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第7話 トウテツ乱舞

 トウテツを取り囲んで、ヒカル達は間合いを取りながら、ジリジリと、徐々に包囲網を狭めていく。


 自分の周りにいる敵どもを睥睨しながら、冷静に、トウテツは戦い方を考え始めた。


 が、途中で考えるのを放棄した。


 どいつもこいつも雑魚だ。無駄なことで思考を使いたくない。


 3分で全員倒す、と宣言したのは、単に自信があるからそう言ったわけではない。シュウの体に憑依したトウテツが、本来の姿で戦えるのは、おそらく5分が限度。余裕を見て、3分以内で片を付けないと、強制的にシュウの姿へと戻されてしまう。


 パラパラ……と頭上から、細かなカケラが落ちてきた。天井が崩落寸前になっているようだ。上を見上げて、ふむ、とトウテツは一人で納得して頷いた。場合によっては、あれも使えそうだ。


「うおおおお!」


 Cランクの豪傑風の男が、剣を振りかぶって襲いかかってくる。


 やはり最初に攻めてくるのはこいつか、と読み通りであることに、トウテツはニヤリとほくそ笑んだ。見るからに脳味噌まで筋肉で出来ていそうな男だ。彼我の実力差も推し量れず、飛びかかってくるだろうと踏んでいた。


 剣が振り下ろされる。


 が、すでにその場にトウテツはいない。


 脇へとかわし、男の左サイドに立っている。


「ぬお⁉」


 空振りした男は、慌ててトウテツへ第二撃を打ち込もうとするが、それよりも先に、トウテツのほうから動いた。


 ドゴンッ! と鈍く重い音とともに、トウテツの掌底が男の脇腹に叩きつけられる。さらにそこから、トウテツは風のスキルを放った。腕から放たれた突風が、掌底を喰らって体が折り曲がっていた男を、一気に吹き飛ばす。Cランクの男は、柱に背中から叩きつけられ、グァァ! と絶叫を上げた。


(ふむ。どうやらわしの姿に戻っておれば、全てのスキルが使えるようだな)


 トウテツはこれまでに喰ってきたゴースト達のスキルを保有している。シュウの姿では、一からスキルを奪っていかなければいけないが、トウテツ本来の姿なら元通り全部使用できる。


 ならば、ヒカル達ごとき、簡単に屠れる。


「迂闊に近寄るな! 相手はUR級だぞ! 遠距離から削っていけ!」


 ヒカルは仲間達に指示を出すのと同時に、自身も火の玉を放ってきた。


 Cランクの女性道士も風の刃を放ってくる。


 Dランクの女性道士は、氷をつらら状にして、トウテツを串刺しにせんとばかりに撃ち込んできた。


「児戯」


 フッとトウテツは笑い、右手を頭上に掲げて、ドーム状の結界を張った。これもまたスキルの一つ。火の玉も、風の刃も、つららも、全て弾き返す。ただ反射したのではない。術を放った道士達それぞれに向かって、そのまままっすぐ戻っていく。


「なんだよ、それ⁉」


 ヒカルは驚きの声とともに、横っ飛びに跳んで、火の玉を回避した。同じように、Cランクの女性も風の刃をかわしたが、戦闘経験の少ないDランクの女性は避けきれなかった。


「あぐぅ!」


 脇腹を、自分が放ったつららで抉られて、ガクッと膝を折る。致命傷ではないものの、これ以上動くのは困難な重傷を負った。


 トウテツはパチンと指を鳴らし、結界を解く。このスキルは、強力な分、張り続けていると体力を消耗する。シュウの体に戻った際に、傷や疲労がどれだけ彼に影響を与えるかわからないから、無駄に力を使うわけにはいかない。


 ここまでで体感時間1分ほど経っている。残りあと2分ほど。


「舐めんなァ!」


 Cランクの女性道士が、再び風の刃を放ってきた。その戦法は圧倒的に正しい。トウテツの反射結界が二度も三度も張れる性質のものではないと見抜いたようで、なかなか筋がいい。


 が、トウテツの敵ではない。


「疾ッ!」


 気合いとともに、左手を前に突き出すと、床面から竜巻が巻き起こった。塵や破片を吸い上げながら、巨大な荒れ狂う風の柱となって立ち上がる。女性道士が放った風の刃は、その竜巻に吸収されて、掻き消えてしまった。


「破ッ!」


 さらに右手を前に出して、竜巻を突進させる。轟々と唸りを上げながら、竜巻は女性道士に激突し、彼女の体を空中高くに舞い上げた。悲鳴が飛んできたが、直後、トウテツが指を鳴らした瞬間、竜巻はパッと消えた。女性道士は高所から落下し、床に叩きつけられ、意識を失った。


 あと一人、ヒカルだ。


「来いやあぁぁ!」


 その端正な顔立ちには似合わない、暴力的な台詞を吐いて、ヒカルは自分の周囲に炎の幕を張り巡らせた。燃え上がる火炎が円陣を組み、何者をも立ち入らせない防御態勢を構築する。


「威勢がいい割りには、小賢しいことをするのう」


 フンッと鼻で笑い、トウテツは右手を下から上へ勢いよく振り上げた。


 たちまち、ヒカルが張った炎の円陣のど真ん中から、床面を破って、蔓が巻かれた大樹が伸び上がり、天井へと突き刺さる。


 いきなり目の前に現れた大樹に、ヒカルは目を丸くして驚いていたが、それ以上何も起きないのを見て、「ははは!」と哄笑した。


「万策尽きたか⁉ 木を一本生やしたところで、何になると言うんだ!」

「逃げの一手を打ったお前には、最も間抜けな敗北がふさわしい、と思うてな」

「間抜けな敗北ゥ⁉ ハハッ! それ、お前のことじゃねーのか⁉ 見ろよ! せっかく生やした木も、俺の炎で燃え尽きようとしているぞ!」


 ヒカルの言う通り、トウテツが召喚した大樹は、早くも延焼し始め、焦げた蔓がボロボロと落下していく。


 だが、トウテツは優位な表情を崩そうとしない。


「謝るなら、いま、したほうがよいぞ。どうだ?」

「ざけんな! 謝んのはてめーのほうだろ! ゴースト風情が!」

「わしを、そこらへんのゴーストと一緒くたにしないほうがよいぞ」


 大樹の、天井に突き刺さっている部分も焼け焦げて、ボロリと崩れ落ちた。それと同時に、天井も歪み始めたことに、ヒカルはまだ気が付いていない。


「知恵、知識、体力、スキル……全てにおいて、頂点に立つ。それがお前らがUR級と呼ぶゴーストの強さだ。ぼんくらな発想力しか持たぬ人間ごときが、太刀打ち出来るものではない」


 大樹の崩落に伴い、天井もボロボロと崩れ落ち始めた。


 パラッ……と欠片が落ちてきたことで、ようやくヒカルは異変に気付いたようだ。ギョッとして、天井を見上げる。


 時すでに遅し。


 もともと脆くなっていた天井は、大樹が突き破ったことにより、いつ崩壊してもおかしくない状態となっていた。けれども、大樹が支えとなっているお陰で、すぐには崩れなかった。それが、ヒカルの張り巡らした火炎陣によって大樹が燃え落ちたことで、とうとうストッパーが外された。


 ドドッ! と天井が崩れる。広範囲にわたる崩落に、ヒカルも巻き込まれた。


「うわああああぁぁぁ……!」


 絶叫は、崩れ落ちた天井に押し潰されて、掻き消された。


 ヒカルは生きているのか、死んでいるのか。並の人間なら、あの規模の崩落に呑まれたら、普通は息絶えるだろう。だが、人でも虫でも、害になるものほどしぶとく生き延びるものだ。


「まあ、どうでもいい。雑魚を気にしている余裕はないからな」


 体感的には、おそらく残り30秒ほどだろう。


 ヒカル一派の掃討には成功した。


 しかし――まだ、この場には、一人いる。


「いい加減、出てきたらどうだ?」


 さっきから感じ取っていた気配。柱の陰に、何者かが潜んでいた。その溢れ出る強大なエネルギーを隠そうともせず、むしろ、いつ見つけてくれるのか、と待ち構えていたかのように。


 スッ……と滑るような動きで、そいつは姿を現した。


 途端に、バリバリッ! と電流のようなものが空間を走り始めた。黒いショートヘアの少女。白い色の、丈が太ももくらいまでの短い旗袍(チーパオ)を着ており、両手には呪符を握っている。その呪符から、バチバチと電撃が発散されている。


(こいつ、出来るな)


 相手がゴーストハンターであると看破したトウテツは、すぐに問うた。


「お前は何ランクだ? Aランクか?」

「違うわ」


 少女は電撃を全身にまとい始める。それに伴い、全ての髪の毛が逆立った。


「Sランクよ」


 残り20秒で、3分経つ。


 余裕があるとしても、そこからさらに2分ほどか。それが今のトウテツの限界。時間が経てばシュウに戻ってしまう。


 最適解は、逃げること。Sランクの道士は片手で数えるほどしかいないと聞くが、そのどれもが、SR級ゴーストとサシで戦えるだけの強さを誇るらしい。


 さすがに負ける気はしないが、それでも、あと2分ほどで倒せるほど甘い相手ではない。


 だけど――トウテツは、あえて対峙した。


「名を名乗れ。わしはトウテツ。お前らがUR級と呼ぶゴーストの一体だ。お前は?」

「私の名は、ヘイユン」


 お互いに名乗り上げた。


 それと同時に、二人とも真っ向から突っ込んでいき、激突した。


 トウテツがスキルを放とうと伸ばしかけた手は、ヘイユンの呪符が張り巡らす電撃の結界によって押し込められて、バチバチと火花を散らせる。


 戦い甲斐のある敵が現れたことを、トウテツは心の底から喜び、軋んだ邪悪な笑みを浮かべた。

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