第1話・不穏な思考に気配を察して ~囁く支配の微熱に浮かされ~
第5章 ソレはスベテをハカイする
第1話・不穏な思考に気配を察して ~囁く支配の微熱に浮かされ~
その、狂おしいほどの情念を聞いて……
(……ぼくだって、おなじ、なのに……)
目を閉じて、感情を押さえ込んで、アインはインスの胸に顔を押し付けた。
(……目、見えなくしたら、いいのかな……?)
見者の力が、感情のままに、魔力を魔力のまま動かしてしまう力が、見ることによって引き起こされてしまうなら、そうするのがいいのかもしれない、とふと思う。
けれど……
(……でも、そうしたら、インス様、怒るかな……?)
左目は見えなくなった。
魔族のヒトに目の魔力を取られたから……
なら、右目も出してしまえば、もう感情のままに魔力は動かない。
でもそれは、もう二度と、インスの姿を見ることもできなくなる、ということで……見者でなくなったら、魔法を勉強する必要もきっとなくなって……
(……っ。ダメだ……)
居られなくなる、ということだと気付く。
黙り込んでしまったアインを強く抱きしめたまま、インスはどこか不吉な予感に背筋が寒くなる。
「……アイン君……」
「……っ!? ……は、ぃ……」
まさかアインが、残る右目を抉り出すことを検討した、なんて分かるはずもないが、何か、またよくないことを考えている気配は敏感に察知する。
声をかければ案の定、びくりと大きく体を跳ねさせて、震える声が微かに応えた。
「……お願いですから、自分を大事にしてください……」
「……はい……」
真剣に、本当に真剣に言っているのに、アインの返事がとても小さくて、不安がどんどん大きくなる。
「……とりあえず、呪いの検証を行うにしてもすぐではない」
そこに、シリウムが割って入るように声をかけた。
インスはアインからシリウムへと視線を移し、アインは目を閉じてインスの胸に顔を押し付け、黙ったまま小さく頷く。
「アインの回復を待ってからになる。ただ、退院前に検証は行う。それから、時間の余裕が少しでもあれば、実際の遠征前にアインの野営訓練が必要だろう……本来、十五歳以上が受ける実践訓練だが、恐らく勅令で特別許可が下りるはずだ」
そこまで言ってシリウムは大きく溜め息を吐いた。
隣でチェスパスも眉を顰めている。
どれだけアインに『特例』が適用されるのか……正直読み切れない。
最悪、実戦となる討伐訓練までさせられる可能性まで出てきた。
(しかし、いくら何でも幼すぎる……呪師学校の生徒が行う本来の討伐訓練の形式を課すのは酷だぞ?)
最初のひとつとなる命を絶つのは、直接手で、携帯した小型ナイフなどの近接武器で行うこと。
命の重みを体感させるための絶対の掟ともいえるそれを、精々五歳ほどの子どもにさせる?
無理だろう……
いくらアインが、半ば無理やり命のやり取りという一線をすでに越えさせられているとはいっても、だからこそ、トラウマを直撃すると分かっていて選択させたとはいっても……
(……訓練と、実戦はまた別だ……)
己の手で肉を裂き、骨を断ち、血を浴びて、命を摘み取る。
それをさせるには……
「「「「……………」」」」
押し黙った一同がアインを見つめる。
視線を感じながらも、アインはインスの胸に顔を押し付けたまま。
いまだに目を開こうともしていないが、流石にそれは見えないので、誰にも気づかれてはいない。
「……まあ、今、考えても分からないことはいい……」
チェスパスが思考を振り払って言えば、頭の痛い問題が山積みの中でのこと、全員がこくりと頷く。
「よし、アイン。お前は少し休め……インス。お前も、一旦自分の病室に戻れ」
「……はい……」
「……わかりました……」
切り替えるようにシリウムに命じられて、アインはこくりと頷き、インスも不承不承同意する。
「……それじゃあ、アイン君……ゆっくり休んで下さいね?」
「……はい……インス様も、ご無理、なさらないでください……」
そうっと胸元から引きはがしたアインにインスが微笑めば、アインは目を細めるようにして微笑み返す。
ゆっくりとアインをベッドに横たえて、柔らかく頭を撫でたインスは……
「(……君は、私のものですよ……)」
「……っ……!?」
耳元に唇を寄せ、頬に口づけるようにしてそう囁くと、ふわりと笑って立ち上がる。
息を飲んだアインが大きく目を見開いて、涙を浮かべてこくりと頷く。
「おやすみなさい。アイン君」
「……はい……おやすみなさい、インスさま……」
ぽっと、アインの頬に赤みが宿ったのを目にして……
(((……何を、やった(のでしょう)……!?)))
様子に、見守る大人たちがひそかに戦慄していることを、二人は知らない。
第5章第1話をお読みいただきありがとうございます。
お互いを大切に想うあまりに、少しばかり(?)危うい思考へと傾いてしまうアインと、その不穏な気配を鋭く察知するインス。
自分が我慢すればいいと思い詰めるアインの健気さと危うさ、そして彼を絶対に失いたくないインスの強い想いが交錯。
一方で、幼い子どもには過酷すぎる今後の訓練や現実を前に、シリウムやチェスパスといった大人たちも頭を抱え、沈痛な思いを巡らます。
果たして彼らはこの絶望的な状況に向け、どう準備を進めていくのか?
次回もお楽しみに!
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【第9弾は完結まで執筆済みです。よければ最後までお付き合いください。】
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ノリト&ミコト
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