

「顔で分かる」

最近これを言われすぎる。

エダンは銅貨の袋を握ったまま、黙っていた。

帰り道。

しばらくしてから、エダンが言った。

「三枚って、炭何袋分だ?」

「数えない方がいい」

俺が答えた。

「数えた」

「早いな」

「でも売らなくてよかった」

ミオが振り返る。

「なんで?」

エダンは少し考えた。

「兄貴に怒られる」

それだけだった。

たぶん、今はそれでいい。

村へ戻る。

塩と釘を渡す。

兄は炭の売値を聞いて、最初は喜んだ。

次に顔が固まった。

「そんなに違うのか」

「違った」

エダンが言う。

兄は炭小屋を見る。

道の方を見る。

また炭小屋を見る。

嬉しいだけじゃない顔だった。

その夜、食堂で豆煮込みを食べていると、女将が塩を一つまみ増やした。

「今日だけ」

と言った。

理由は聞かなかった。

ミオも聞かなかった。

エダンだけ、

「明日も」

と言って怒られた。

村へ道を一本つないだ。

その実感は、銀貨三枚より。

たぶん、こっちの方が強かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。