第1話・皇女にとっては希望でも ~誰から見ても望みなき~
第2章 誰かにとっての……
第1話・皇女にとっては希望でも ~誰から見ても望みなき~
想定して、しかるべきだった。
アインもまた、この隔離棟に収容されているということは、何らかの疑いを持たれているのだと。
その上、自分が見たアインは、血まみれで、痙攣までしていたのだから、いまだ、話を聞ける状態にないのだと。
シリウムも言っていたではないか。
生きてはいる。
それは、無事である、ということと同じではないと分かったから、会わせて欲しいと言ったのだ。
会わせられるはずがない。
疑いを持たれている者同士が、下手に会えば何を画策するか分からないのだから。
愕然として、インスの身体から完全に力が抜ける。
魔族にかけられた呪いでお互いが魔法を使おうとすれば苦痛に襲われると聞いた時より、どんな焦燥さえも、意味を成さない無力感。
「……アインが意識を取り戻し……」
それは、まだアインは保護されてから一度も意識を取り戻してはいないということで。
「宣誓が行われたのちに」
聴取をされて、場合によっては責められて。
「双方に問題がないと判明すれば」
何か問題があるとされたら、それだけで終わりだ。
「その時には、可能です」
それが、いつになるのか、誰に聞けばわかるのだろう?
淡々とした、感情のない声音のラティスの説明に、胸の奥を鋭く抉られるような痛みを感じる。
実際には何ともなっていないはずなのに、嫌な鼓動の高鳴りと、無意識に乱れる呼吸と、全身を凍り付かせるような冷たさに呑まれた。
耳鳴りがして、周囲の音が歪んで聞こえる。
シリウムか、ラティスか、誰かに何かを言われているような気もするけれど、意味が全く頭に入らない。
グラリと、横になっているのに眩暈を感じて、意識が遠のきかかる。
「話を聞け! バカ者!!」
「……っ!?」
いきなり襟首を掴まれて、乱暴に揺さぶられて、怒鳴りつけるシリウムの声に、頭を殴られたような衝撃が走り、ハッと我に返る。
「お前たちにかけられた呪いを解くには、魔族を倒すか、呪いを維持できないようにするしかないだろう……」
「…………」
どうやって、人間が高位の純魔族に抗えるというのか……
それも、一介の皇宮呪師と、まだ見習いでしかない子供のために、国が多くの呪師を投入して討伐に乗り出すなんて考えられない。
「魔族は、お前たちに呪いを残しただけではない」
「……ぇ……?」
続けられた説明に、息を飲む。
他に、これ以上に、何があるというのか……
「ジャネット皇女に対し、ジョーン皇子の呪いを解く方法を示して行った」
「……な……!?」
そんな餌をぶら下げられたら……!!
「ジャネット皇女は誰に止められても、皇城を抜け出し、出奔されてでも、それを手に入れようとなさるだろう」
「…………」
間違いない。ジャネット皇女……皇孫皇女であるジャンヌは、弟皇子であるジョーン皇子の呪いを解く為だけに、禁足地に封印されていた神剣を手に入れたのだ。
明確に、目標が定まってしまえば……誰にも止められない。止められるはずがない。
「……まだ、具体的な話しは何も出てはいない……だが、恐らくお前も、アインも参加させられる」
その、絶望的な討伐隊に組み込まれる。
それは予測ではない、確信だ。
インスは思わず目を閉じて、突き付けられた現実から逃避する。
断ろうとすれば、犯罪呪師として、労役としての同行。
受け入れれば、恐らく元の身分は保証される。
どちらにしろ、死にに行くような旅路。
それに、自分だけではなく、アインまで……まだ年端もいかない幼子まで、付き合わせる?
この国は……そんな国なのか?
「……陛下が望んでそう決断されるわけではないだろう。もちろん、死んで来いとおしゃるはずもない……むしろ、途中で旅の過酷さにジャネット皇女が音を上げて、皇都にお戻りになられることを望まれるだろう……」
そうでなければ、呪いに侵され、まともに魔法が使えるとは思えない呪師と、まだ見習いでしかない子供の同行など、ありえない。
「……それで? もし、皇女殿下が、その目標とやらを達成するまで、諦めなかったら……?」
「「……………」」
目を閉じたまま、静かに問いかけたインスに、答えられる者はいない。
当然、その可能性もある。
いや、むしろ、その可能性の方が高い。
「……だから、お前はさっさと健康を取り戻し、体力をつける必要がある……アインに負担を強いないためには……お前が痛みを受ける側になるしかない……」
感情を抑え、淡々と告げるシリウムの声に、隠し切れない怒りが滲む。
呪師は、管理され、監視された状態でなければ、生存を許されない。
その体制の外側に逃れようとすれば、即処刑の案件となる。
体制を破壊して、それで逃れきれるのならばそれも一つ。
けれど、その枠組みの中に、取り残されることになる者たちは、どうなる?
更なる監視と、管理の強化。
最悪の場合は、奴隷以下の扱い。
そんな未来を、多くの呪師に強いる?
自分の、自分たちの身勝手で?
(……そんなことになったら、きっとアイン君は、とても傷ついて、哀しんでしまいますね……)
それでなくても、他人の心に敏感な、やさしい子なのに……
「……もう一つ……」
続けたシリウムの声に、これまで以上の緊張感を感じて、インスはゆっくりと目を開く。
真っ直ぐに、見下ろしてくるシリウムと目を合わせた。
「……アインは、失明していると思われる……」
「っ!!??」
思いもよらない宣告に、インスは息を飲んで絶句した。
第2章第1話をお読みいただきありがとうございます。
目を覚ましたインスが何よりも望んだのは、アインの無事の確認と面会。
しかし、神殿の「宣誓」という厳格なルールの前では、そのささやかな願いすら叶うことはありません。
さらに、シリウムの口から冷徹に語られるのは、皇女殿下の行動によって導き出される「極秘討伐隊への参加」という、あまりにも過酷な未来予想図。
断ることも逃げることも許されない国の仕組みの中で、インスとアインがどれほど過酷な運命に巻き込まれていくのか。
そして突きつけられた「アインの失明」という絶望。
インスの精神がどこまで耐えられるのか?
次回もお楽しみに!
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