第3話・巡り合わせは奇跡のようで ~有用であれど限定的な~
第2章 誰かにとっての……
第3話・巡り合わせは奇跡のようで ~有用であれど限定的な~
意識を取り戻し、宣誓を行った上での事情聴取を終えたとはいえ、インスはいまだに重症。
約三日間にも及ぶ過酷な監禁と拷問ともいえるような状況下に置かれていた心身は衰弱しきっていて、話を何とか終えると、すぐに気を失うように眠ってしまった。
元々細身であったインスは、以前から頻繁に入退院を繰り返してはいたのだが、ここ数か月の間は特に疲弊が顕著だった。
日に何度も命が危うくなるような任務に赴かされたり。
大怪我をして死にかけの状態で運び込まれたり。
更には、同じく事件に巻き込まれたことで大きなトラウマを背負うこととなったアインの、そのトラウマを克服させるための授業での無茶が祟って、長期間意識が戻らない状態になったり。
その結果、物理的な器である物質体ではなく、心を具現する器である精神体に致命的な傷を負ったことや、幼少期から命を狙われ続けてきたせいか、精神体に消えない傷痕が多数残っていて……
それらが病巣なき異常として物質体に致命的なダメージを引き起こしていた。
それでなくても痩せ気味だったが、今は命を繋ぎ止めていられるギリギリに近いほど体重も落ちている。
いや、これでも、皇宮医務殿に入院していた期間に、そこの長官が半ば無理やり食事を摂らせ、機能訓練をさせていたおかげで、最低よりはマシ。
それがない状態で三日間もの監禁と拷問には耐えきれなかっただろう。
それと、もう一つ。
「……アインがかけたのであろう、応急処置の魔法は画期的だったな……」
眠ったインスを病室担当の神官呪師らに任せ、別室に移ったシリウムは、先に戻ってきていたチェスパスと情報交換を行う。
ちなみにラティスはインスの宣誓の結果を報告するために奥殿へと戻っていった。
「あれか……脱水症状が深刻な者に、急激な水分投与は最悪逆効果になる……これまでは、患者の容体を確認しながら、水魔法で霧状にした水分を少しずつ吸引させることで補給させていたが……」
シリウムの言葉に頷いて、チェスパスも腕を組み、深く頷く。
アインがインスにかけたのだと思われる応急処置の魔法はそれとは全く違っていた。
まず、何より大きな違いは、術者による調整と維持が不要である、ということ。
どんな理屈かは分からないが、患者の容体に合わせて自動的に最適な水分の補給を、術者が張り付いていなくても可能にしていた。
アインが意識を失って……どころか、生死の境に陥っていても、問題なく持続されているのを見て、現場に駆け付けた皇宮医務殿の医呪神官らが揃って絶句したほど。
もちろん、主神殿の医務殿に仕える医呪神官らも絶句した。
その中にはシリウムやチェスパスも含まれている。
「完全に読み解けたわけではないが、効果としては体内から無理がないようにゆっくりとしみ込むような水分補給……濃度も温度も最適化され、吸収速度も自動調整……何より、一度かけておけば回復が確認される状態まで維持され続ける……」
そう、この応急処置があったからこそ、インスの意識が回復するのも早かった。
唸るように言うシリウムは、この魔法が維持されていたからといって、他の処置の邪魔をすることもなかった事にも驚いている。
普通、全身に影響を及ぼすような魔法を使えば、他の魔法を受け付けないか、あるいは他の魔法によって効果がかき消されてしまう。
または、外科的、内科的な処置を行う際の妨げになることもあった。
なのに、それが一切ない。
体の部位ごとに、違った濃度や速度、水分量を、それぞれに最適化して自動で維持されているので、他のどんな処置の邪魔にもならないのだ。
「……アインがどうやって使ったのかは分からないが……意識を取り戻したのちにはぜひとも構成を聞き出したい魔法だな……」
チェスパスが呟くのに、シリウムも深く頷く。
ただ、問題は……
「……アインが、構成を覚えていたとして、アイン以外の者に使える魔法式なのか……?」
「……………」
ぼそりと呟くシリウムに、チェスパスも沈黙する。
莫大な魔力量を持つ、見者の少年が使った、これまでにない治療に使える魔法……
その有用性は間違いないが、使い手が限られるとなれば利便性は皆無になってしまう。
「……その時は、どれかを諦めてでも、再現できるように調整するしかないな……」
けれど、それならそれで、とチェスパスが言えば、確かに……とシリウムも頷く。
「……水の精霊魔法だと、なおよし……だな……」
付け加えたシリウムに、当然とばかりにチェスパスが頷き返せば、二人はそろって溜め息を吐く。
どちらにしろ、すべてはアインが意識を取り戻してから。
けれど、ファンによって容赦なく蹴り飛ばされ、神剣の力を使った反動でズタズタにされ、更には魔族によって、一切傷をつけることなく瞳の宝石という目の魔力を抜かれたアインが……無事に意識を取り戻してくれるのか。
そしてそれがいつになるのかは……今はまだ、誰にも分からない。
「……これから、聖木祭に向けて神殿内も、皇宮側も忙しさが増す……我々も、外せない儀式が増え、患者についていられない時間が出る……」
重々しい口調で言うチェスパスに、頭の中で予定されているスケジュールを反芻したシリウムは……
「……今年だけでも、外して頂くわけには……」
「無理だろう……今年はジョーン皇子がご臨席なさる……長らく病に伏しておられた世継ぎの皇子の公務復帰の最初だ……神殿最上層部が欠席など、許されんよ」
一応とばかりに呟くが、あっさり、はっきり、きっぱりと否定される。
だよな……と分かってはいたので溜め息だけで気持ちを切り替えると……
「……とりあえず、我々も少し休んでおきますか……」
「……そうだな……」
お互いに、疲れが見える顔を見合わせて、仮眠室に移動することにした。
第2章第3話をお読みいただきありがとうございます。
これまでインスに強いられてきた過酷な任務の数々と、その心身に刻まれた深い傷痕。
彼がどれほどギリギリの状態で命を繋いできたのかが改めて語られました。
インスがあの過酷すぎる状況からなぜ生き延び、これほど早く意識を取り戻すことができたのか。
その「理由」が明かされ、医療のトップであるシリウムやチェスパスでさえ絶句します。
ただ「助けたい」という一心で見習いが引き起こした奇跡……。
休む間もなく彼らを取り巻く時間は無情に進んでいきます。
次々と迫り来る行事と多忙を極める神殿の中で、彼らが心から安らげる日は来るのか?
次回もお楽しみに!
【今後の連載スケジュールについて】
続きは本日22時から、毎日昼と夜、1日2話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!
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【第9弾は完結まで執筆済みです。よければ最後までお付き合いください。】
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ノリト&ミコト
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