第5話・純真無垢なる ~極地を知って沈めるは~
第4章 冷徹なる支配者の
第5話・純真無垢なる ~極地を知って沈めるは~
死にたくないなら死ぬ気で努力しろ、とは言ったものの、流石にアインはまだ意識を取り戻したばかりで何もできないに等しい。
一応は食事と、この後、少しずつ身体を動かして……まずは自力で起き上がれるようにするところから。
正直、先が長すぎる。
なのに、時間は待ってはくれないのだから、シリウムたちの目も死んだように濁っていた。
「……あとは、そうだな……呪いに関しての検証も必要だろう……」
「……そうですね……」
腕を組んで、重々しい口調で告げたチェスパスに、インスが静かに頷く。
アインを撫でる手がほんの一瞬止まって、深く息を吐くような溜め息が零れた。
「……けんしょう……?」
小さな声で繰り返したアインはちょっと不思議そうに首を傾げて、インスを見上げる。
「……魔法を使おうと、魔力を動かすと、呪いの効果で苦痛に襲われる……というお話しですけれど、どの程度で呪いが発動して、どの程度の痛みや苦しさを感じるのか知っておかないと……どうしても、魔法を使わなければいけない時に困る、というお話しですよ……」
「……? ……」
困ったように微笑むインスの説明を聞いて、アインはますます首を傾げた。
そして、真っ直ぐな瞳でインスを見て、口を開く。
「インス様しか使わないですよね?」
「「「「………………」」」」
ぴしり、と音を立てて室内の空気が凍る。
困ったように微笑んで、アインを撫でていたインスの手も止まり、シリウムやチェスパスのみならず、ラティスでさえも驚きを露わにしてアインを見つめた。
「……え? ……え?」
大人たちが全員動きを止め、自分を凝視してくるものだから、アインは怯えたようにきょろきょろと見まわし、きゅっと体を小さくする。
ちょっと顔を顰めて、左目を一度、擦った。
「……ちなみに、どうしてそう思うのですか……?」
極上の笑顔を浮かべたインスがようよう問いかけると、その声でシリウムたちも再起動してアインの返事を待つ。
「え? だって、僕は、まだ見習いで、できることも、全然なくて……それに、勝手に使ったら、ダメです……だから……」
インス様が魔法を使って、僕が我慢すればいいだけですよね?
ごく当たり前のようにこぼれ出たアインの言葉に、インスはすっと顔を上に向け、目を閉じる。
ゆっくりと息を吸って、吐いて、何とか魔力を動かすことがないようにと心を沈めた。
それから、もう一度アインと顔を見合わせる。
ちなみに、アインのその発言にシリウムとチェスパスは頭を抱え、ラティスは軽く目を見開いている。
「……アイン君、忘れているかもしれませんが、魔力を動かすと呪いは発動してしまいます……」
「……? はい……」
先ほど言われたのと同じ言葉を繰り返されて、アインはきょとんとしながらすんなり頷く。
インスの顔からも声からも感情が抜け落ちていて、アインは「いつもとちょっと違う……。」と戸惑いながらも話はちゃんと聞いている。
「それと、私が同行することになりますから、私の指導・監督下で魔法の使用は許可されます」
「え? でも、僕が使うより、インス様が使う方がいいですよね?」
見習いが使うよりも正式な皇宮呪師が魔法を使う方が良いのは確かだ。
けれど……
「……アイン君。私は皇宮呪師ではあっても、神官呪師ではないのです……白魔法は学んでいません」
「……ぁ……」
真顔で言われてハッと気づく。
そうだ、自分は神官呪師としての勉強も、皇宮呪師としての勉強もしているから全部知っているけれど、インス様は皇宮呪師……黒魔法と精霊魔法の使い手だ。
「白魔法が必要となる場面では、アイン君しか使えません」
「……………」
きっぱりと言われて、アインの顔から血の気が引いた。
けれどインスは、慰めるような動きはせず、真顔で見つめたまま、淡々と言い聞かせていく。
「それと、アイン君は見者です。魔力を魔力のまま使える存在です……しかもその発動方法は……視認すること……ただそれだけです……」
「……っ……」
咄嗟の瞬間に、魔力を動かしてしまう可能性。
それが高いのはアインの方。
もちろん、その危険を誰よりも理解しているから、ずっと、必死になって制御の仕方を勉強してきたけれど……
(……ぼ、く……さっき……)
それでも、ほんの一瞬、微かにでも動いてしまうことは……つい先ほどもあったばかり。
「……なので、私だけが魔法を使うのだから、知る必要はない、というお話にはなりません……それに、もし、万が一、アイン君が痛みに耐えきれなくなって、気を失ってしまったら……それは私に跳ね返ってきます……戦闘中にそんなことが起こったら、大きく隙を作ることになってしまうのは、分かりますね?」
「………………っ」
こくりと、頷くアインの目が潤む。
その目を見つめて、インスは決定的な言葉を口にした。
「……アイン君は、私を殺したいのですか……?」
「……っ!!!???」
「インスっ!!」
大きく目を見開いたアインの目から涙が零れ落ち、息を忘れて硬直する。
流石に言い方が直接的すぎるとシリウムが咎めるように呼ぶが、インスはアインから目を逸らさない。
「……どうなんですか……?」
「……ち……ちがっ……! ぼくは……っ!!」
静かに問うインスに、焦ってアインは声を上げる。
「なら……」
「……っ」
言いながら、そっとインスはアインの頬に片手で触れて、柔らかく撫でた。
「……自分が、我慢すればいい、なんて……言わないで下さい……私は、君を……っ」
「……いんす、さま……?」
インスの声が震えて、表情が崩れ、泣き出しそうに歪んで、アインは戸惑ったようにインスを呼ぶ。
ぎゅっと、インスはアインを抱きしめる。
欠片も損ないたくはないのです……
熱のこもった吐息が、アインの耳元で囁いた。
第4章第5話をお読みいただきありがとうございます。
呪いの検証についての話し合いの中で、アインが口にした純真ゆえの「自己犠牲」の提案と、それに凍りつく大人たち。
「インス様が魔法を使って、僕が我慢すればいいだけ」と当たり前のように言うアイン。
それに対し、インスはあえて「私を殺したいのですか?」という厳しい言葉で諭します。
その言葉の裏にあるのは「欠片も損ないたくない」という、アインに対する切実で深すぎる愛情で……。
互いを大切に想うがゆえに極端な思考に走ってしまうアインと、それを全力で食い止めようとするインス。
二人の切ない絆と、過酷な運命……。
この先、二人はどう歩んでいくのか?
次回もお楽しみに!
【今後の連載スケジュールについて】
続きは本日22時から、毎日昼と夜、1日2話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!
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活動報告にて、キャラクター紹介や用語の解説などを不定期で掲載しております。ぜひチェックしてみてください!
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また次回もどうぞよろしくお願いいたします!
【第9弾は完結まで執筆済みです。よければ最後までお付き合いください。】
【本作は「カクヨム」にも投稿しております。】
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ノリト&ミコト
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