第2話・二人を繋ぐ極悪な ~傷だらけの心を抱いて~
第3章 隠れた傷と疼く心に
第2話・二人を繋ぐ極悪な ~傷だらけの心を抱いて~
過呼吸を起こしたアインが少し落ち着くのを待って、チェスパスは話を続ける。
「……魔族はお前の左目から、見者の力の証ともいえる魔力を奪って行った……」
ゆっくりと呼吸をしながら話を聞くアインは、それと左の目が見えないこととがどう繋がるのか、まだ完全には理解できない。
「魔族が言い残していったという言葉から推察するに、見者の目には、他の者より多く魔力が宿っていて、それを取り出すと目の色と同じ結晶体になるようだ」
その、魔力の結晶体を瞳の宝石といい、それができるのは見者だけだというのだから、そういうことなのだろう。
「我々はお前が両目を失明している可能性があると踏んでいた……魔族によって、その瞳の宝石とかいうものを奪われたことは確定していたからだ」
「…………」
話を続けるチェスパスが何を言いたいのかを、アインも何となく悟る。
「……皇子は心の宝石の他に二つ宝石を奪われたと思われる……お前は左の目から一つだけ宝石を奪われた……皇子が両目を失明しておられるのは、両目の瞳の宝石を奪われているから……お前が、右目だけは見えているのは、左目の瞳の宝石しか奪われていないからだろう……」
その予想を裏切ることのない宣告に、アインは黙って唇を噛む。
「……お前が、完全な失明に陥っていなかったことは不幸中の幸いだろう……が、それだけではない……」
「……?」
急に、チェスパスの声が強張り、シリウムとラティスにも緊張感が走る。
様子に、他に何があるのだろう? と首を傾げたアインも一気に緊張した。
「魔族は、お前とラント呪師に呪いを刻んで行った」
「………………ぇ?」
のろい? のろいって?
「お互いが、魔法を使おうと、魔力を動かすと……相手が苦痛に襲われると言うものだ」
「……? ……」
それが、のろい?
首を傾げる様子に、あまり理解できていないようだと分かって眉を顰める。
「……っ!?」
そんな表情の変化には敏感に察して怯えるのに、どうして肝心なことは理解が鈍いことがあるのか……
「分からないか?」
「……はい……ごめんなさい……」
息を吐いたチェスパスに聞かれて、身を竦めるようにしたアインは震えた小さな声でこくりと頷く。
「……つまり、お前が魔法を使おうとすればラント呪師が苦痛に襲わ……」
「えっ!?」
皆まで言うよりも早く、愕然とした驚きの声がアインの喉を衝く。
「最後まで聞け」
「っ! ご、ごめんなさい……」
若干、強い口調になったのは否めないが、びくりと震えたアインが目に涙を浮かべるのを見てそっと、感情を逃がす。
「お前が魔法を使おうとすればラント呪師が、ラント呪師が魔法を使おうと知ればお前が、それぞれに苦痛に襲われ、相手側がその痛みに耐えきれず、意識を失ったりした場合には、魔法を使おうとした側に苦痛が逆流する」
「…………っ!?」
淡々とした説明に息を飲んで、アインの身体から力が抜けていく。
それは、つまり……
「……ぼくが、魔法を使うのも、ぼくが、耐えきれなくなるのも、どっちも……」
インス様を、苦しめてしまう……
呆然と呟くアインの目から、ぽろりと涙が零れ落ちる。
あの、やさしいヒトを、ただ、苦しめる存在に……なって、しまった……
「……ど……して……」
そんなこと、望んでないのに! どうして!!
感情の乱れに、魔力が反応しかけて……
「……っ!!」
ダメだ! と咄嗟に強く、目を瞑る。
「「「……っ……!?」」」
アインの魔力が動く気配に、チェスパス達も咄嗟に身構えるが、ぎゅっと、目を閉じたアインの魔力は暴発することもなく……
「……っ!?」
ハッとしたシリウムが素早く部屋を飛び出す気配に、アインもハッとして、意識して深呼吸を繰り返す。
今の、暴発しかけた魔力の動きも、インスに苦痛を与えた可能性があって……
青ざめて震えながら、必死に押さえ込んだ感情が、ぽろぽろと涙になって零れ落ちるが、ほんの一瞬の騒めき以上の魔力の動きはない。
「……ぃ……んす……さま……っ。……ご……っ……」
ごめんなさい……
小さく嗚咽を繰り返すアインを見つめ、部屋に残されたチェスパスとラティスはちらりと視線を交わし合う。
どの程度の動きで、どの程度の苦痛を相手に与えるのか……
その検証と、どこまで耐えられるのかを、その限界を、お互いがしっかり理解する必要性を認める。
それと……
((……アインの方に、今の魔力の動きでの逆流は、ない……))
それはつまり、インスが耐えきれているのか、それともあの程度は問題ないのかのどちらか。
それを確認するためにも、シリウムは急いで出て行ったのだと分かっている。
結果の報告を待つ間、二人は静かにアインの様子を見ていた。
第3章第2話をお読みいただきありがとうございます。
チェスパスの口から、アインの左目が見えない理由と、インスとの間に繋がれた『呪い』の恐るべき詳細が語られます。
「魔法を使う」だけでなく、「痛みに耐えきれなくなる」ことすらも相手へのダメージになり、逆流するという、あまりにも緻密で悪辣な魔族のシステム。
大好きな人を苦しめてしまうと絶望するアインですが、その感情の乱れすら呪いの引き金になりかねません。
微かな魔力の動きを察知し、慌てて部屋を飛び出していったシリウム。
果たしてインスはどうなっているのか!?
次回もお楽しみに!
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