第5話・宣誓された真実の ~心の奥の根源に~
第2章 誰かにとっての……
第5話・宣誓された真実の ~心の奥の根源に~
「アイン。あなたには、指導者、監督者不在下での魔法の使用疑いがかかっています」
淡々と告げるラティスの言葉に、アインは無言のままこくりと頷く。
間違いなく、自分は誰の指導も、監督も、許可さえもない中で、いくつもの魔法を使った。
使ったことに後悔はしていないけれど、見習いがしてはいけないことだったのも、もちろん理解している。
けれど……
(……こんな、風に、聞かれるの……はじめて……)
ベッドに寝かされてはいても、手足や胴体を拘束されて、治療や食事もちゃんとして貰えるけれど、みんな、険しい表情のまま。
判別神官長であるラティスはいつもこんな風に、感情を一切面に出さない、淡々とした態度で職務に当たっているから、いつも通りに見えはする。
それでも、宣誓が行われるとも聞いているので、緊張感……いや、恐怖も大きい。
とうとう、捨てられるのかな? と……何度も脳裏を過った考えが、また過る。
(……いんすさま……)
ジワリと涙が浮かんで、ぎゅっと、目を瞑って堪えた。
記憶にあるのは、皇宮呪師長の部屋にあった箱に押し込められ、酷い扱いをされていたインスの姿。
咄嗟に、お水がいる、と思って、魔法をかけたけれど……
(……ご無事、かな……)
誰にも、何も聞けないまま今になってしまっていて、胸が潰れそうな不安に、心臓が嫌な音を立てる。
それと……
(……呪師長、さまも……魔族のヒト、ちゃんと、追い出せたかな……?)
自分の体の中で、自由にならない己の身体に絶望し、必死で抗おうとしていた皇宮呪師長のココロが見えた。
同時に、それを笑って、心底愉しんでいる魔族の姿も。
だから、追い出そうとしたけれど……
(……ファン様が、僕を叱ったのも、当然……ですよね……)
インスが酷い目に合っているのを目にしてしまったせいで、誰にも何も伝えずに、勝手なことをしたアインを、ファンが叱るのは当然だ。
どうしてファンが居たのかは分からないが、他にも護衛官の人たちや、皇宮呪師学校の校長先生だって、すぐそばにいたのだから……結果は同じだっただろう。
だからアインは、この扱いにも、宣誓が行われることにも、その後にあるはずの罰にだって、何の不満も、文句もない。
ただ、もう神殿に居られなくなって、ここから追い出されたら、どうすればいいのか分からない。
居ていいと、言ってくれていたのに、その信頼を裏切ったのは自分だから、自業自得だけれど……
また、捨てられるのだろう……
今度こそ、怖い人たちが、自分を連れて行こうとしていたところに。
アインは、自分が記憶もなく、名前も分からず、神さまにも『居ない者』と言われた。
本当の家族という人たちが、いるのだとしたら、きっとその人たちにも捨てられたのだろう。
そうじゃなきゃ、説明がつかない……
きっと、自分が悪い子で、邪魔な子で、迷惑ばかりかけていたから……捨てられた。
いらない……って。
それで、せめてお金にでもなればと、売られたに違いない。
だから怖い人たちのところに居た。
鎖に繋がれ、乱暴されて、痛い思いも、苦しい思いも……たくさん、たくさん、したけれど……
それが、生まれてしまった自分への罰だったのだろう。
あの日、皇宮呪師殿で、その呪師長室で、何があったのか。
宣誓を行ったラティスの問いかけに、静かに話すアインに、混乱している様子はない。
「……ファン様に、叱られた後、急に、からだが痛く……なって……」
気が付いたら、ここに寝かされていました。
そう締めくくったアインに、その物言いに、シリウムとチェスパスは表情を保つのに苦労する。
((……本気か!? アレは叱った、などという生易しい行為ではないぞ!!))
内心で絶叫するが、声にも態度にも出さない。出せない。
流石にラティスはピクリとも眉を動かすこともなかったが、それでも彼女も内心では驚愕していた。
むしろ、宣誓を行っている分、シリウムたちより驚きは大きい。
なぜなら……
「……宣誓を完了致します。嘘偽りは、一切ありません……」
「「……っ」」
ラティスのその宣言に、シリウムとチェスパスは堪えきれずに息を飲んだ。
アインは本気で、自分が悪いことをしたから怒られた、としか思っていない。
否、そう信じ切っているのだと判明した。
第2章第5話をお読みいただきありがとうございます。
ついにアインに対する判別神官長による『宣誓』の聴取が行われました。
指導者不在のまま魔法を使ったことを悔い、自分は罰を受けて当然なのだと怯えるアイン。
彼があの凄惨な現場でファンから受けた仕打ちを、「自分が悪い子だから叱られただけ」と本気で信じ込んでいることが、『宣誓』という神殿の絶対的なシステムによって証明されます。
その残酷なまでの純粋さと、彼の心の奥底に根付いてしまっている「怯え」の深さに、歴戦の神官長たちでさえ絶句する事態に!
嘘偽りのない言葉だからこそ胸を抉る、アインの痛ましい『真実』……。
大人たちの常識が通用しない、アインの過酷な生い立ちが生み出した歪み。
この深すぎる心の傷を前に、大人たちはどう動くのか?
次回もお楽しみに!
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【第9弾は完結まで執筆済みです。よければ最後までお付き合いください。】
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ノリト&ミコト
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