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世界リセットなし。~死んだら別人生、それでも俺の歩いた道は残るVRMMO~  作者: ユミヒロ


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第10話 先客

「……車輪一つ分、試してみる?」

言ったあとで、俺は炭車を見た。

空とはいえ、ここまで引いてきた。

ここで知らない筋へ曲げて、穴にはまったら。

たぶんエダンに一生言われる。

「車輪一つ分って何」

ミオが地図を開いたまま聞いた。

「ちょっと」

「距離で言って」

「三メートル」

「最初からそう言って」

正しい。

でも、三メートルで済むわけがない気もしていた。

二本の浅い筋は、苔の下へ続いている。

カイが槍の石突きで地面を軽く叩いた。

「固いな」

「刺すなよ」

「刺してない」

「昨日、橋にしようとしてた人が言う?」

セナが弓を背負い直した。

カイは黙った。

勝ったらしい。

炭車はその場に置くことにした。

留め木を噛ませ、四人で筋を追う。

いや、五人か。

エダンが先に歩いていた。

「お前、帰る気ある?」

「あるよ」

「速い」

「レンに言われたくない」

それも正しい。

平たい石は、全部が残っているわけじゃなかった。

一枚あって、三枚分くらい土。

また一枚。

たまに二本の筋が消える。

でも少し先でまた出る。

道というより、忘れた人が途中だけ思い出しているみたいだった。

十分ほど進んだところで、森が少し開けた。

古い切り株がある。

新しくはない。

輪っか状に苔が乗っている。

その横に、崩れた石積み。

高さは膝くらい。

「何だろ」

セナがしゃがんだ。

ミオはすぐ名前をつけなかった。

俺も黙って見る。

石積みの内側だけ、地面が黒い。

炭?

エダンが指で触った。

「昔の焼き場かも」

「炭焼き?」

「たぶん」

たぶん。

今日はこの言葉が多い。

嫌いじゃない。

全部分かる場所より、ずっといい。

さらに奥で、筋が急に曲がった。

俺たちが今まで使っていた細道とは違う。

沢を避けるように、斜面の高さを保ったまま横へ回り込んでいる。

「こっちなら荷車、傾かないかも」

俺が言う。

ミオは足元を見る。

「でも長い」

「長くても転ばない方がいい」

エダンが返した。

俺を見る。

「今日、二回転んだし」

「一回」

「根で一回、沢の前で一回」

「あれは転んでない。しゃがんだ」

「両手ついてた」

「四足歩行の練習」

セナが笑った。

ミオは地図を書いている。

笑ってない。

肩は揺れていた。

しばらく行くと、道らしきものはまた細くなった。

その先から音がした。

カラ。

少し間が空いて、

カラ、カラ。

車輪。

全員が止まる。

俺は短剣へ手をやった。

セナが弓を下ろす。

カイも槍を前へ出した。

エダンだけ、首を傾げた。

音は近づいてくる。

枝の向こうから、最初に見えたのは角だった。

山羊。

次に、細い二輪車。

最後に、その車を引いている小柄な婆さん。

腰が曲がっている。

でも歩くのは速い。

婆さんは俺たちを見る。

俺たちも婆さんを見る。

五秒くらい、誰も喋らなかった。

「あんたら」

婆さんが言った。

「邪魔」

俺たちは一斉に脇へ寄った。

二輪車が通る。

車輪が、さっき見つけた二本の筋へぴたりと入った。

俺は思わず追いかけた。

「ちょ、ちょっと待って」

「待たん」

「この道、使ってるんですか?」

「見りゃ分かるだろ」

「誰が作ったんです?」

婆さんが止まった。

こっちを振り返る。

「知らん」

「え?」

「わしが子どもの頃から、ちょっとはあった」

山羊が草を食べ始めた。

婆さんは綱を引く。

食べ続ける。

もう一回引く。

食べ続ける。

「ほら行くよ、モグ」

モグ。

名前が強い。

「ちょっとは、って?」

ミオが聞いた。

婆さんは今度は答えた。

「崩れたら誰かが石置く。根が出たら誰かが切る。水が出たら横へ逃がす。それだけ」

「誰かって」

「通りたい奴」

それで終わりらしい。

婆さんは車を引き始めた。

俺は二本の筋を見る。

誰か一人が作った道じゃない。

名前もない。

必要な人間が、必要なところだけ直した。

だから途中で消える。

「町まで行くんですか?」

エダンが聞いた。

「今日は村」

「何売ってる?」

「塩。針。干した果物。あと買うなら石鹸」

エダンの顔が変わった。

「石鹸いくら?」

「お前は客かい」

「値段だけ」

「客になってから聞きな」

商売が強い。

婆さんはまた進む。

数歩行って、止まった。

振り返らないまま言った。

「あんたら、さっき石どけただろ」

俺とカイが顔を見合わせた。

「どれ?」

「三つ先の曲がり」

「……分かるんですか」

「車輪が鳴った」

婆さんは初めてこっちを見た。

「戻しときな」

「はい」

全員で答えた。

完全に怒られた。

石を戻しに行く途中、俺は笑っていた。

ミオが横を見る。

「何」

「隠し道見つけたと思ったら、婆ちゃんの生活道路だった」

「その方が面白い?」

考えた。

「うん」

たぶん、かなり。

地図に載ってない。

でも誰かにとっては、昨日も今日も使う普通の道だ。

俺たちが見つけたんじゃない。

俺たちが知らなかっただけだ。

石を戻す。

カイが一枚ずらした。

「そこじゃない」

後ろから声が飛んだ。

婆さん、まだ見ていた。

「はい!」

また全員で答えた。

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