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第27話 撤退の銅鑼

 やむを得まい、とシュウはため息をつく。


 それっぽい嘘をつこうかと考えたが、追究されたら、どんな嘘でもボロが出てしまう。例えば、ゴーストに呪われて手に入れた能力だ、とか。そんなことを下手に言おうもののなら、必ずや本部の連中が自分を研究対象として、根掘り葉掘り聞いてくるだろう。そうなった時に、さらに嘘を重ねられる自信がなかった。


 なので、正直に言うことにした。


 ただし、ニュアンスは変えてみて。


「俺の体の中に、トウテツが潜り込んでいるんだ」


 融合、という言い方はしなかった。あくまでも乗り込まれてしまった、という調子で語る。


「ト、トウテツが⁉」

「あの廃ビルでの戦闘で、逃げ場を失った奴が、俺の体の中に入ってきたんだ。それで、今も隠れてる」

「お前! なんでそんな重要なことを、隠してやがった! 本部にも言ってないだろ!」

「迂闊に言ったら、俺ごと討伐されちゃうかもしれないだろ。言えるわけないよ」

「くっそ! マジかよ! 化け物が中にいるとか……今は緊急時だ、とりあえず見逃してやるが、ここを生き延びたら、必ず本部に報告するからな! 覚悟しろよ!」


 一旦は、なんとか切り抜けることが出来た。ヒカルはもうシュウのことは無視して、他に戦っている仲間達のもとへと駆け寄っていった。


『よいのか? あの小僧をこのまま生かしておいても』

(何が言いたいんだよ、トウテツ)

『どさくさ紛れに殺す手もあったではないか。死人に口なし。バレた以上は、生かしておくわけにはいかんじゃろう』

(そんなこと出来るわけないだろ)


 別に道徳心から、シュウはそういうことを言ったわけではない。


 かなりの数のゴーストハンターの死体が転がっている。半分くらいはやられたのではないか。それに対して、敵ゴースト達は無尽蔵にどこからともなく湧いてくる。数の暴力で押し切られそうだ。


 この状況で、ヒカルという貴重な戦力を失うわけにはいかない。性根は腐っていても、一応はBランクなのだ。それなりに強い。


『まあ、それがお主の判断なら、わしは止めはせん。じゃが、気を付けよ。あの手の男はろくでもない行動を起こしがちじゃ』

(そいつは、この修羅場を生き延びてから、ゆっくり考えるよ)


 またR級と思われる、武将風ゴーストが2体、同時に襲いかかってきた。


『さっそく、先ほど喰った炎鬼のスキルを使うぞ。スキル名は「ファイアマン」。全身を火で包み込むことが出来る。ゴーストは基本的に火炎が持つ陽の気質を苦手とするからな、炎をまとって立っているだけで、攻防一体の効果を発揮する』

「了解!」


 シュウは、なんとなく、スキルの発動のさせ方を理解してきた。全てはイメージだ。「スパイダー」も、「変面」も、どのように使うか、というイメージを脳内に浮かべることで、発動が可能になる。だから、「ファイアマン」も同じだろう。


 さっきの炎鬼のように、自分が炎を身にまとっている姿を想像する。そして、あえて声に出して叫んでみた。


「『ファイアマン』!」


 たちまち、シュウの体が火炎で包まれた。しかし、自分自身が火傷することはない。それでもゴウゴウと燃え盛る炎は、明らかに他の者が触れたら確実に燃やされてしまうであろうことがわかる。


 2体の武将風ゴーストは、攻めかかるのを、一瞬ためらった。炎鬼のような火属性のゴーストでなければ、普通のゴーストには、この「ファイアマン」のスキルはかなり有効である。


「『変面』!」


 シュウは顔の前で手を上下させた。憤怒の面を被り、オートモードで武将風ゴースト達へと斬りかかる。


 戦闘は、思いのほか、呆気なく終わった。桃木剣による攻撃で2体のゴーストを弱らせていった末に、順にトウテツのスキル「ゴーストイーター」で喰らったのだ。


 彼らは「身体強化」スキルを持っている。これにより、シュウの身体能力はまた少し強化された。


「お……なんか、ちょっと動きが軽くなってきた気がする」

『気のせいじゃ。まだ「身体強化」のゴーストを喰ったのは3体程度。それくらいで劇的な変化は訪れん。もっと喰らう必要がある』

「えっ、そうなの?」

『先へ進めい。重要なのは、小物ではない。炎鬼くらいの、使えるスキルを持つゴーストをどんどん喰らう必要がある』


 トウテツに促されて、シュウはさらに戦場の奥深くへと飛び込んでいく。


 ひとまず「ファイアマン」のスキルは解除した。強力ではあるが、味方も入り乱れている混戦模様の中で発動していると、うっかり仲間を焼いてしまいかねないからだ。それに、明らかに人外の能力を発動しているところを、これ以上他のハンターには見られたくない。


 襲ってくるのは、次第にN級ばかりになってきた。


 R級と思われる武将風ゴーストは、さらに追加で3体倒して、喰らうことが出来た。しかし、あとはN級なので、倒すだけしかしていない。


 どこからともなく、ジャーンジャーンと銅鑼だか鐘だかの音が聞こえてきた。たちまち、ゴースト達はそれまでの攻勢から転じて、撤退へと移り始める。


「やったー! 勝ったぞーーー!」


 ゴーストハンターの誰かが両手を挙げてバンザイしながら、喜びの声を上げた。他のハンター達も歓声を上げる。


 みんなが喜んでいる中で、シュウだけは得体の知れない不気味さを感じていた。


「なんだよ、これ……」


 ボソリと呟いた、その意図を汲み取ったトウテツは、『うむ』とシュウに合わせて同意を示す。


『妙だ。ゴーストは普通、このような行動は取らない。個、で動くのが普通のゴーストじゃ。しかし、こいつらはまるで、軍隊じゃ』

「だよな。統率が取れた、兵士達のように……まるで、誰かに率いられていたみたいだ」

『いい勘をしておるのう。お主、無能力なだけで、戦いのセンスはある。このままスキルをどんどん習得していけば、間違いなく最強のゴーストハンターになれるぞ』

「な、なんだよ、いきなり褒めてきて」


 照れくさそうにシュウはニヤニヤ笑いながら、頭を掻いた。褒められて悪い気はしない。


 が、すぐに顔を引き締めた。


 いる。この先に、とんでもない敵が。


 R級以下のゴースト達を従えて、まるで一個の軍隊のように動かして、ハンター達を追い詰めてきた、老獪な戦術を使う、非常に知恵のある強いゴースト。それは恐らく、報告に上がっていた3体のSR級ゴースト達。


 他のハンター達が、すっかり油断して勝利を噛み締めている間に、シュウはさらに旧中華街の奥へと進んでいった。

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