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第10話 四凶の居場所

「ここは私の家のゲストルーム。物置にしているから、見た目は悪いけど……」


 ヘイユンはそう言ってから、クイッと後ろのほうを顎で示した。


「リビングへ行きます? 話しづらいなら、そうしますけど」

『いや、構わぬ。ここで話をしよう』


 トウテツがコントロール出来るのは発声だけのようで、体はシュウの意思で自在に動かせる。とりあえずベッドの上であぐらをかいた。全身が軋むように痛い。だけど、口から出てきたのは、呻き声ではなく、トウテツの声だった。


『わしと何を話したいのだ?』

「単刀直入に言ってもいいのなら、結論から言うわ」

『敬語』

「……結論から言ってもよろしいですか」

『うむ。くだらぬ身の上話などに興味はない。で、要件は何だ』

「他の四凶の居場所を教えてください」


 そうヘイユンが言った途端に、シュウの口から、トウテツの大きな笑い声が飛び出した。


『わはははははは!』


 あまりにも大きな声だったので、窓の外の電柱に止まってチュンチュンと鳴いていた雀が、ビックリして飛び去っていったくらいだ。


「ちょ、ちょっと、急に笑わないでよ。ビックリした……」

『よいぞ。教えてやろう』

「へ⁉」


 トントン拍子過ぎる。


「ど、どういうことだよ⁉ なんで⁉」


 シュウも話を聞いていて、あまりにもトウテツが気安く仲間達を売るような発言をしたので、びっくりして自分も会話に参加する。


「他の四凶とは仲が悪いの? ……悪いんですか?」


 慣れない敬語に四苦八苦しながら、ヘイユンが一所懸命尋ねてくる。


『と言うよりも、興味がない、といったところか。勝手に人間どもがわしらを四大ゴーストとしておるだけで、わしらは別に手を組んでいるわけではない』

「えっと……待って、だいぶ混乱してきたんだけど……一回整理させて」


 頭をトントンと叩きながら、ヘイユンは何か考えている。


「2039年に、冥界からゴースト達が溢れ出してきて、世界的なパニックになった。それまでも世界にはゴーストは、いることにはいたけど、数は今と比べて圧倒的に少なかった」


 わざわざ、事の始まりから振り返っている。なぜそんなことを話し始めたのか、シュウにはわからなかったが、きっと重要なことなのだろう、と思った。


「で、次の質問……です。あなた達四凶は、いつどのタイミングで、この世界に現れたの? ……ですか? 2039年のゴースト禍? それよりも前から?」

『そのゴースト禍とお前らが呼んでおる事象で、わしらは冥界から解き放たれた』

「神話に出てくる四凶と、あなた達の関連性は?」

『真実と神話は、時として微細なズレを伴う。わしらこそが神話の四凶そのものであると言ってもいいかもしれぬが、しかしお前らが語り継ぐ伝説とは姿形も内容も異なるゆえ、別物と言ってもいいかもしれぬ。まあ、要は、とりあえず神話のことは忘れるがよい。わしらは冥界から飛び出したゴースト達の頂点に立つ存在である。そう見なせばわかりやすい』


 続いて、シュウが「はい」と手を挙げた。トウテツに聞きたいことがあったからだ。しかし、そのトウテツは自身の魂と融合している。自分で自分に質問するような形なので、なんとも奇妙な気分だった。


「じゃあ、頂点に立つってことは、ゴースト達を率いたりしているってこと?」

『四凶の内、他の三体は強きゴーストどもを集めて、自身の軍隊を作っておるようだがな。わしは興味ない。ゆえに、わしだけは常に単独行動を取っておった』


 そこでヘイユンが頬をふくらませた。なぜか、怒った様子である。なんでだろう、とシュウが首を傾げると、


「ずるい。私には敬語を強いるのに、シュウはタメ口が許されるなんて」


 どうやら待遇の差に不満を抱いているようだった。


『愚か者。立場が違う。シュウはわしにとって命綱、大事な宿主だ。お前はどこの馬の骨ともしれぬ、ただの小娘ではないか』

「私、Sランクなんですけど⁉」

『知るか。それよりも、話がだいぶ脱線してきておる。いい加減に本題へ戻さんか』

「なんか納得いかないけど……まあ、いいわ……他の四凶の居場所を教えて……ください」

『地図を持ってこい。世界地図だ』


 言われるがままに、ヘイユンは一旦ゲストルームを出ると、別の部屋から地球儀と世界地図帳を持ってきた。


「どっちでも好きなのを使っていいです」

『こいつはいらん。細かな場所が指定できん。お前はセンスゼロか』


 シュウが地球儀を受け取った瞬間、トウテツがダメ出しをしてきた。


 あんまりな口のきき方に、ヘイユンはピキピキとこめかみを引きつらせた。彼女としては気を利かせたつもりだったのだろうが、トウテツは容赦ない。


『シュウ。地図を開け。中国だ』

「あ……う、うん」


 中国と一口で言っても、大陸は広い。見開き一ページでは全てをカバーしきれていない。何ページかめくらないといけない。


『泰山、竜虎山、武当山。それぞれに奴らはおる』

「えっと……どこ?」

『自分で探せ』


 結局、ヘイユンが自分のスマホを取り出して、位置検索を行った。泰山は中国の東部、竜虎山は東南部、武当山は中部にある。


「世界地図も地球儀も、持ってき損じゃん……」


 ぶつくさとヘイユンは文句を言う。


 シュウはベッドを下りて、彼女の横から、スマホの画面を覗き込んだ。亡き両親はかつて行ったことがあるけれど、自分はまだ足を踏み入れたことのない地、中国。まったく未知の世界である。


 喉の奥から、トウテツの声が飛び出してきた。


『泰山には渾敦コントンが、竜虎山には檮杌トウコツ、そして武当山には窮奇キュウキがおる』

「コントン……!」

「トウコツ……!」


 シュウと、ヘイユン、それぞれ違う四凶の名を口に出した。シュウにとっては、コントンは両親を殺した憎き仇である。


 では、ヘイユンにとってのトウコツとは?


「やっぱり、ヘイユンさんも、四凶に恨みが……?」

「今、その話はどうでもいいでしょ」


 ピシャリ、とシュウの質問をはねのけると、ヘイユンは真っ向からキッと睨んできた。その目は、しかし、シュウのことは見ていない。シュウの中にいるトウテツへと向けられている。


「トウコツは、竜虎山を根城としているのね」

『ああ。当面、動くことはないだろうな。わしらから出向く必要がある』

「オーケー。それさえわかれば十分。すぐにでも動くわ」


 ヘイユンの行動は早い。さっそくゲストルームを出ていくと、ドタンバタンとやかましく活動し始めた。開いているドアから向こう側を覗くと、リビングルームのど真ん中に、ドスンッ! とスーツケースを乱暴に放り出している姿が見えた。


「えっと……俺、どうしたらいいんだろ……」

『さあな。少なくとも、お前はあのBランクに狙われておる。このまま、この日本におっても、身を危うくするだけかもしれんぞ』

「俺は何も悪いことしてない」

『無論、わしと融合したことさえ知られなければ、立場としてはお前のほうが有利だろうな。仲間に危害を加えられた、と証言すれば、一気にあのBランクどもはまずいことになる』

「いや……ヒカルは狡猾だ。俺にそんなことさせる余裕は与えないと思う」

『ならば、話は早い』


 うん、とシュウは頷き、ゲストルームを出ると、リビングでスーツケースに荷物を詰め込んでいる最中のヘイユンへと話しかけた。


「あの、ヘイユンさん。お願いがあるんですけど」

「一緒に連れてって、って話なら、断るわ」


 何も言わせてもらえないまま、ピシャリと拒絶された。


「えっと……なんで?」

「理由はたくさんある。ひとつ、ランク外のあなたは足手まとい。ふたつ、UR級ゴーストを宿している以上、何が起こるかわからない。みっつ、そもそも、あなたには海外渡航の許可証が出ていないでしょう?」


 最後の理由は、痛烈なまでに、もっともな内容だった。


 世界中がゴーストによって大混乱に陥っている中、各国間の渡航にはかなり厳しい制限がかかっている。


 制限無しで移動できるのは、各国の要人や、大金を積んで裏ルートを使った者、あるいは渡航許可が下りたゴーストハンターだけだと言われている。


 Sランクのゴーストハンターはフリーパスのようなものだ。彼ら彼女らは、自由自在に世界中を飛び回って、厄介なゴースト達を次々と退治している。だから、ヘイユンは気軽に中国へと移動できるのである。


 シュウには、何もない。ランク外、実績も大したことがない、そんな自分がヘイユンと一緒に中国へ渡ろうなんて、自惚れもいいところだった。


「はあ……しょうがないわね」


 ヘイユンはスーツケースへの積み込み作業を中断し、スマホでどこかに電話をかけ始めた。


「久しぶり。私よ、ヘイユンよ。元気にしてた?」


 いったい、誰に電話をかけているのか。


 しばらく他愛もないことを話していたかと思ったら、突然、ヘイユンはシュウにスマホを渡してきた。


「直接あなたと話がしたいって」

「え、誰?」

「出ればわかる」


 説明するのが面倒なのか、さっさと渡航の準備を済ませたいのか、そう素っ気なく言って、ヘイユンは再びスーツケースと格闘し始めた。


「もしもし?」


 シュウがスマホに耳を当てて、とりあえず話しかけてみると、向こうから、聞き覚えのある声が聞こえてきた。


『おー、シュウ坊か。元気にしておったかのう』


 快活な老人の声。


 その声を聞いた途端、シュウは全身が硬直し、息が止まりそうになった。


 電話の向こうにいるのは、ゴーストハンター協会日本支部の支部長、伊庭島大禅いばしまたいぜんだったからである。

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