第2話・再会は混乱と覚悟を宿し ~心からの想いを伝えて打つ布石~
第4章 冷徹なる支配者の
第2話・再会は混乱と覚悟を宿し ~心からの想いを伝えて打つ布石~
アインが寝かされている病室にたどり着き、静かに室内へと案内されたインスは、ベッドに横たわったままの幼子の姿に、一瞬顔を顰めた。
本当に、極僅か、微かに頬が動いただけだったけれど、他人に敏感なアインには気づかれてしまったかもしれない。
先日の一件からすでに二十日を過ぎた。
アインが目覚めたのは昨夜で、今もまだ白く青ざめて、血の気の失せた顔。
少し呼吸も苦しげで、空気が足りないと感じるのか、時折引き攣るように喘いで、小さく咳もしている。
なのに、ふわりと笑みを浮かべて、本当に嬉しそうに笑うものだから、インスも必死に普段通りの表情を作って、そっと枕元に膝を着く。
「っ。……アイン君……」
「……インス、様……もう、動いて……?」
呼び掛けようとして、ほんの一瞬息が詰まる。
けれど、アインは心配そうにインスの顔を見つめて、まるで自分のことなど何も気にする様子がない。
「………………」
「? インス様……?」
微笑んだまま硬直したインスを、不思議そうに見上げるアインの様子に……
(……どういう、ことですか……!?)
インスは無言のままそっと頭を撫でて、チラリと一瞬背後を振り返った。
明らかに、アインは何かを決めている。
(知らん! 私はお前と一緒にいただろう!!)
(すまん! 何か、妙な考えに至ったらしい!!)
視線を向けられた医呪神官の二人、シリウムとチェスパスは無言での問いにそれぞれ無言で返す。
もちろん、無言なので正確な意思疎通はできなかったが、どうやらあまりよろしくない考えに至っているらしいというのは、アイン自身の様子から理解できた。
ちなみにラティスは表情をピクリとも動かすことなく様子を見守っていて、流石というべきか、流石にというべきか迷うところ。
どちらにしろ、彼女は医呪神官ではなく判別神官。
医者の領分に口出しすることはない。
「……インス、さま……お、こ……って……」
「どうしてですか?」
不安そうに声を揺らすアインに、普段通りの微笑を向けて、インスは躊躇いなくアインを抱きしめた。
「……っ……。ぼ、く……っ。さっき……」
「アイン君が驚くのも無理はないでしょう? それに……アイン君は知らないかもしれませんが、私もアイン君に負担をかけてしまいましたから……」
腕の中で震える幼子が、まるで懺悔するかのように絞り出した囁きに、インスは何でもないことのように言った後、眉を下げて自身の罪も告白する。
「……ぇ……?」
微かに首を傾げるアインの頭を撫でて、そっと、息を吐く。
間違っても、魔力が動いてしまわないように気持ちを落ち着けて、少しだけ体を離してアインを見つめた。
子供特有の大きな瞳を涙で濡らして、パチパチと瞬きするアインは……これだけ感情を揺らしているのに、魔力の揺らぎが一切ない。
その、驚異的な制御能力が、初級や中級の範囲でしかない魔法を、上級や高位並みの効果にまで高めることがあるのをインスは知っている。
(……きれいなまま……なのに、魔力を感じない……)
見つめた瞳の片方に、以前は感じた魔力のきらめきを感じ取ることができなくて、いたわるように指先でアインの左目の辺りを撫でた。
話に聞いていた通り、眼球にも、目の周辺の皮膚にも、どこにも傷は一切ない。
見えていない、なんて信じられないほど澄んだままの、右と左の違いが分からない、きれいなままの瞳。
「……ごめんなさい……」
「……えっ!?」
堪えきれなくて、顔を歪めたインスが絞り出した、震える吐息が伝えた謝罪に驚く。
「……っ……!?」
「……ありがとう……」
アインが何かを言うより早く、もう一度、今度は先ほどよりも強く抱きしめたインスが、アインの耳元で囁いた言葉にますます驚いて、瞬きすらできずに硬直したアインは……
なぜ、謝られたのかはもちろん。
なぜ、礼を言われたのかも分からない。
けれどインスからすれば、自分が囚われたせいでアインが酷い目に合って……
アインが見つけて、すぐに応急処置をしてくれたから助かっているのだから、謝罪をするのも、礼を伝えるのも当然の話。
「……君は、正しい選択を、してくれたから……」
「……っ!? ……インス……さま……?」
泣き笑いのような表情で、吐息に熱を宿して告げたインスに、一瞬息を飲んだアインも泣き声のような声で返す。
「……怖かったでしょう? 痛くて、苦しかったですよね……? 何もしてあげられなくて、ごめんなさい……」
「……っ……!」
囁くように言われて、ぽろぽろと涙を零しながら、アインは無言で首を横に振る。
「……い……んす……さま、が……っ」
ぎゅううっと、アインも必死にインスに抱き着く。
まだ力の殆どはいらない、重い身体に力を入れて、全身でその存在を確かめる。
「……ご、……ぶじ、で……よ……っ」
よかった……
吐息に溶ける安堵の言葉を読み解いて、インスは無言でアインを撫でる。
伝えた言葉に偽りは一切ないけれど、それでもまだ、隠した本心もあって……
(……ここからが、本番、ですね……)
妙な考えに至ってしまっているアインの、その考えを聞き出して、覆させる。
すべてはそのための布石だ。
(……私は、君に、一切の負担をかけたくは、ないのですよ……)
ましてや、それが自分のせいで引き起こされるだなんて、どうあっても許容できない。
なのに……
(……相互に苦痛に襲われる呪い、ですか……)
何とも厄介なものを仕掛けられてしまったものだと歯噛みする。
どの程度で、どうなるのか……それを、知らなければいけない、という事実が、胸の奥に鉛を押し込まれるような重さを感じさせていた。
第4章第2話をお読みいただきありがとうございます。
約20日ぶりにようやく意識を取り戻したアインと、インスの再会の一コマです。
まだ顔色も悪く、息も苦しそうなアインですが、インスの姿を認めてふわりと嬉しそうに微笑みます。
しかし、インスはその痛々しい態度から、アインが「何か間違った決意」を固めていることを即座に察知して……。
背後の神官長たちと無言のやり取りを交わしつつ、アインを優しく抱きしめ、心からの感謝と謝罪を伝えるインス。
互いを大切に想うがゆえにすれ違う二人の切ないやり取りと、インスの深すぎる愛情……。
アインの危うい思考を覆すため、インスはこれからどのような「布石」を打つのでしょうか?
次回もお楽しみに!
【今後の連載スケジュールについて】
続きは明日12時から、毎日昼と夜、1日2話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!
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活動報告にて、キャラクター紹介や用語の解説などを不定期で掲載しております。ぜひチェックしてみてください!
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また次回もどうぞよろしくお願いいたします!
【第9弾は完結まで執筆済みです。よければ最後までお付き合いください。】
【本作は「カクヨム」にも投稿しております。】
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