第2話・幾重も重なる最悪の ~網目のごとき緻密さに
第1章 愉悦の闇が残す傷痕
第2話・幾重も重なる最悪の ~網目のごとき緻密さに~
皇宮にある神殿に属する医務殿……通称・皇宮医務殿の長官であるウスニー=メンテが、報告のためにわざわざ主神殿を訪れたと聞いた瞬間、シリウムは嫌な予感が限界突破した。
その少し前に搬送されてきた三人。
皇宮呪師のインス=ラントと、神殿で保護し、呪師としての修行を受けさせているアイン。
そして、なぜか皇宮呪師長のキプラ=ペンティス。
この三人を『隔離棟』への移送を指定してきた時点でキナ臭さが半端ない。
まず、インスは分かる。
数日前から所在不明になっていて、発見即処分も検討され始めていた段階。
当然、事情聴取が必要となるので、隔離棟で拘束した上での治療を、となるのも当然。
もっとも、運び込まれたインスの状況を見て、それだけではないことはすぐに分かったが……
次に、アインもまだわかる。
キプラに対して、指導者、監督者がいない状況下で攻撃魔法を使用した疑い、という報告と共に運び込まれていて……
実際にアインを目にした瞬間、むしろ逆ではないか? と疑問に思うほどの惨状と、それでも報告からの隔離棟行きの確定。
本当に、これで正しい采配なのか? という思いがぬぐえない。
一番分からないのは、アインに魔法で攻撃されたというキプラ。
全身ずぶ濡れで、それによる体温の微低下は見られるものの、意識がないだけでどこも問題はなさそうな状態。
なのに、超一級警戒対象としての隔離棟への移送。
どういうことだ? と首を傾げて当然で、続報となる報告を待っていたところでの訪問。
さらには、最上層部全員への招集命令。
もうこの時点で面倒ごとが確定。
その上で、実際にウスニーからされた報告は予想を上回る厄介さ。
まず、皇宮呪師長のキプラは、五年前の魔族による襲撃以来、つい先ほどまで魔族に憑りつかれていたのだという。
この前提条件の報告だけで全員が絶句した。
その上で、行方が分からなくなっていたインスは、そのキプラに憑りついた魔族によって囚われ、拘束されていたのだという。
これは状況的にそう判断されただけだとは言っていたが、まず間違いないのは実際にインスの診察と治療に当たったシリウムも認めるところ。
更に、本日、キプラに挨拶を求められて訪問したアインが、恐らくはインスを発見し、見者の目で魔族が憑りついていることを看破した。
魔族をキプラから引きはがそうとして、皇孫皇女のジャンヌ……ジニア・プローフ・ジャネット皇女が女神の至宝である神剣の封印を解いた際に使い手として強要され、その体内に入り込んでしまった水の神剣の力を使った。
その結果、強すぎる力の反動でまだ幼い、未熟な体はズタズタにされてしまい、のたうって血を吐く破目になった。
概ねこんなところだが、もうこれだけあればキャパオーバーもいいところ。
なのに、これ以外にもまだ色々とある。
すべての話を聞き終わる頃には、女性の神官長の中には魂が抜けかけている者もいて、事態の複雑さと厄介さに全員が頭を抱えていた。
とはいえ、まずは事実確認。
当事者たちからの話が聞けるようになったら、判別神官による『宣誓』を行って、真実を明らかにすることから、と決まり……
最初に意識を取り戻したのは魔族に憑りつかれていたというキプラだった。
肉体的には問題のない健康さではあったが、その精神的な負荷はいかほどのものであったのか……想像もつかない中で判別神官長のラティス=ペタリソスによる『宣誓』と、キプラによる……もはや『告解』や『懺悔』としか言えないような事実の提示。
それらが終わって、ラティスがインスのいる病室へとやって来たのは、結局翌日になってからだった。
五年前、ここ、エスパルダ聖皇国の皇宮を魔族が襲撃した。
対外的には「事故が発生した。」とされるこの事件は、生まれて間もなく大陸の守護神である女神によって祝福を受けた皇孫皇女、ジャンヌの命を狙ってのもの。
この襲撃で、ジャンヌの両親である皇太子夫妻や、当時、皇太子宮にいた数多の者が巻き込まれ、多くの犠牲者を出した。
この時、皇太子夫妻らを守るために奮戦したのが皇宮呪師長のキプラ。
最前線で指揮を執りながら、護衛の呪師らを鼓舞したのだが……結果は敗北。
その時からキプラは襲撃犯である魔族に憑りつかれ、身体を好き勝手に使われていたのだという。
この事件以降、人が変わったようだと噂されていたが、本当に中身が変わっていたからこそだったのだと判明し、戦慄することになった。
魔族は、あえてキプラを生かしたまま憑りついていたようで、身体の自由は奪っていたのに、意識や感覚はそのまま。
即ち、望まぬままに無茶な采配を繰り返して部下となる皇宮呪師らを死地に追い込み、その憎悪を一身に受けさせられていた。
特に、五年前はまだ皇宮呪師学校に入学したばかりだったインスが、十五歳で討伐訓練に参加させられ、そこでその才能を見せつけた直後からは、インスに対しての無茶ぶりが酷かった。
最初は様子を見ながらではあったのだが、一年もすれば半ば無理やり学校を卒業させ、正式な皇宮呪師として使い潰さんばかりの無理難題を吹っ掛け続けた。
それを、インスが何とか出来てしまったのもまずかった。
面白がった魔族はどんどん難易度を上げて行って、最近では本気で死にかけるような危険な任務への割り振りが集中しすぎていたほど。
本来であればインス一人に任せるような案件ではないような無茶な任務に、インス一人を送り込み、いつ死ぬか、それとも生き残るのかを愉しんでいた。
それを、自分の体の内側に押し込められた意識が、すべてを自分が行ったこととして見せられ続けていた。
よくぞ正気を保てていたものだと思ったら、狂わないようにされていたのだと告げられて絶句する。
魔族は、物質の器を持ってはいるが、精神生命体。
なので、その本質である精神に対しての影響力やその手法が人間をはるかに上回っているからこその芸当。
けれど、そのおかげでキプラは正気を保ったまま生き残り、今こうして真実を伝えることができていた。
第1章第2話をお読みいただきありがとうございます。
皇宮医務殿長官のウスニーからもたらされた報告は、神殿の最上層部全員が頭を抱え、絶句するほどにキナ臭く、厄介なものでした。
インスの失踪、アインの惨状、そして皇宮呪師長・キプラの不可解な状態。
それぞれのピースが繋がった時、浮かび上がったのは、5年前から皇宮に巣食っていた恐るべき『悪意』の存在。
情報量がキャパオーバーを引き起こしそうな回ですが、事態はまだ始まったばかり。
この想像を絶する真実を前に、シリウムたちはどう動くのか!?
次回もお楽しみに!
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【第9弾は完結まで執筆済みです。よければ最後までお付き合いください。】
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