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第8話 対話

「シャアッ!」


 鋭い気合いとともに、トウテツはハイキックを放った。


 その蹴りを、ヘイユンは腕を円軌道で回転させて、受け流し、返す刀で電撃を纏った呪符をトウテツの胸部へと叩き込んだ。


 ズドンッ! と雷撃が弾け、トウテツの体を後方へ10メートルほど吹き飛ばす。


「ほ! う! さすがだな!」


 一発でかなりのダメージを負い、トウテツは苦悶の表情を浮かべつつも、楽しそうに口元を歪めた。こんなに血湧き肉躍る戦いは久しぶりだ。


 限界まであと2分ほどだろう。すでに体内では、シュウの肉体へ戻ろうという動きが始まりつつある。全身が軋み、痛み出した。


 それでも、トウテツは踏みとどまり、両手を広げて、自身もまた全身に雷電を纏う。バチバチとスパークしており、近寄れば感電間違いなしだ。


「あなたも、雷使い……⁉」


 驚くヘイユンに対し、トウテツは指を立てて、チッチッと否定のジェスチャーを示した。


「あくまでも、わしが持つスキルの一つだ。お望みとあらば、もっと別のものを見せてやれるぞ」

「私と同じ雷電の術で対抗しようなんて、相当、負けず嫌いなのね」

「いや、この戦いを楽しみたいだけだよ」


 トウテツは一気に息を吸い込み始める。呼吸法により、さらに雷スキルの威力を増し、より一層激しく電撃を四方へと放ち出す。


 一方で、ヘイユンもまた、負けじと呪文を唱え始めた。


「九天応元雷声普化天尊……!」


 道教における雷を司る最高位の神名を唱え、呪符を中心に、電撃で出来ている巨大な球体を創り出す。


 両者ともに、手加減はしない。今、この時に出せる最大最高の力をもって、ぶつかり合おうとしている。


「ハァァッ!」

「えヤァっ!」


 トウテツとヘイユンは、気合いとともに、雷電の術を相手に向かって撃ち放つ。トウテツの雷撃は太い柱状となってまっすぐヘイユンに向かって突進していき、ヘイユンの放った雷の巨球体は床の塵を弾き飛ばしながらトウテツへと飛んでいく。


 二人のちょうど中間地点で、お互いが放った雷撃は衝突し、天地が鳴動するほどの轟音を立てて一階のフロア全体に電流が走り回った。


 互いの雷撃はぶつかってすぐに消失した。


 トウテツもヘイユンも、どちらも一切傷を負っていない。力は伯仲している。いや、実際のところ、トウテツはまだ本気を出していない。雷電以外のスキルも持っており、それらを駆使すれば、ヘイユンを葬ることなどわけはない。


 だが、トウテツには考えがあった。


 あと残り時間は1分あるかないか。この1分での振る舞いが、自分と、宿主であるシュウの運命を左右することになる。


 まずは矛を収めたことを示すため、トウテツは構えていた両手を下げた。


 ヘイユンが怪訝そうに眉をひそめる。


「戦う気、ないの?」

「うむ。そろそろ時間切れなのでのう」

「時間切れ?」

「お前は話が通じる人間だと、わしは感じておる。そこで、頼みがある」

「待って。ゴーストが、ハンターである私に頼み? 何の冗談なの?」

「そう言いつつも、お前、わしのことを最初から捕捉しておっただろう」

「……!」

「だから、わしがお前達の仲間に憑依したことも、知っておるのだろ? その時から、視線を感じておったからな」

「……で、私に何を頼むの?」

「今回の掃討作戦に、お前は参加しておらん。独自の判断で動いておる。そうだろう?」

「ええ。別のSランクが指揮を執っているわ。私がここに来たのは、あなたに興味があったから」

「ならば、保護してほしい」

「……はいっ⁉」

「正確には、わしが憑依しておる、この宿主シュウという男のことだ。間もなく、わしの体は限界を迎え、シュウへと戻る。そうなったら、助けてやってほしい」

「そんなことしたら私の立場が悪くなるんだけど」

「大丈夫だ。傍目には、わしが憑依しているとはわからぬ。お前に迷惑はかからない」

「だけど……」

「こうなることを見越して、限界までシュウのことを見殺しにしておった。そのことに、罪悪感はないのか?」


 ぐっ、とヘイユンは言葉に詰まった。図星を突かれたのだ。


 なし崩し的ではあるが、話はまとまった。


 そのことに安心するのと同時に、トウテツの体は内側に向かってベコンと凹んだ。


 目の前でトウテツの体が異様な形で折り畳まれていき、また別の体へと再生されていく。その様子を、ヘイユンは冷静な目で眺め続けている。実のところ、すでに一度、シュウからトウテツへと変身する様子を陰から観察していた。だから、今さら驚くほどのことではない。


 やがて、トウテツは、完全にシュウの肉体へと変貌を遂げた。


 すっかり力尽きているのか、床に倒れた状態で、シュウは死んだように眠っている。


 ヘイユンはゆっくりと歩み寄り、そっとシュウの頸動脈に指を当ててみた。脈は動いている。まだ生きている。


 はあ……とため息をついた。


 トウテツに興味を持って追い続けてきた。その結果、厄介事を抱え込むことになった。別に、ランク外の少年に関心は無い。


 彼女としては、四凶の一体「檮杌トウコツ」の行方だけ、それだけしか考えていない。


 同じ四凶のトウテツなら情報を引き出せるかと思って、事の成り行きを見守っていたが、まさか、シュウを助けようとしなかったことをトウテツに追及され、半ば脅迫じみた言い方で交渉の材料にされるとは思ってもいなかった。


「仕方ないなぁ……」


 ヘイユンはシュウのことを担ぎ上げた。体格的にはシュウのほうが鍛え上げられており、少し大きい。背負うのは大変だが、文句も言ってられない。


 とりあえず、この廃ビルを取り囲んでいるハンター達に見つからないように抜け出すことは困難なので、誰かに見とがめられた時のために、なぜ指示も出ていないのに自分がこの現場にいたのか、そしてなぜシュウを助けようとしているのか、言い訳を一所懸命考えていた。

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