第1話・主観と客観 ~隔たり過ぎた現実の裏~
第4章 冷徹なる支配者の
第1話・主観と客観 ~隔たり過ぎた現実の裏~
知りたくもない機密を共有されて、色々と思うところもあるが、とりあえず一旦話はついたと判断したインスは、改めてアインに会わせて欲しいと希望する。
「少し待て、今、聞きに行かせている」
もちろんシリウムもその希望は想定済み。
インスを一旦病室に戻し、話をしている間に聞きに行かせていた。
丁度そう言ったところで、聞きに行かせた……インスの機能訓練を担当していた神官呪師。部屋まで運ぶのを手伝わせたついでに使いとして出していた……が戻ってきて、部屋の外から声をかけてくる。
確認しに行ったシリウムが一言二言、小声でやり取りし……
「よし、行くなら立て、歩け」
「……あなたは鬼ですか……」
振り返ってそう命じたシリウムに、溜め息を隠さず返したインスは、それでも素直に立ち上がる。
まだ完全に回復したとは言い難いが、先ほど、恐らく呪いの影響であろう衝撃を感じた時の不調はマシになっていたので、多少ふらつきはするが歩けないこともなさそうだった。
「お前たちは早急に体力をつける必要があるからな……できうる限り機能訓練は増やす。お前は食事をもっと食え。アインも、もう少し回復してきたら、まずは食事量を増やさせないとな……」
二人とも貧弱すぎる。
「無茶言わないで下さい……日に何度、飲食させられてると思っているんですか……!」
顰め吊らしい表情で言い切るシリウムに青ざめて反論するインスは、促されるまま、壁に片手を着いてゆっくりと歩く。
「……確か……六回か?」
「普通、食事はせいぜい二回か三回ですよね? 倍以上なんですけれど?」
指折り数えて応えたシリウムを睨む。
「きちんとした食事は三回に押さえているだろう? 後は間食程度だ」
「どこがですか! それ以外にも、水分補給なら普通に水をください……」
「栄養補給も一緒にした方が効率がいいだろう? 筋力もつく」
「バランスを考えて下さいよ……」
「ちゃんと栄養のバランスも、水分量のバランスも考えられている。というか、文句が多いな……味を完全に諦めるなら、多少減らしてやってもいいが……」
「……味、多少……?」
ワチャワチャと話しながら歩いているせいか息が切れて眩暈がしてきた。
いや、それともこの噛み合わない会話で起きた眩暈だろうか?
シリウムは食事は三回に押さえている、と言っているが、まず、その三回の量がおかしい。
どう見ても一回で三回分ほどはありそうな量を完食させられている時点でおかしい。
更に、間食程度だと言っているが、それだって普通の食事の二倍ほど……間食なんてかわいらしいものではない。
優雅にお茶とお菓子を食べるようなものではなく、普通食が二人前ほど詰め込まれる。
すべての食前食後には消化吸収を助ける薬とかいうものを飲まされて、そのおかげか……あるいはそのせいか……食べれてしまうのだからなお怖い。
(……飼育されている気が……)
その目的が、文字通り太らせて、死出の旅路への同行なのだから、畜産と変わりない気がしてしまう。
機能訓練中の水分補給として無理やり飲まされるあの緑色の液体だって、栄養補給ドリンクとか言っているが、普通に水で補給させて欲しい……あれ? そういえば、普通に水を飲めるのって……
「……朝……だけ……?」
「何がだ?」
早朝、叩き起こされた時にだけ、ぬるめの白湯を飲ませて貰える程度で、あとはすべて何かが混ざっているような気が?
気づいた瞬間青ざめる。
思わず呟くと、シリウムが訝しげに聞き返してきた。
……水そのものの補給と、何かが混ざった水分の補給とは同じなのだろうか?
(……やっぱり、殺されかけている気が……?)
足が止まってしまったインスが、真っ青な顔でシリウムを見る。
「どうした? 行かないのか?」
「……行き、ますけれど……」
何でもなさそうな表情が心底怖い……そう思ってしまったのは被害妄想か?
もう少し先だ、と促され、のろのろと歩みを再開させる。
出荷前の家畜の気持ちが、何となくわかった気がした。
ちなみに、インスは元々食が細い。
いや、正確に言うのなら、十八歳の青年としては少なめである、という程度。
だが、皇宮呪師は意外と大食漢が多い。
理由は簡単で、現場に出る任務が多いから。
魔法を使うのにも単純に魔力量があればよい、と言う訳ではなく、使用に耐え得る身体は必須。
気力、体力、精神力と必要になる要素は多いので、特に討伐などに出る事が多い……いわゆる実務方の皇宮呪師は食事でしっかりと補給を行わなければ支えきれなくなってしまう。
インスの食事量は、それとは真逆で、研究職に就く文官などより少なめ。
正直、よくそれだけであれほどの魔法を連発できるものだ……と、皇宮呪師の間でも謎として噂されている。
なので、インスの普段の一回の食事量から見れば、確かに三倍だとか二倍だとかになってはいるのだが……
(あの程度、討伐に携わる呪師なら普通だぞ? というか、あの倍は食べるぞ? まあ、流石に、騎士団の連中ほどではないが……)
普段から体力勝負の騎士団の者なら、普通の皇宮呪師が一日に食べる量の三倍は食べる。
それと比べればかなり加減はしているし、何よりただ太らせることが目的ではない。
(体調を整えさせて、体力を付けさせるのが目的なのだから、ただ量を取らせているわけではないのだがな……)
もちろん、ある程度の脂肪量も必要なのは間違いない。
なので当然、今後も量が減らされることはないのは、インスにとって不幸なのか、それとも……
少なくとも、シリウムを始めとする医務殿の者たちは皆、彼らを少しでも確実に生き延びさせることができるようにと、全力で挑んでいるだけだった。
第4章第1話をお読みいただきありがとうございます。
絶賛入院中のインスと、彼の主治医(?)であるシリウムとの道中での一コマです。
これから待ち受ける過酷な旅路に向けて、「とにかく体力をつけろ!」とスパルタ指導に燃える医務殿の面々。
一方、普段から食の細いインスにとっては、毎回の食事がまるで「出荷前の家畜」を育てるかのような苦行となっているようです。
真面目な顔で「味を諦めるか、量を今の倍にするか」という究極の選択を迫られ、それに本気で命の危機を感じて青ざめるインス。
過酷な運命に向けて着々と「調整」が進む中、インスはアインの待つ病室へと足を進めます。
漸くアインと会えるようですが……?
次回もお楽しみに!
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【第9弾は完結まで執筆済みです。よければ最後までお付き合いください。】
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ノリト&ミコト
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