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第22話 生き抜く力

(どうする⁉ どうする! 考えろ! 生き延びる道を! 勝つ道を! 考えろ、俺!)


 桃木剣を構えながら、シュウは必死で、今の自分でも出来る勝ち筋を考えている。


 少なくとも、桃木剣を相手の急所に刺すことさえ出来れば、一発で倒せなくとも、致命傷を与えることくらいは出来る。


 問題は、変面鬼の動きだ。


 激しすぎる。怒りの面モードだからか、つけいる隙を与えてくれない。こんなの、どうやって攻めればいいというのか。相手の攻撃をかわしているだけで精いっぱいだ。


 変面鬼の背中には、あと三本の槍がついている。最大、あと三回は槍による攻撃が繰り出されてくるはず。それと立ち向かわないといけないかと思うと、ゾッとする。


「ケアアアア!」


 奇声とともに、変面鬼は背中の槍を外すと、シュウに向かって投げつけてきた。


 シュウはサイドステップで、飛槍をかわす。


 が、直後、目の前に二本目の槍が迫ってきた。シュウの回避を予測して、変面鬼は連続で次の槍を投げてきたのだ。


「うわっ⁉」


 シュウは桃木剣で、かろうじて槍を弾いた。危ないところだった。あとコンマ数秒反応が遅れれば、串刺しになっていただろう。


 と、変面鬼は自分の顔の前で、手を素早く上下させた。


 変面鬼の面が、また別のものに変わる。


『今度は喜びの面じゃな』

(喜び? じゃあ、怒りの面よりはだいぶマシってことか?)

『いや……そうとは限らんぞ』


 喜びの面に変わった変面鬼は、突如、舞うようなステップを踏み始めた。まるでルンルン気分を表しているかのような、不思議な動き。しかし、この状況では不気味でしかない。


 背中にさしている最後の一本の槍を外すと、変面鬼はステップを踏んだまま、一気にシュウへ向かって突撃してきた。


 来た――と思った次の瞬間、まるで時間でもすっ飛ばしたかのように、変面鬼の顔が目の前に迫っていた。何らかの武術の歩法を使ったのだろう。反応が、間に合わない。


 咄嗟の判断で、シュウは桃木剣を正中線を守るようにして構えた。深く考えてのことではない。とにかく、守るなら、人体の急所が集中している正中線だけでも防御しなければ、という生存本能が働いての一瞬の動きであった。


 それは正解だった。変面鬼はシュウの胸部の中心に向かって、槍による鋭い刺突を放ってきたのだ。


 ズドンッ! と桃木剣に槍の先端が叩き込まれる。仙人の武具と言われる宝貝は、たかだか普通の槍程度では壊れない。だが、衝撃はそのまま受け止めてしまう。シュウは体ごと後方へ吹き飛ばされた。


 裏路地の、もう何十年も放置されているゴミ箱やゴミ袋が散乱しているところへ、シュウは突っ込んでいき、ゴミにまみれながらゴロゴロと地面を転がる。


「キイイヤアアア!」


 変面鬼が雄叫びを上げて、跳躍した。空中で槍を振りかぶり、シュウに向かって鋭い刺突を放とうとしてくる。


 シュウは素早く身を起こし、腰を落としての低い体勢で、迎え撃とうとする。


 手が震える。脚も痙攣する。怖い。勝てる気がしない。今までR級ゴースト以上は単独で戦わないようにしてきた。勝ち目が無いからだ。それでも、今はどうしようもない。戦わなければいけない。そして、勝たなければいけない。


『臆すな。コントンを倒すのなら、あの程度のゴーストに後れを取るな』


 言われなくてもわかっている。


 手の震えを抑え、ふううう……と呼吸を整える。


 空中から、変面鬼は槍を突き込んできた。


 これまでの数多くの戦いの経験が、シュウの体には刻み込まれている。戦ってきたのはN級とはいえ、それでも、死線をくぐり抜けてきた。伊達に無能力で生き延びてきたわけではない。


 刹那の判断で、シュウは首をわずかに傾けた。変面鬼の槍は、シュウの顔面を狙って放たれていた。その狙いを、見事に読んだのだ。


 ヂッ! と頬を槍の穂先がかすめる。頬の皮が裂け、血が滲み出る。だが、大した傷ではない。


「うおおおお!」


 シュウはカウンターで、桃木剣を突き出した。


 変面鬼の心臓に当たる部分に、深々と突き刺さる。ギアアアアア⁉ と変面鬼は絶叫を上げた。


『よし、今じゃ! 右手を相手に向けよ! 喰らうぞ!』


 トウテツの指示に従い、シュウは桃木剣から手を放すと、右手を広げて、変面鬼に掌底のごとく叩きつけた。


 たちまち、シュウの右手の平に、横一文字の裂け目が現れ、ガバァッと口が開いた。


 ズシュウウウウ! と豪快な音を立てて、右手の口が、変面鬼の体を吸い込み始める。変面鬼の絶叫が裏路地に響き渡る。腰から吸い込まれ始めた変面鬼は、海老反りのような体勢になって、体がバキバキと折り畳まれながら、口の中へと引きずり込まれていき、やがて最後まで抗うように、ほんの少し頭部が口から飛び出たまま、なかなか吸い込まれずにいたが、結局、ズポンッ! と吸収されてしまった。


 シュウは、自分の体内に、何か得体の知れない熱いものが入り込んでくるのを感じた。全身にエネルギーが満ちてくるような感覚も覚える。以前、初めてゴースト「スパイダー」を吸い込んだ時とは、また違った感触。それはR級ゴーストだから、感じているものかもしれない。


『よくやった。これで、変面鬼のスキル「変面」はお主のものじゃ』

(ハハハ……すっげ……でも、あんなの、どうやって使うのか、俺にはさっぱりわからないけど)

『必要な時が来たら説明してやろう。今は、ほれ――』


 トウテツの最後の呼びかけは、裏路地の入り口に竜之介が現れてのものであった。


 まさか、ゴーストを吸い込む瞬間は見られてないよな、とシュウはドキドキしたが、どうやら杞憂のようだった。


「おー、R級も倒せるか。なかなかやるじゃねえか」


 煙草を口に咥えたまま、竜之介はパチパチとやる気の無い感じで拍手を送ってくる。


「んじゃ、次行くぞ。まだ中華街に入ったばっかだ。こんなところでモタモタ戦っている暇はねえぞ」


 まったくもって容赦ない。スパルタOJTもいいところだ。


 こっちのことは気にせず、スタスタと先へ進んでいく竜之介を、慌ててシュウは追いかける。


 二人はいよいよ、旧中華街の本丸へと乗り込もうとしていた。

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