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第26話 連携

 シュウが駆け寄ると、あからさまにヒカルは不愉快そうな表情を浮かべた。明らかに窮地に立たされているというのに、この態度。ある意味、ブレない男である。


「何しに来やがったランク外」

「もちろん、助けに」

「ハッ! 笑わせてくれるぜ! 無能力のお前に何が出来るって言うんだよ!」

「それこそ、お前だって、あのゴーストは相性悪いだろ」


 五行相克の概念は、ゴーストハンターであれば常識の知識である。この世のあらゆるものは全て木火土金水の五行によって属性を分けることが出来、それぞれに相性のいい関係もあれば、逆に対抗する属性の力を弱らせることもある。


 今、ヒカルが相対している敵は、全身を炎で包んでいる大男だ。明らかに火属性のゴーストである。そんな奴に効果があるのは、水属性の攻撃だけ。ヒカルが使える道術は火属性だけなので、いくら攻撃しても無効化されてしまう。


「仲間はどうしたんだよ。氷の道術使う奴がいただろ」

「……全滅だよ」

「え」

「笑うなら笑え! 俺のチームは、俺以外全員殺されたよ!」


 いつもなら余裕たっぷりの態度で任務に臨んでいるヒカルが、珍しくこめかみに血管を浮き上がらせんばかりの勢いで、ピキピキと引きつった表情を見せている。それは、仲間達を殺された悔しさからか、それとも今まで順風満帆にミッションをこなしてきたのに、ここに来て規格外の敵どもが現れたので動揺しているのか。


 はあ、とシュウはため息をついた。あんなに偉そうにしていたのに、ちょっとピンチになるとこれだ。それでもBランクかと情けなくなる。格下の自分の方が、ずっと落ち着いている。


(とは言っても、あんな敵を相手に勝ち筋なんて思い浮かばないよ。トウテツ、どうすればいい?)

『奴は炎鬼じゃな。全身が火炎で覆われているのが特徴ではあるが、逆に言えば、それだけに過ぎん』

(それだけ、って……十分、厄介なんだけど)

『火が燃え移ったり、火傷したりしなければ、問題はない。距離を離しながら、遠隔で攻撃を仕掛けるのがよかろう』

(そんな都合いい武器、持ってないって)

『ならば覚悟を決めよ』

(覚悟?)

『厄介なのは全身を覆う炎じゃ。その代わり、奴の本体はそこまで頑丈ではない。そこで――』


 トウテツの告げた作戦は、およそ信じがたいほど、無茶で、無謀なものであった。思わずシュウは「はぁ⁉」と声を出しかけて、その声を飲み込んだ。ここで一人で声を上げたら、ヒカルに何事かとあらぬ疑いをかけられてしまう。


 失敗したら、命は無い。かなり危険な行動を取らなければいけない。でも、トウテツの作戦以外に勝ち目が無いのも、また事実だ。


「ヒカル。援護してくれ。お前が気を引いている隙に、俺が奴を倒す」

「ああぁ⁉ てめえ、いつから俺のことを馴れ馴れしく、下の名前で呼ぶような身分になったんだ⁉」

「答えはイエスかノーか、だけにしてくれよ。頼むから。お前の仲間達は、あの炎野郎に殺されたんだろ? 仇を取りたくないのかよ」

「ぐ……ッ!」


 シュウの言動に、いちいち苛立ちを見せるヒカルだったが、勝ち目が無い以上、ここはシュウの言うことを聞くしかない。


「いいだろう! やってやる! お前の大口に付き合ってやるよ!」


 そして、ヒカルはわざとらしく大声を出して、パンパン! と手を叩き、炎鬼の意識を自分へと向けさせた。


「おら! 来いよ、てめえ! 燃えるだけしか能のねえカスが!」

「ほーう? そのガキが来た途端、随分と元気良くなってきたな? 何を企んでいるのか知らねえが、悪あがきはよしたほうがいいぜ」


 炎鬼は余裕たっぷりに、シュウのことを無視して、あえてヒカルへ向かって歩を進めてくる。DPがゼロのシュウは、ゴーストの目から見ると、明らかに無力であり、大したことのない存在として映るのだろう。ゴーストは、ハンター達が保有するDPの量をオーラの形で見える、と聞いたことがある。だから、奴はシュウを侮っているのだ。


 そこに勝機がある。


「なるべくあいつを、建物の外壁近くにおびき寄せてくれ。そうしたら、後は俺が何とかするから」

「ちくしょう……! 偉そうに……! これで、失敗でもしてみろ! 絶対にぶっ殺すからな!」

「そうならないよう、頑張るよ」


 そこで、シュウとヒカルは二手に分かれた。


 ヒカルは炎鬼をおびき寄せるために、無効化されるとわかりながら、炎の道術を何度も放ち、相手を挑発し続けている。


 その間に、シュウは建物の外壁に近寄ると、スキル「スパイダー」を使って一気に壁を駆け上がり始めた。


 人外の動きを見せるシュウに対して、すでに廃ビルでの戦いで同じ能力を見せられていたヒカルは、取り立てて驚いた様子も無く、チラリと一瞬、目を向けただけで、すぐにまた炎鬼と向かい合う。


 ヒカルが炎鬼の相手をしている間に、シュウは中華風の装飾を施された、かつては人気の中華料理店だったのであろうビルの外壁を、屋上近くまで登って、そこでピタリと壁に貼りついたまま止まった。


 さながら、獲物を捕獲する前の蜘蛛のごとく、ジッと息を潜めて、「その時」が来るのを待ち続けている。


 そして、攻撃のタイミングが訪れた。


 シュウの真下に、炎鬼の巨体が進み出てきたのである。


『今じゃ! 一気に斬り裂けい!』


 トウテツの呼びかけに応じて、シュウは壁から離れると、重力に身を任せて、真下に向かって落下する。


 落下しながら、顔の前で素早く手を上下させた。


 スキル「変面――憤怒の相」。完全オートモードで、最適解となる攻撃を繰り出すことが出来る。


 自然と、シュウの両腕は桃木剣をしっかりと握り締め、大上段に構えていた。


「うおおおおお!」


 気合いとともに落下しながら、炎鬼の頭目がけて、桃木剣を振り下ろす。


 木製ではあるが、霊的な力を蓄えた神秘の剣である。ゴースト相手には、見た目に反して、恐るべき斬れ味を発揮する。


 上空から落ちながらの斬撃を受けて、炎鬼の体は真っ二つに斬り裂かれた。


「ぎゃああああああ⁉」


 絶叫を上げる炎鬼。


 だが、シュウもまた無事ではない。全身を火炎で覆われている炎鬼に突っ込んだのだから、自身もまた、火に包まれてしまう。


『今じゃ! 喰うぞ!』

(了解!)


 シュウは変面モードを解くと、炎鬼の体に右手を当てた。


 たちまち、右手の口が、炎鬼のことを吸い込み始める。吸引の勢いで、ついでに自分の体を覆っていた火炎もまた一緒に吸い取っていく。


 そして、気が付けば――多少服は焼け焦げてしまったものの、シュウだけが無事に路上に立っており、炎鬼の姿は跡形もなく消え去っていた。


「な……なんだ、今のは?」


 一部始終を目の当たりにしたヒカルは、驚愕のあまり、目を見開いている。


「お前、なんなんだ⁉ どういうことだよ! 今のは!」


 ついにバレてしまった。自分が抱えている秘密を、ヘイユン以外のゴーストハンターに。しかも、その相手は、あのヒカルだ。


 後先考えずに、とにかく助けようと思っての行動ではあったが、それはもしかしたら大きな判断ミスだったかもしれない、と後悔しつつ、どう言い訳をしようかと今さらながらシュウは考え始めていた。

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