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皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞⑨~国家《しくみ》の虚構《うろ》に喪失《うつろ》の玉露《なみだ》を~  作者: norito&mikoto
第5章 ソレはスベテをハカイする

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第4話・皇帝執務室から ~特別処置が意味するは~

第5章 ソレはスベテをハカイする



       第4話・皇帝執務室から ~特別処置が意味するは~



 その部屋は簡素なイスとテーブルがあるだけの、どうやら聞き取りのための部屋らしい。



 椅子に座るよう促され、素直に腰を下ろしたインスに、案内してきた医呪(いじゅ)神官は少し待つよう言い置いて続きの部屋に消える。



「………………」 



 することもないので部屋の中を何とはなしに眺めるが、本当に、何も置かれていない。



 普通、筆記具やらちょっとした救急用具といったような……何らかの物品があっても不思議はないはずなのに……



「お待たせしました」


「……いえ……」



 微かに眉を顰めたインスは、戻ってきた医呪神官が手に持つ小瓶に首を傾げる。



「……申し訳ありませんが、まずはこちらを飲んでください。少し効果が出るまでに時間がかかりますので、その間にご説明いたします」


「……はあ……」



 差し出された小瓶は特に特徴のない細長い茶色の丸瓶。


 受け取って、困惑しつつも封を切り、促されるままに飲み干す。



 少しトロっとした甘い、桃のような味がする薬液で……



(……一体、何の薬……?)



 今まで飲まされた医務殿の謎薬の中で一番まともな味。



「……それでは、ご説明します……」


「……はい……」



 インスが全部を飲み終わると瓶を回収し、テーブルの上に空の瓶を置いて、医呪神官はおもむろに口を開いた。



「今回、皇帝執務室から、ラント呪師(じゅし)に対して特別処置を受けるようにとの命令が下りました」


「……皇帝執務室から、命令……?」



 思いもかけないところからの、思いもかけない言葉に、インスはパチパチと瞬きした。



 なぜ、皇帝執務室?


 皇宮呪師殿(こうぐうじゅしでん)でも、医務殿でも、皇城でもなく……



「……ラント呪師は、昨年秋頃から頻繁に生死の境を彷徨う事態に陥っておられますね?」


「…………ええ、まあ……」



 確認に、不本意ながらも頷く。



 間違いなく、昨年の秋ごろから何度も死にかけて医務殿に運び込まれているので、否定のしようがない。


 もちろん、インスだって好きでそんな状況に陥っているわけではないのだが……客観的事実として何度も入退院を繰り返している。



「……そして、今回の入院期間が終わった後も、同様の危険が考えられる任務が予定されている、と申し送りがありました」


「………へぇ………」



 まだ決定ではないはずなのに、もうそんな申し送りが……



 若干、インスの声が冷ややかさを宿したが、同時にそうだろうな……という思いもある。


 だからシリウムも、インス自身も、アインさえもが、そのための調整を強要されている訳で……



(……今頃、ゾナール神官長が報告前に決定するなと怒鳴っていそうですね……)



 奥殿で報告会が行われている筈なので、そんな申し送りを聞いたら怒り出すのは目に見えている。



「……時に、ラント呪師は『呪師の(しゅ)の保存義務』に関する条項はご存じですか?」


「……はい……?」



 いきなり何の話だ? と首を傾げるインスに、医呪神官は心底申し訳なさそうな顔をした。



「……皇帝執務室からの命令内容が、それなのです……」


「…………は……?」



 言われた言葉の意味が分からない。



 それ? それって、どれ?



「……呪師の種の保存義務に関する条項は、特に優秀と認められる呪師に対して、その血筋の継承を命じる条項です……本来、該当呪師の同意を得て行われるものなのですが……」


「……っ……!?」



 どくりと、急に心臓が大きく脈打つ。



「……ぇ……?」


「……ああ、効果が出て来たようですね……」



 カッと、身体の奥が熱くなり、息が乱れる。


 胸元を強く掴んで妙な感覚を必死に堪えるインスを、どこか憐みの籠った眼差しで見て、医呪神官が呟いた。



「……さ……っき……」


「ええ。先ほど飲んで頂いた薬の効果が出てきたのです……これから行われる処置に、必要になりますから……」



 椅子に座っていられなくなって、ぐらりと倒れかかったインスを抱き止める。



「……っ!?」



 触れられた瞬間、身体の奥から突き抜けるような熱と、異様な感覚にびくりと大きく震えた。



(……なにを、のまされた……?)



 毒? いや、恐らく違う。


 確かに、耐えがたいほどの熱を感じるけれど、身体の奥で何かが蠢くような異様な感覚と、激しくなる鼓動と、上がる息を押さえようがないけれど、毒を飲まされたような苦痛はない。


 それに、毒を飲ませる理由も……多分、ないはず……



「……申し訳ありません……我々も、皇帝執務室からの命令には逆らえないのです……」


「……っ……!?」



 気が付くと、続きの部屋から他に二人、医呪神官が出てきていた。



 身体の異常に呻くインスの腕を取って、抱き起こす。



「……っぁ……!?」



 堪えきれなかった声が微かに漏れて、その声に自分で驚く。



 医呪神官たちは無言で頷き合い、インスを隣の部屋へと運び込む。



「……ぇ……?」



 処置室と思われるその部屋のベッドに横たえられて……戸惑う間もなく()()が始まった。


第5章第4話をお読みいただきありがとうございます。


インスを待ち受けていた「特別な処置」。


それは、エスパルダ聖皇国の頂点にほど近い「皇帝執務室」から下された、あまりにも冷酷な命令でした。


「優秀な呪師の血を残す」という国家の都合の前に、個人の意思は完全に無視され、抗いようのない絶望の淵へと強引に引き込まれます。


【閲覧に関するご注意】


次話以降、国家という巨大な権力による理不尽な暴力や、人権・尊厳を蹂躙するような展開となります。


また、それに伴い、登場人物が精神的に追い詰められ、意図せず互いを傷つけてしまうような悲痛な描写も含まれます。


ショッキングな内容となりますので、そのような展開が苦手な方は閲覧にご注意ください。


【今後の連載スケジュールについて】


続きは本日22時から、毎日昼と夜、1日2話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!


【ミニコラム掲載中!】


活動報告にて、キャラクター紹介や用語の解説などを不定期で掲載しております。ぜひチェックしてみてください!


【読者の皆様へのお願い】


この先、過酷な運命に翻弄される彼らの行く末を、どうか最後まで見届けていただけますと幸いです。


もしよろしければ、ぜひ【☆☆☆☆☆】やブックマーク、感想などで彼らへのエールを送っていただけますと、作者としても大変励みになります。


次回も何卒よろしくお願いいたします!


【第9弾は完結まで執筆済みです。よければ最後までお付き合いください。】


【本作は「カクヨム」にも投稿しております。】


――――――

ノリト&ミコト


※番外編シリーズはこちら!

https://ncode.syosetu.com/s8365j/


※本編シリーズはこちら!

https://ncode.syosetu.com/s7443j/


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