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魔女の国  作者: kiko
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孤高なる騎士。僕たちは?

男は馬を走らせながら、地図を確認した。ブレイズの潜伏場所は、王都から馬で半日ほどの距離にある森の中だ。街道を外れ、草地を抜け、木々が密になってくる手前に、大きく開けた場所がある。そこが、第七グループの集合場所だった。


 到着すると、すでに多くの志願者が来ていた。馬を木に繋ぎ、装備を確認している者、地図を広げている者、今にも特攻して行きそうな者。百人は超えている。まだ全員ではないだろう。


 男は馬を降り、周囲を見渡した。


 志願者たちの装備、魔道具は様々だ。見るからに高級な魔道具を身につけている者もいれば、剣一本の者もいる。しかし共通しているのは、全員が一人でいる、あるいは二、三人の小さな固まりでいることだった。大きなグループを作っている者はいない。


 当然だ。騎士は群れない。孤高である。それがこの世界の常識だ。


 男は少し離れた木の根元に腰を下ろし、周囲全体を眺めた。特定の誰かに目をとめるわけではない。全体の空気を読む。人数、装備の傾向、雰囲気。それだけ把握すれば十分だ。


 立ち上がり、近くにいた五人を適当に選び、声をかけた。誰でも良い。目が合った者、近くにいた者だ。


「おい、ちょっといいか?」


 五人が、それぞれ男を見た。


「俺は、メイカーってんだが、仲間が欲しいと思っていてな、その誘いだ」


「仲間?」一人が言った。「いらねぇだろ」


「まあな、俺も普段はそう思うんだが、、、」男は続けた。「今回の試験は相手が教官だからな。一人で挑んで勝てる相手じゃない。それは、みんな感じてるだろ?」


 ーーー沈黙が流れる。


「仲間で集まり、役割を分担する。前衛が攻撃を受けて、後衛が遠距離から攻める。戦時中は騎士団もこう戦うらしいが、、、俺たちの世代は習わないからな。まあ、これをやる事で魔力を消耗させることができれば、勝機が生まれるかもしれない」


「でも、手柄が分散するだろ?」一人が言った。「試験の評価が下がるんじゃないか」


「それはな、俺は逆だと考えてる。一人で挑んで何もできないより、グループの中で役割を果たした方が、日誌に書けることが増える。何を考えて、どう動いたか。それが評価される」


 男はその場でわざと声を大きくした。周囲に聞こえるように。


「一人で挑んでも、ブレイズ殿の魔力を削ることはできない。でも、大人数で継続的に攻撃を仕掛ければ、魔力回復の速さを上回る勢いで消耗させられるかもしれない。もしそれができれば、勝機が生まれる」


 周囲がざわめき始めた。


ーーーざわざわざわ。


 あちこちで、志願者たちが顔を見合わせている。じきに、声をかけ合う声も聞こえ始めた。グループを作り始めている。男が意図的に大きな声で話した内容が、あっという間に広がっていった。


 騎士は孤高である。


 その固定概念が、今この瞬間、崩れていった。


 男は森の入口を見た。ブレイズはあの奥にいる。


 まず、一個目は成功だ。


 男は懐から小さな鏡を取り出した。覗き込むと、自分の顔が映っている。じわりと、顔の輪郭が変わる感覚がし、鏡を外して確認すると、また別の顔になっていく。


 男は別のグループに紛れ込んだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 エリナ=フラムは、一ヶ月をかけてブレイズを分析した。


 最初の一週間は、とにかく矢を放った。髪留めに指を当てると、橙色の炎が弓の形に凝縮される。矢を番えて放つと、炎の矢がブレイズに向かって飛んで行く。しかしブレイズの両手剣が一振りされると、あっさりと散った。矢が剣に当たる瞬間、炎が霧散していく。


 やはり、教官殿の魔法の方が強力だ。魔力の出力も何もかもが、あちらの方が大きく上回っている。


 毎晩、その日の戦いを頭の中で再現した。ブレイズの動き。剣を振るタイミング。足の運び方。何度も繰り返すうちに、一つのことに気づいた。


 ブレイズは、矢が見える前に剣を動かしている。


 矢が放たれてから反応しているのではない。矢が来る場所を、放つ前に読んでいる。わざと私に隙を見せている。


 エリナは唇を噛んだ。


 では、どうする。


 ーーー八日目。エリナは弓を構えるフリをして、構えない。また構えるフリをして、放つ。ブレイズの剣が一瞬遅れた。矢は弾かれたが、タイミングがずれた。


 いける。


 エリナは次の日、同じことを繰り返した。フェイントを二重にした。三重にした。ブレイズは笑いながらそれを捌いていたが、確実に彼の剣は一手余分に、多く動いていた。一手多く動くということは、それだけ体力を、そして魔力を使っているということだ。


「上手くなってきたね!そこの君!エリナ=フラム君だね?!加点しておくよ!」十日目、矢がブレイズの鎧を掠めた後、ブレイズは言った。「十日前とは別人だ!」


彼とは100メートルは離れている。


「楽しみにしているよ!」という声が背後から聞こえた瞬間、何も見えなくなった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 セオドルグ=ターナーは計ろうとしていた。彼の全てを。


 が、羅針盤の記録が積み上がるにつれ、一つの問題が浮かび上がってきた。


 魔力の消耗ペースが、想定より遅い。


 最初の一週間で計算した消耗率では、最終日までには約半分まで削れるはずだった。しかし実際には、二十日で、二割しか削れていない。想定より消耗が遅い。


 なぜか。


 ーーー答えは簡単だ。


 ブレイズは、必要以上の魔力を使っていない。私らの実力を測るために、初日は出力を上げ、徐々に魔力を抑えながら、必要最小限の魔力量、魔道具使用のラインを調整している。


 爆炎魔法を展開するとき、ブレイズは常に最小限の出力で使っている。志願者たちを吹き飛ばすのに必要な最小限。それ以上は使わない。つまり、消耗を抑えながら戦っている。


 ーーー当然だな。熟練の老騎士は、一ヶ月の試験期間を最初から計算に入れている。魔力を温存しながら、志願者たちをいなし続けることができる。


 ならば、消耗率を上げるしかない。


 どうすれば、ブレイズに必要以上の魔力を使わせられるか。


 彼は、私らの力を既に見極めている。正確には、見極めたとほぼ確信しているだろう。その根拠として、すでに二十日が過ぎている。この時点で大半の志願者に取れる選択肢はほぼ出尽くしている可能性が高いと考えるからだ。つまり、奥の手はない、教官の魔力を消耗させ、できる限り評価を上げることしか考えていない、と彼は考えているだろう。


実際に私にも奥の手は無いわけだが、取れる手段としては、残った志願者全員で挑むことが第一の手だが、これは無い。結果は目に見えている。たとえブレイズを倒せたとしても、倒せる可能性が見出せていないのに取った、特攻的な戦略として、個々人の評価は低くなるだろう。そうなると、第七グループからの合格者が出ない可能性すら出てくる。


 ーーーある程度の実力を持った者を集め、持久戦に持ち込むべきだな。


しかし、すでにグループは固まってしまっている上に、それぞれで対抗意識のようなものが生まれている。最初から実力者と組めば良かったが、実力も分からないうちに誰と組むかなど、運でしか無い。


ーーー私なら実力者は見ただけで分かるが、相手には分からない。今回は私に取れる最善を取った。ならば、今出来ることを最大限までするしか無い。最初にグループの提案をしたあの男、恐らくなんらかの策があるだろう。彼が動くのを待つ。それしか無い。


 次から、戦略を変えた。ブレイズが、私らの実力を見切ったと言うのなら、その実力の範囲内で、予想外を生み出す。


 「セノ、ジョージ!」


二人はその声を合図に、ブレイズに突進する。炎を剣に纏わせていたブレイズは、驚いた様子で魔法を空に打ち上げた。


 まあ、そうだろうな。、、彼ら教官は私らに本気を出さない。と言うより、出せない。本気出したら殺してしまうからだ。そこをつけば良い。


 正しい方向だ。


 二十四日目の記録を見ると、魔力の消耗率が上がっていた。彼に魔法の無駄撃ちをさせることで、戦闘を長引かせ、さらに魔力も消耗させることができる。しかし同時に、他のグループの人数もかなり減っている。そのせいで、各グループの負担はさらに大きくなってきた。


 そして、もう一つ気づいたことがあった。


 ある男のことだ。


 彼は、かなりの実力者だ。常に最前に立ちながら、毎回無傷で帰ってくる。各人の回復のため、戦闘は2、3日に一回としているが、彼は傷を負わない。それどころか、会うたびに明らかに強くなっている。


 その男の方向に羅針盤をかざした。私の魔道具は、羅針盤。針は二本あり、上部は魔法の属性に、下部は魔力量を図ることができる。


 針が、わずかに動いた。何かを使っている。魔道具を。しかし戦闘用ではない。別の何かだ。


 セオドルグは日誌に書いた。要確認。


 そして、全体の人数を数え始めた。最初の人数。離脱した者の数。残っている者の数。


 薄々感じてはいたがーーー数が合わない。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 最終日前日の夜。


 森の入口に、志願者が集まっていた。


 セオドルグが数えた。自分を含めて七人。グループが大体40組ほどあったが、各組に一人は一定の実力を持った人間がいたように見えたが、、あの者たちが脱落したのか?


 、、、いや、やはりおかしい。


 あの男がいない。あの男ならば、残っているはずだ。前回も無傷だった。


 セオドルグは周囲を見渡した。勝ち気な目をした弓使いの少女。気弱そうな両手斧の少年。腰に剣を携えた男。全身鎧の大柄な男。杖を持った見るからに普通の男。ロッドを持った女。そして自分。


 七人だ。


 しかし、あの男はどこに行ったんだ。確かに強かった。あの動き、剣技は、普通ではなかった。一人で戦わない限りは、脱落はしないだろう。


「一つ、聞いていいか」


 セオドルグが口を開くと、周囲が静かになった。


「おかしいと思っていた」セオドルグは羅針盤を懐にしまいながら言った。「あの黒髪の男、知っているか。私らのグループにいた」


 エリナが「ああ、あいつか」と言った。「強かったな。何度か見かけた。1番じゃあ無いけどな、、、ってあれ?」


「俺も見た」バルド=ゼインが腕を組んだまま言った。全身を黒い鎧で覆っている。「あいつも強いが、、俺の仲間の方が、、、あれ、いねえや」


「なるほどな」セオドルグは続けた。「彼は強い。しかし今、ここにいない。脱落するはずもない。となると、、、」


 セオドルグは周囲を見渡した。


「一人の人間が、複数のグループに変装して潜入していた可能性がある。そして私らは彼に選ばれ、護られたんだろう」


 沈黙が、七人を包んだ。


 エリナが鋭い目で周囲を見た。ティオ=ハルトが不安そうに周囲を見た。バルドは腕を組んだまま動かなかった。


 そのとき、七人の中の一人がゆっくりと手を動かした。


 懐から、小さな鏡を取り出す。


 じわりと、顔が変わった。


 黒髪の男が、そこに立っていた。


「ジーク=フルゲンです」男は言った。「僕も第七グループの志願者なんです。実は初めまして、では無いんですが、、、まあ、もう皆さん気づいていますよね」


 エリナが「やっぱり」と言った。ティオは目を丸くした。バルドは表情を変えなかったが、目が鋭くなった。セオドルグは「やはり」という顔をした。クロード=ベインは「え」と言って、それから黙った。エナ=クロルは静かに司を見た。


「、、、貴方、セノよね?何でこんなことしたの?」エリナが言った。声に怒りが混じっている。


「貴方たちを護るためですよ」


「護る?」


「エリナさん、前に貴方の矢がブレイズ殿の鎧を掠めたとき、後ろから爆炎が来ていました。僕が逸らしましたが」


 エリナがたじろいだ。あのとき、爆炎が来ていたのか。気づかなかった。


「騙していたということか」誰かが言った。


「いつかバレるとは思っていたので、騙すつもりはありませんでした。ただ、貴方たち全員を護りたかったんです」司は静かに言った。「全てはこの瞬間を目指してのことです」


 しばらく、誰も口を開かなかった。


「強いのは確かだ」バルドが腕を組んだまま言った。「騙されたとは思う。が、強いやつが全てだ。んで、そいつが俺たちを選んでくれたんだ。俺はそいつを責める気にはなれんな。、、、自分の力不足を悔やむのが先だ」


「そうだな」セオドルグが続けた。「論理は通っている。あなたが何度か護ってくれたことも、今ならわかる。私は感謝しているよ」


「俺も護られてたんですか」ティオが少し不安そうに聞いた。


「いや、君は護ってないんだよね。必要なかったから」


「そっかー」ティオは斧を見た。「良かった!」


 エナが静かに口を開いた。


「私は、気づいていましたよ。貴方が護ってくださっていたこと」


「気づいていたんですか」


「私は皆さんの傷を癒すことしかできないので、、、護って頂くことには慣れておりますが、貴方の動きは見事でした。いえ、見事過ぎました。なので、目立っておりましたよ」


 クロードは少し遅れて「俺も、、ですよね。」と聞いた。


「何回かですね」


「ですよねー」クロードは杖を握り直した。「まあ、そうですよね、、、」


「次はちゃんと言え。隠すな」エリナが言った。


「はい」


「はい、じゃなくて」


「、、、わかった。もう隠し事はなし、ですね」


 エリナは満足そうな顔をした。


「さて、ついに明日が最後の日です」セオドルグが続ける。「ブレイズ殿の魔力は、私の魔道具によれば、最初の約半分まで削れています。今日は、皆さんお疲れでしょうから、明日の体力と魔力を貯めておく日にしましょう。」


 全員が頷く。


 バルドが「作戦立てるか。、、、というか、もうあるんだろうが」と言った。


 全員が、司を見た。


「、、、明日は、僕がブレイズ殿の魔力を限界まで消耗させます。その後、君たちは魔道具を使って攻撃をしてください。その合図は、セオドルグ君、君に任せます」


「分かりました。貴方は離脱し私らが総攻撃、と言うことですね?」


「その通りです。、、、あ、僕はみんなのこと知ってるけど、みんなはお互いを知らないよね。自己紹介、しよう」


 「エリナ=フラムよ。魔道具は、火織。この髪留めから炎の矢が出せるわ」


 「ティオ=ハルトです。俺は、この斧が魔道具で、まあ使ったことないんですけど。奥の手みたいな感じですね」


 「俺は、バルド=ゼイン。このかっけえ鎧は俺の魔力が続く限り修復し続けるんだ。だから、俺は絶対負けねえ」


 「セオドルグ=ターナーだ。私は、この羅針盤で対象の魔法、魔力を計ることが可能だ。」


 「クロード=ベインです。えーと、俺の魔道具はこれ、杖っすね。状況に合わせて魔石をはめて、その属性の魔弾を射出できます。まあまあ強いんですよ、これ、、、」と言った。


 「エナ=クロルです。私はこのロッドを当てて、皆さんの傷を癒すことができます」


「ジーク=フルゲンです。僕は、この剣で全ての攻撃を逸らすことが出来ます。この魔道具を使ってブレイズ殿の攻撃を限界までかわし続けるので、機が来たら、攻撃を。もし一回で倒せないようなら、何度でも繰り返しましょう」


 バルドはティオを見た。


「お前のタイミングが来たとき、俺が前を塞いでやる。お前のその斧、相当な魔力を溜め込んでるな?お前が最後、決めろ」


 ティオは少し黙った。それから頷いた。


「エナさんは、バルドさんを最優先で」



「明日」司は全員を見渡した。「倒しましょう、絶対。僕たちなら可能なはずです」



ーーーシオンは大丈夫かな?

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