任務?依頼?
騎士学院へと続く道中、二人は全くの無言を貫いていた。
もう少しで到着、というところでシオンが口を開いた。我慢のないやつだ。
「首席、シオン=フルゲンだってよ。すごいよな〜俺」
「知ってるよ、シオン君」ジークは前を向いたまま言った。
「悔しいだろ?」
「別に」
シオンはジークを横目で見た。ジークは相変わらず前を向いている。
「何か言いたそうだよな、ジーク君」シオンが言った。
「、、言いたいことはある」
「言えよ」
「僕はシオンを倒せるよ」
シオンは少し間を置いてから、ジークを見た。ジークも、今度はシオンを見た。
「根拠はあるんだろうな?」
「あるよ」
「どうやって?」
「シオンの攻撃は全部見える。受け流せる。体力と魔力を削り続ければ、いずれ倒せるよ。それ以外にも、たくさん方法はある」
「お前は一人で倒せなかっただろ!試験のとき!」
「そうだよ!」
「それでも倒せるって!?」
「僕ならね!」
シオンとジークは、しばらく見つめ合う。
「じゃあ、やってみろよ」
「もうやってるよ?」
「ほーん、、。おう、楽しみにしてる」
二人は前を向いて、また黙って馬を走らせた。しばらくして、またシオンの口が開いた。
「特別クラスに入るんだって、俺たち」
「特別かー、なんかいいね」
「ま、良いか悪いかは俺たち次第、らしいよ。兄さん達も特別クラスだったらしいんだけど、なんか授業がないって言ってたな」
「授業がない?」
「なんかさ、兄さんたちみたいに任務みたいな、依頼を受けるんだって。それで、一定数依頼をこなしたら、卒業できるんだってよ」
「任務って選べるのかな」
「まあ、選べるだろうな。普通は選べるし」
任務を選べるとしたら、そうだな、、、僕が強くなれそうなやつか、ベルナに関係ありそうなやつかな。
街道の先に、騎士学院の外壁が見えてきた。石造りの高い壁が、朝の光を反射している。
正門をくぐると、思ったより広かった。
石畳の中庭が広がっていた。中央に大きな噴水があり、その水面でも朝の光が揺れている。噴水の周囲には木が整然と植えられ、葉が風にゆっくりと揺れている。建物は複数棟あり、いずれも石造りで重厚な構えをしている。訓練場らしき広い空き地も見えた。柵で囲まれていて、地面が剣傷で荒れていた。まだ朝早いせいか、人の姿はない。
一般クラスの入学式は昨日行われたらしく、他の新入生たちはすでに各々の寮や教室に移動していた。特別クラスは別日程のため、今日の学院はどこか閑散としている。
「特別クラスの教室は、、こっちかな」
「んーと、いやこっちだね。首席殿は違うのかもしれないけど」
二人は石造りの廊下を歩いた。天井が高い。とにかく高い。見上げると、等間隔に淡灯が吊るされている。何処にでもあるな。窓から中庭の噴水が見える。床の石畳は磨き込まれていて、靴音がよく響いた。階段を上がり、二階の突き当たりまで来ると、木製の扉があった。
Ⅱ-Ⅰ。と書かれた札がある。ここだ。
「シオン、ここらしいよ」
教室は想像していたより小さかった。あっちの教室の半分ほどの広さだろうか。その代わり、窓が大きく、外から床まで光が差し込んでいる。机が十数脚、整然と並んでいた。黒板はあるが、使われた形跡はない。壁には大陸の地図が貼られていて、各国の境界線が丁寧に色分けされている。
ーーー窓際の席に、一人の少女が座っている。
揺らいだ光が、彼女の横顔を照らす。黒髪が水のように流れている。手元に本を開いているが、視線は窓の外に向いているようだ。
呼吸が止まったように感じた。いや、止まっていた。
少女が二人に気づき、顔をこちらに向けた。穏やかな目だ。その目には、驚きは見えない。ただ静かにこちらを見ていた。
「あ、」ジークが言った。「すいません、ここって特別クラスの、、?」
「ええ」少女は静かに言った。
二人は顔を見合わせて、扉を閉めた。
廊下に出ると、シオンが小声で言った。
「、、、かわいいな」
「うん、、かわいいっていうか。なんかこう、綺麗だった」ジークも小声で言った。
二人はしばらく廊下に立っていた。
「教官を探さないとだよな」シオンが言った。
「そうだね」
「入るか」
「入ろう」
二人はもう一度扉を開けた。少女がまたこちらを見た。今度は少し、目に笑みが混じっていた。
「すいませーん」ジークが言った。「教官殿はこちらにいらっしゃいましたか?」
「特別クラスの、、だよね?」少女が聞いた。
「おう!」
「私もそうです」少女は本を閉じながら言った。「先生なら、さっきまでここにいらっしゃったんですが、、、研究棟に行ってしまわれて、私もついて行こうかと思ったのですが、後から来る貴方方に伝えてから行こうと思いまして」
「ああ、、、それは助かりました。ありがとうございます。えっと、研究棟ですか」
「ええ」
「行ってみます」ジークは言った。それから少し間を置き、「お気遣いにお礼をしたいので、お名前を聞いてもいいですか」と言った。
「イズミ=アヤノと申します」少女は静かに答えた。
「俺は!シオン=フルゲンです!」シオンが言った。「こっちはジーク=フルゲン」
「フルゲン家の方々ですか」イズミは少し目を細めた。「存じております」
「そう!俺フルゲッ、」シオンの口を塞ぐ。
「もしよければ、一緒にいかがですか?」
「いや、俺はイズミ殿とここにいる。お前は研究棟行ってて」シオンが言った。
ジークはシオンを見た。
「好都合だよ、シオン。君はそこにいてくれ」
「え、なんで」
「いいから」
「嫌だ、俺も行くって」
イズミは、二人のやりとりを横目に見ながら、また窓の外に顔を向けた。
研究棟は、学院の敷地の奥にある。外観は、古く高いという印象だ。
お邪魔しまーすと中に入る。天井が高く、あちこちに棚が並んでいる。棚には、魔道具の部品らしきものや、書類の束が積まれている。至る所に照明が設置されている。ここは真夜中でも、昼のように明るいのだろう。
「俺たちの担当、ヴィクト殿だったらやばいよな」ジークがシオンに言った。
「やだよ絶対。お前もブレイズ殿だったらやでしょ?」シオンは苦い顔をした。「あの人、俺のことどう思ってるんだろ。」
研究棟の入口に着くと、中からいくつか聞き覚えのある声が聞こえた。扉を開けると、すでに何人かの学生が来ている。エリナが壁際に立って腕を組んでいる。他にも見知った顔がいくつかある。
「おう」バルドがジークを見て言った。「来たか」
「俺たち早くきちまったみたいだな、教官はまだ来てない。待ってろ」
部屋の奥に、大きな掲示板がある。紙が何枚も貼られている。近づいて見ると、任務の一覧だった。一枚一枚、全て手書きだ。丁寧に記されたものもあれば、手早く記されたことが想像できるようなものもある。
一枚ずつ端から見ていく。騎士団からの魔物討伐。貴族、商会らの護衛。未知の土地の調査。どれも正式な機関からのものだった。文字が整然と並び、依頼元の紋章が押されている。
その中に一枚だけ、明らかに毛色の違う紙があった。
文字が少し不揃いで、紋章もない。故に目立つ。
ジークは眼鏡をかけて読んだ。
ーー魔道具研究の協力者求む。魔力量が多い者、もしくは魔道具の扱いに長けた者。報酬あり。依頼人:野菜屋 ダン
「何だこれ」シオンが隣から覗き込んだ。
「野菜屋さんからの依頼だって」
「野菜屋?」シオンは眉を上げた。「野菜屋が魔道具を、、?」
「教官たちはまだ来てない。来るのを待っているのもいいが、待ったところで何か変わるのかな?この依頼がここにあることにも意図を感じる。、、、早いもの順、てことかな」紙をもう一度読んだ。「魔力量が多い者、もしくは魔道具の扱いに長けた者、か」
「魔力量か変換効率だな」シオンが言った。「ジークは変換効率めっちゃいいよな。だからその眼鏡も使えてる」
「ああ。シオンは魔力量も変換効率も良いけど」
シオンはオールラウンダーだ。魔力量、変換効率どちらも高水準だが圧倒的ではない。
「この中で1番魔力が多いのはーー」
ジークとシオンは、同時に同じ方向を向いた。
部屋の隅で床に座り、斧を磨いているティオがいた。
ティオは二人の視線に気づいて、顔を上げた。
「、、、え?」
ジークとシオンは顔を見合わせ、目を細くさせた。




