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第9話 伝説のSランク

「うわあああ!」


 叫び声を上げながら、シュウはベッドより跳ね起きた。


 起きてから、あれ? と違和感を抱き、周りを見回す。


 知らない天井、知らないベッド、知らない調度品。そもそも、自分が住んでいる場所は六畳一間のボロアパートで、布団を敷いて寝ているので、環境がまるで違う。シュウの部屋には物がほとんど無いのに、今、自分がいる部屋は、ゴテゴテなほどに様々な物品で溢れている。


 散らかっている、というわけではない。整然としている。綺麗に整理されていながらも、圧倒的物量で圧迫感を抱くほどの置物が所狭しと置かれている。


 ベッドの脇の窓枠には、神社で見かける狛犬のミニチュアや、金色に輝く古代の猛将・関羽の像、どこの国の紋様かわからない独特の柄の札が置いてある。


 頭の上を見れば、壁に中国らしい風景の水彩画が飾られており、足元の方を見れば、ベッドから少し離れた場所に衣類棚が置かれていて、その棚の上にも各国の神話に出てくる神様の置物が並べられている。まるで神様多国籍軍だ。


 ここは誰かの寝室なのか、ゲストルームなのか。ゲストルームにしては、あまりにもプライベート空間すぎる。とは言え、これだけの物が敷き詰められている中で、それほど寝室は広くない。今自分が寝ているシングルベッドと同じくらいの幅のスペースしか床は空いておらず、そこに小さな丸テーブルが置かれているので、ますます窮屈に感じる。


(たしか、俺……)


 スキル「スパイダー」を駆使して、柱の間を跳び回りながら、ヒカルの火の玉をかわしていた。けれども、一発まともに喰らって、高所から落下し、指一本動かせなくなった。


 そこから先の記憶が無い。


「起きた? 饅頭まんとうでも食べる?」


 開きっぱなしだったドアの向こうから、ミニの旗袍チーパオを着た女性が姿を現した。手には皿を持っており、その上には冷めた饅頭が載っている。


 シュウは、その不味そうな饅頭よりも、彼女のことが気になって、まじまじと見つめた。


 うなじまである黒いショートヘア、横髪を三つ編みで結んでいる。切れ長の目からは知性を感じさせる。化粧気は無いが、ノーメイクで十分なほど肌は白く、艶感がある。体型は肉づきが良く、ミニ旗袍から覗いている生の太ももに、思わず目が行きそうになるが、シュウはセクハラになるまいと思って胸元へと目をやる。しかし、その胸元も谷間が露わになっているデザインとなっているので、目のやり場が無い。


 仕方なく、彼女の目をまっすぐに見たが、彼女もまた、澄んだ海のように瑞々しい青い瞳で、しっかりと見つめ返してくるので、妙に気恥ずかしくなる。


「どうしたの? まだ気分悪い?」

「あ……いや……」


 ガリガリと照れ隠しのようにシュウは自分の頭を掻くと、思い切って、彼女が何者かをストレートに聞いてみることにした。


「君は、いったい何者なんだい?」

「敬語」

「は?」

「あなたは18歳、私はこう見えても24歳。6歳差なんだから、敬語くらい使ってよね」


 そう厳しい口調で言い放つと、彼女は丸テーブルの上に饅頭を置いた。


 それから、腕組みして突っ立ちながら、ジロジロとシュウのことを観察してくる。


 よくよく見てみれば、いつの間にか服は脱がされて、寝間着のような物を着せられている。ちゃんと男物のようで、サイズはシュウの体にピッタリだ。自分があの廃ビルで着ていた衣服類は、全て折り畳まれて、床の上に置かれている。


「あとで請求するから」

「え?」

「そのパジャマ。わざわざ洋服のイマムラに買いに行ったんだからね。セールで500円だったから、別に痛くもかゆくもないけど、お金回りはきちんとしておきたいの」

「はあ……」


 どうにもペースが狂わされてしまう。ただ、段々とわかってきたことがある。自分は、彼女に助けられたようだ。ヒカル達に追い詰められている絶体絶命の状況から、どうやったのかは知らないけど、命を救われた。


「ありがとうございます」


 相手が誰であるかはこの際置いておき、まずは頭を下げて、礼を言った。


 そのシュウの態度を見て、少し気持ちが軟化したのだろう、彼女はフッと微笑み、手の平をヒラヒラと動かした。


「別にいいわよ。大した労力かかってないし」

「ところで……なんで、俺が18歳って、知っていたんですか?」

「同じゴーストハンターだから」

「やっぱり」

「けっこう有名人よ。八ツ神シュウ。無能力、ランク外、父親から受け継いだ宝貝パオペイを持つけど、それを生かすだけの才覚も無い。はっきり言って、戦場においてはお荷物。そう、聞いてる」

「あ、はあ……」


 言われ慣れていると思っていたけど、なぜか、彼女にそうズケズケと言われると、傷ついてしまう。まだ多少なりともプライドは残っているようだ。


「だけど、とんでもないことになったわね」

「え? な、何が?」

「その身にUR級ゴースト・トウテツを宿している」


 一気に血の気が引いた。


 バレている……!


 シュウは隙を突いて、この部屋から脱出しようと素早く身を起こしたが、それよりも早く女のほうが動き、シュウの額に人差し指を突きつけてきた。


 ただ指一本当てられただけで、殺気を受けて、一歩も動けなくなってしまう。


「ばーん」


 女は、指鉄砲の形で、シュウの額を撃ち抜くようなジェスチャーを見せると、それからクスクスと楽しげに笑った。


「君、なかなか退屈しなさそうね。度胸があるのか、馬鹿なのか」

「ど……どうも……」


 褒められているのか、けなされているのか、いまいちよくわからなくて、リアクションに困ってしまう。


「私はヘイユン。香港から派遣されてきたSランクハンター。雷の道術を得意としているわ」


 ようやく名前を教えてもらったのと同時に、その名を聞いて、シュウは「ええっ⁉」と声を上げた。


「あ、あの、伝説の⁉ SR級を4体同時に相手して、傷ひとつ負わずに倒したっていう、最強クラスの道士⁉」

「それは誇張が入ってるわ。実際には、怪我してる。……かすり傷だけどね」

「その、Sランクさんが、俺をどうして生かしてるんですか? だって、俺の中に、トウテツがいるって知ってるのに」

「融合する瞬間から見ていた。その後の、鎌原かんばらヒカル達に追い込まれているところも、トウテツに変身したところも」

「トウテツに変身……? 俺が……?」

「ああ、その記憶は無いのね。じゃあ、後で説明してあげる。とにかく、私が君を生かす理由は二つ。一つは、君の中にいるトウテツと、ぜひゆっくり腹を割って話をしたいから。もう一つは、事の成り行きを見守るために、君が殺されかけているのを見殺しにしようとしていたから。多少は罪悪感あるのよ」

「全部見ていたのに、助けようとしなかった、と?」

「正直に言うと、ランク外の君の生き死には、あまり興味なかったから。ただ、さすがに中身のトウテツまで死なれると困るから、助けに入ろうかと思ったところで、ちょうど君の内部からトウテツが姿を現した。それで、トウテツは鎌原達を全滅させた」


 ヘイユンはニコニコ笑いながら話をしている。さっき、罪悪感はある、と言っていたが、本心ではないだろう。その笑顔の裏には、シュウに対する興味は無く、ひたすらシュウの中に宿っているトウテツへの関心があるように感じ取れた。


「私と話はできるかしら、トウテツ」

『敬語』

「……はい?」


 今、シュウの口から、シュウの声ではない声が飛び出た。びっくりしたシュウが、目を丸くしていると、口を閉じているにもかかわらず、部屋の中全体に響き渡る重い低音の、トウテツの声がさらに発せられた。


『わしを誰と心得る。遙か太古より生きている四凶が一人トウテツであるぞ。頭が高い。わしと話したいのであれば、敬語を使え』


 先ほど、ヘイユンがシュウに投げかけた言葉の意趣返しのような物言いに、思わずヘイユンはムッとした表情を見せたが、やがて、悔しそうに、ちょっと顔を赤くしながら、彼女は口を開いた。


「じゃあ……私と話してもらえませんか、トウテツさん」

『よかろう。聞いてやる』


 今にもドヤ顔が見えてきそうなトウテツの尊大な口ぶりに、ヘイユンはますますふくれ面になって、あからさまに機嫌を悪くした様子だったが、それでも我慢する道を選んだようだ。


 そして、二人の対話が始まった。

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