第2話・凍えるココロに変わらぬ熱を ~虚ろに消える哀しみの~
【閲覧に関するご注意】
今話には、登場人物の「流血・吐血表現」および「過度な精神的苦痛・精神崩壊」を伴うショッキングな描写が含まれます。
極限状態の二人が辿る、非常に残酷で胸の痛む展開となります。
これまで以上にショッキングで苦しい回となりますので、流血表現や辛い展開が苦手な方、心身がお疲れの方は、どうかご無理をなさらず、心の準備ができたタイミングでお読みください。
第6章 破綻と瓦解の一線を
第2話・凍えるココロに変わらぬ熱を ~虚ろに消える哀しみの~
夕方、インスが戻ったから、と聞いて病室を訪れたアインは……
「…………ぇ………?」
ぐったりと横たわるインスの姿を目にして絶句した。
頬がこけ、涙の跡が目元に残る、土気色の顔をしたインスに驚いて、震える足取りでゆっくりと、ベッドに近づく。
途中で一度、左目を擦って、パチパチと瞬きを繰り返した。
案内してくれた、お昼に伝言を伝えに来てくれた神官呪師に手を引かれて、それで何とか歩けたけれど、途中で何度も膝が砕けそうになって、よろめくような危うい歩き方になってしまった。
「……ぃ、んす……さま……?」
恐る恐る声をかけるが、当然返事はない。
ただ、近づいたことでちゃんと息をしているのは分かって、それだけは少し安心した。
「……し……んか、さ……?」
アイン自身も真っ青になって、手を引く神官呪師を見上げる。
「……負担がかかる処置でしたので……でも、大丈夫ですよ……命に係わるものではありません……」
それは、嘘ではない。
「……………」
神官呪師の説明に、少し曖昧に頷いて、アインはもう一度インスに向き直った。
微かな、吐息のような呼吸を静かに繰り返し、深い眠りに落ちているらしいインスの顔にそっと手を伸ばして、目元に残る涙の跡を拭い去る。
触れた頬が冷たくて、ぞくっと背筋が冷えるけれど、繰り返される呼吸はちゃんと熱くて……
「……お疲れ様です……インス様……ゆっくり、休んでください……」
囁くようにそう告げたアインを、神官呪師がベッドに上げる。
「君も、ずっと機能訓練を頑張っていて、疲れているでしょう? 一緒に休んであげて下さい」
「……はい……」
まだ夜には少し早いけれど、言われた通りにもぞもぞとインスの隣に潜り込む。
「……おやすみなさい、アイン……」
「……はい……おやすみなさい。神官様……」
軽く目元に手を当てられて、瞼を閉じたアインは、予想していたよりもずっと、熱くなっているインスの身体にくっついてそのままゆっくり夢路を辿る。
そして、次に目が覚めた時……
「っ!! ダメっ!!」
「……っ!!??」
インスに鋭く叱られて、びくりと震えて伸ばしかかった手を引っ込める。
(……ど、して……?)
いきなり、それまで一度も聞いたことがないような声で叱られて、アインは一気に心臓が冷えるのを感じた。
どくどくと、身体中に響く鼓動が全身から温度を奪って行く。
「……ぃ、んす……さま……?」
泣きそうな、囁くような声が唇から零れ落ちる。
怒られた? 僕、何か、インス様に、嫌われるようなこと……
「……っ……」
縋るような眼差しに、インスはこくりと、息を飲みこむ。
なぜ?
……どうして?
アイン君がここに?
……嫌わないで……
「……いんすさま……?」
「……離れなさい……」
「……っ!!??」
もう一度、震える声で呼びかけたアインに、声音を緩めて、けれどきっぱりとインスは告げる。
大きく息を飲んで絶句したアインは……
「っ!! ……ゃ……!!」
やだ!!
声に出せない悲鳴を上げて、インスに抱き着いた。
「っ!!!!」
強引に抱き着いてきたアインの温度に……
「っ!? ……んっ……!!」
無意識に、魔力が動いてしまった。
ビクンと、アインの身体が弓なりに仰け反り、大きく目を見開く。
ぽろぽろと、大粒の涙が零れて、力を失った小さな体がそのままインスの上に崩れ落ちる。
「……っ!? ぁ……!!」
何が起きたのか、遅れて理解したインスの上で、びくびくと痙攣を繰り返し、寝衣の白を朱に染め上げた。
「……ぁ、ぃん……く、ん……?」
声を上げる事すらできずに、虚ろに開かれた瞳が、ぼんやりと虚空を眺める。
半開きの唇から、大量の赤が喘鳴するたびに吐き出されて、呆然と、ただ茫然とインスはその名を呟く。
「……ぁ……」
わたしが、こわした……?
「……わた、し……が……?」
震える手が、そうっと、アインに触れて、力を失ったその小さな体を、ベッドに横たえる。
ぐったりとして、意識を失ってしまっているようで、半開きの瞳は暗く濁って、唇の端から伝う朱色がアインの寝衣とシーツを染めた。
ピシピシと、ひび割れる音がインスの頭に響いて、知らないうちに涙が頬を伝う。
「……わ……たし、は……」
この器は、穢され、汚され、壊されて……
自分という存在は、何よりも大切で、守りたいものを傷つけ、苦しめ、壊してしまう……
(……もしかして……)
ふと、脳裏に浮かんだ考えに、堪えきれない吐き気がせり上がってきて、両手で口を押え、俯く。
「……っ。……ぅ……っ。おぇ……っ」
押さえた手の間から、濁った胃液が零れて、涙と入り混じってシーツを汚す。
(……も……やだ……いらない……)
そう思った直後。
ふつりと、糸が切れた操り人形のように、インスの身体から力が抜けて……
「……っ!!?? ……ぁ……」
薄く、意識を取り戻したアインが、驚いたように目を見開いて、掠れた吐息を漏らす。
軽い音を立てて、インスの身体がベッドの下に落ちて行った。
第6章第2話にお越しいただきありがとうございます。
今回は非常に胸が痛む展開となりましたので、本文を飛ばしてあらすじだけを確認してくださっている方もいらっしゃるかと思います。
彼らを見捨てずに様子を見に来てくださり、ありがとうございます。
過酷な処置で傷ついたインスを少しでも癒そうと純粋な想いで添い寝をしたアイン。
ですが、目を覚ましたインスは穢れた自分を許容できず、自己嫌悪からアインを強く拒絶してしまいます。
理由も分からずに叱られて、思わず縋ろうとアインが強引に抱き着いた結果、インスは無意識に魔力を動かしてしまい呪いが発動。
血を吐いて倒れるアインを前に、インスの心は完全に限界を迎え、自らの存在すらも否定し、絶望の淵へと沈んで意識を手放してしまいます。
深い闇へと落ちていく二人を待つものは……。
次回も引き続きお付き合いいただけますと幸いです。
【今後の連載スケジュールについて】
続きは明日12時から、毎日昼と夜、1日2話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!
【ミニコラム掲載中!】
活動報告にて、キャラクター紹介や用語の解説などを不定期で掲載しております。ぜひチェックしてみてください!
【読者の皆様へのお願い】
非常に過酷で胸の痛む展開が続いており、苦しい思いを抱える場面があります。
しかし、彼らがこの深い絶望の中でどう生き抜き、どんな選択をしていくのか、どうか最後まで一緒に見守っていただけますと幸いです。
もしよろしければ、彼らの痛みに寄り添うようなエールとして、ぜひ【☆☆☆☆☆】やブックマーク、感想などをいただけますと、執筆の大きな支えとなります。
次回も何卒よろしくお願いいたします!
【第9弾は完結まで執筆済みです。よければ最後までお付き合いください。】
【本作は「カクヨム」にも投稿しております。】
――――――
ノリト&ミコト
※番外編シリーズはこちら!
https://ncode.syosetu.com/s8365j/
※本編シリーズはこちら!
https://ncode.syosetu.com/s7443j/




