第1話・表向きと裏に隠れた ~失われた光の欠片~
第3章 隠れた傷と疼く心に
第1話・表向きと裏に隠れた ~失われた光の欠片~
静かに宣誓を締めくくったラティスの言葉を聞いても、暫くの間、誰も何もできなかった。
アインは不安そうにシリウムやチェスパス、ラティスの顔を見比べて……
(……やっぱり、なんだか……少し……)
微かに眉を顰める。
少し、見えにくい気がしていた。
「……アイン……」
ややあって、重い口を開いたのは大神官であるチェスパス。
神官長である二人よりも上の立場である自分が話すのがよかろうとの判断からだった。
「……っ。はい……」
呼び掛けられたアインはびくっと、明らかな怯えを見せる。
けれど、しっかりと返事をしてチェスパスに視線を合わせた。
「まず、お前に公式に下される罰は、指導者、監督者不在下での魔法の使用に対する反省の表明……具体的に言うなら、反省文の提出だ」
「……ぇ……?」
それだけ?
はっきりと言われて、目を丸くしたアインは、だがチェスパスも、シリウムやラティスも、一切表情が変わっていないことに気づく。
真顔のままをした三人の様子から、それだけではない、とすぐに理解した。
「……落ち着いて、聞きなさい……」
「……っ!」
思った通り、そう続けられて、どくんっと、一度、心臓が大きく跳ねる。
落ち着け、と言われたけれど、逆に緊張して、どんどん鼓動は早くなり、耳の奥にその音が響く。
じっとりと汗が滲んで、微かに呼吸が乱れた。
「……まず、お前が痛みに襲われたのは、神剣の力を使ったせいだ」
その様子に微かに眉を顰めたチェスパスは、だが、言葉で落ち着くように繰り返しても意味はなさそうだと判断し、話を続ける。
「……しん、けん……?」
何とか声は聞き取れているようで、単語を繰り返したアインに「そう。」と頷く。
「ただし、それは神罰でも何でもない。お前の体内に入ってしまった水の神剣には、ただ限界を越えないようにするための機能が壊れてしまっていたがための結果でしかない」
「……………」
ゆっくりと、噛んで含めるように告げるチェスパスに、そうなのかな? とアインは内心で首を傾げる。
大神官であるチェスパスが言うのなら、きっとそうなのだろう。
けれど、そんな神剣を、勝手に使ったから、罰を受けたのだろう、とも思う。
神さまからの罰ではなかったとしても、勝手なことをした罰に違いはないのだ。
「……次に、皇宮呪師長であるペンティス呪師の体内に巣くっていた魔族は、お前が水の神剣を使って浄化したことでその脅威から解放された……別室で療養されているが、命に別状はない」
「……っ! ……よかった……」
どうも完全には理解していなさそうだということは分かったが、今は説明しなければいけないことが多すぎる。
だから話を先に続けると、今度はアインも心の底から安堵した様子で、吐息と共に微かに唇が動く。
ほわりと、表情も少しだけ和らいで、本当に、自分の受けた損害など一切気にしていないことが分かって、むしろシリウムは微かに顔を顰めた。
「……が、去り際に魔族は二つの置き土産を置いていった……いや、手土産を持って行った、というべきか……」
「……? ……」
若干、苦虫を潰したような表情になったチェスパスの物言いに、その矛盾したような言葉に首を傾げる。
「……まず、置いていったのは、呪いと情報……」
「……ぇ……?」
静かなチェスパスの言葉に、落ち着きかけていた心臓がまた大きく脈打ち、早くなる。
「……持って行ったのは……お前の目の魔力だ……」
「……目……?」
呪いと情報、そして目の魔力。
それらがどう繋がるのか全く分からない。
「情報というのは、皇孫皇子であらせられるジョーン皇子の失明の原因となっているもののありか……」
「えっ!? 皇子さまは、目が……!?」
一番アインにとってショックが少ないであろうことから説明を始めるが、アインにとっては初耳すぎる話。
だって、アインが知っているのは五年も前から皇子さまは長く続く病で伏せっている、という情報だけ。
数か月前に回復なさった、という噂がある、と聞いたことがあるだけで、どんな病だったのかも、どうして回復したのかも、よくは知らない。
ただ、なぜか皇孫皇女であるジャンヌが、皇子さまの呪いを解くと言っていたけれど……
(あれ? つまり、それって……)
アインが前提条件を知らなかったことに、この反応で初めて気づいたチェスパスも一瞬しまったと顔を顰める。
シリウムも、そう言えば、アインにちゃんとした説明をしたことなどないような? と気づく。
表情を変えることはなかったが、ラティスもアインがどこまで、何を知っているかを確認したことはなかった、と思い至ったが、もう手遅れだ。
アインもまた、自分が知っていることや、起きた出来事……巻き込まれた際の、断片的な情報から、漸くおおよそのことを理解する。してしまった。
したらしたで真っ青になって震え出す。
だって、つまり……!
「……五年前に皇太子ご夫妻を含む、多くの者が亡くなった事件は事故ではない。アーグと名乗る魔族による襲撃だ。目的は女神の巫女であらせられるジャネット皇女の抹殺……その際、魔族はジョーン皇子から心の宝石という、心や精神を結晶化させたものらしい宝石と……それとは別に二つ、宝石を奪って行ったようだ……心の宝石に関しては、お前も分かるな? 先の魔族によるジャネット皇女の誘拐事件の際に、お前自身も魔族からそれを奪われ、利用された……」
若干早口になって説明したチェスパスの話に、少し混乱しながらもアインは頷く。
そう、確かに、自分も心の宝石と言うものを抜かれて、空っぽになった体を魔族に操られて、お姫さまを刺してしまったのだから、忘れるはずがない。
けれど、皇子さまは、五年も前に、心の宝石と、他にも何か、二つも宝石を取られていたなんて……
皇子さまが病に臥せっている、というのは、魔族に心を奪われたせいで目を覚ますことがなかった、ということなのだろう。
その心を、宝石を取り戻したから目を覚ました、というのが真相なのだ。
「ジョーン皇子は目を覚まされてからも両目を失明しておられ、その原因を、魔族は去り際に……お前から同じものを奪うことで教えて行った」
「……え……?」
皇子さまが目が見えない原因と、同じものを僕からも奪って行った?
どういう意味だろう? だって、僕はちゃんと……
「……………」
「……っ!?」
首を傾げるアインの右目を、チェスパスが手で覆う。
息を飲んだアインの左目が大きく見開かれ、困惑したように左右に揺れる。
「……見えるか……」
「……み……」
静かに問いかけたチェスパスに、声をひっかけながら、アインは掠れた吐息を絞り出す。
みえ、ない……
「「「………………」」」
チラリと、視線を交わし合った三人が微かに頷きあう。
愕然として、身体を強張らせたアインが過呼吸を起こすのを見て、チェスパスは右目を覆い隠し、視界を遮っていた手をどかし、呼吸を補助する魔法をかけた。
第3章第1話をお読みいただきありがとうございます。
今回は、大人たちからアインへと「公式の罰」と「事件の真実」が告げられる回です。
怯えるアインに対し、神罰などではないと論理的に説明するチェスパスですが、その後に続く事実はあまりにも過酷なものでした。
ジョーン皇子の失明の裏側にあった、魔族の悪辣な仕打ち。
そして、それを説明することは、アイン自身がまだはっきりと気づいていなかった「自分自身の身体の異変」を突きつけることと同義です。
最後にチェスパスが取った行動と、アインが直面した暗闇。
真実を知ったアインがどうなってしまうのか?
次回もお楽しみに!
【今後の連載スケジュールについて】
続きは明日12時から、毎日昼と夜、1日2話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!
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また次回もどうぞよろしくお願いいたします!
【第9弾は完結まで執筆済みです。よければ最後までお付き合いください。】
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