第3話・『宣誓』か『審判』か ~身の潔白を示す術~
第1章 愉悦の闇が残す傷痕
第3話・『宣誓』か『審判』か ~身の潔白を示す術~
判別神官長だという女性がシリウムと一緒に病室にやってきて、他の者たちは全員部屋を出るようにと命じた。
インスはいまだに拘束されたままではあったが、食事などはきちんと与えられて……とはいっても、液体食のようなものを流し込まれただけではあったが……治療も丁寧にされていて、昨日、意識を取り戻した直後よりはずいぶんと体調は良くなっていた。
「判別神官の総括をしております。ラティス=ペタリソスです。インス=ラント皇宮呪師ですね?」
淡い黄緑色の髪と明るい黄色の瞳をした、五十前後の外見をした女性神官呪師の確認に、インスは無言のまま頷いた。
声に出して返事をしたくても、まだ口を封じられたままなので不可能。
「あなたには、一時、所在不明となっていた期間があり、その理由を明らかにする必要があります」
言いながらも、ラティスは既にその答えをおおよそ知っている。
先に話を聞いた皇宮呪師長キプラの話から、インスが意図的に隠れていたわけではない、と分かってはいる。
けれど、片方からの話だけですべてを判ずることはできないし、そもそも、認識の違いもあって当然。
だからこそ、自分の知っている、自分にとっての真実を、嘘偽りなく述べること。
それが、判別神官による『宣誓』を行っての証言だ。
「よって、これより『宣誓』を行い、質問に答えて頂きたいと思いますが、何か問題はありますか?」
淡々とした、一切表情を変えることのない、ラティスの平坦な声を聞きながら、インスはそこまでする必要があるのかと、少しだけ驚いた。
以前、具体的には皇孫皇女であるジャンヌを狙った魔族による事件が起きた……そろそろ三か月に近くなったか……時にされた事情聴取では、シリウムに聞かれたことに答えただけ。
同じく魔族が絡んでいるとは思われる一件ではあるが、扱いがより重い。
その違いは、一体何なのだろうか?
(……『宣誓』自体は、まあ、かまいませんが……)
この差が意味するものを知らされるのだろうか?
「……問題がなければ挙行いたします……問題があるのであれば……」
表情も、声音も、一切の感情を見せないまま、変えないままでラティスは告げる。
「……『審判』を受けて頂くことになります……」
「……っ!?」
想定外の発言に、インスが目を見開く。
宣誓が己の口から真実を語るものであるのに対し、審判は神の裁き。
そこには一切の情状酌量の余地もなく、ただ対象者を神が裁くのみ。
つまり、インスは現状、宣誓を行って自らの潔白を明かすか、審判を受けて潔白を明かすか、どちらかしか許されない立場に追い込まれているということ。
「宣誓でよろしいですか?」
「…………」
再度の確認に、インスは無言で頷いた。
同意を得たラティスが『宣誓』を行い、漸くインスの口を封じていた布が取り除かれる。
思わず息を吐いたインスを見つめたまま、ラティスはここ数日の出来事を問いかけた。
「……アイン君の……授業の結果を、報告して欲しいと伝言されて、呪師長室を訪ねました……」
インスの行方が分からなくなったとされた日の、最後の訪問先が皇宮呪師長室。
だから、インスはなぜ、呪師長室を訪れることになったのか、そこから話を始める。
恐らく、この辺りなら確実に裏付けも取れると分かっていた。
けれど、話始めようとしたその瞬間。
アインの名を口にした瞬間に、記憶が点滅するかのように、魔族に無造作に襟首を掴まれ、吊り上げられた、血まみれのアインの姿が甦って、僅かの間、言葉に詰まる。
何とか話を続けるが、声が震えたのが自分でもわかって、微かに顔を顰めた。
気づきはしたが、ラティスはピクリとも表情筋を動かすことはなく、一歩下がった位置に立つシリウムの表情はインスからは見えない。
そのことに、少しだけ安堵しながら、あの日、何があったのか。
そしてそれから、どうしていたのかを、ゆっくりと話していく。
「……アイン、君……が……っ」
けれど、最後の最後、直前の記憶に関して口にしようとした瞬間、喉が、声を出すことを拒絶する。
言葉にしてしまうと、それが現実になってしまいそうで、唇が微かに震えるだけで、音にならない。
「……アインは、ちゃんと保護されている……別室で寝ているから、落ち着け……」
呼吸が乱れ、かすかに震え始めたインスに対して、静かにシリウムが告げる。
軽く目を見開いたインスは……
(……無事、だとは、言っていない……?)
保護された、という言葉が持つ意味に気づく。
さあっと、顔から血の気が引いて、最悪の予想が頭を過る。
「……生きてるよ……ちゃんとな……」
その変化に、素早くシリウムは言葉を足す。
インスが何より恐れているであろう可能性を、否定する。
「……い、きて……?」
いる、だけ?
どくりと、心臓が嫌な音を立てた。
「……ゾナール神官長……」
「「……っ!?」」
次の瞬間、インスの唇から零れ落ちた、感情のない音にシリウムだけではなくラティスも息を飲む。
「……アイン君に、会わせて下さい……」
「……それは……」
「無事なら、問題ないですよね?」
静かに告げられた言葉を拒否しかけるが、皆まで言わないうちに遮られる。
思わず口を噤んだシリウムは……
「ダメだ」
ただ一言、確固たる意志で却下した。
第1章第3話をお読みいただきありがとうございます。
今回は、判別神官長ラティスが登場し、インスに対して『宣誓』か、さもなくば情状酌量の一切ない神の裁きである『審判』か、という厳しい二択が突きつけられます。
神殿の厳格な規則に従い、あの日呪師長室で起きた出来事を語るインスですが、最後に見た凄惨な光景が彼に重くのしかかり……。
シリウムの口から語られるアインの安否。
しかし「生きている」とは言っても「無事」とは決して言わないシリウムの言葉選びに、事態の深刻さが伺えます。
アインへの面会を求めるインスの願いは、冷酷なまでに却下されてしまいますが、果たしてアインは今、どのような状態にあるのか……?
次回もお楽しみに!
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