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第19話 突入前

 もうゴーストハンター以外は誰も使わなくなった高速道路を、自衛隊から貸与した軍用ジープで飛ばすこと約20分ほどで、旧横浜中華街に到着した。


 港湾側にある東門「朝陽門」の前に、東京地区と、その他関東圏から集結したゴーストハンター達が集っている。


 ジープから降りた、シュウ達カバネバミの5名は、東京から派遣されたハンター達のチームに合流した。


「げっ」


 東京チームの中に、ヒカルの姿があるのを見かけて、シュウは顔をしかめた。


 対するヒカルは、シュウのことを見つけると、たちまち顔を強張らせ、敵意を剥き出しにして、ツカツカと歩み寄ってきた。


「おい、この死に損ない! どうやって、あの状況から、トウテツに襲われて生き延びた!」


 その詰問を受けて、最初、シュウはヒカルが何を言っているのか理解出来なかったが、しばらくしてから、ようやく話の筋が見えてきた。


 ヒカル達は、シュウがトウテツに変身する瞬間を見ていなかったのだ。だから、シュウ=トウテツという風には思っていない。突然トウテツが現れて、自分達を襲ってきたとしか、考えていないのだ。


「彼女に助けてもらったんだ」


 シュウは、隣に進み出てきたヘイユンのことをさした。真実とは違うが、とりあえず公式にはヘイユンに救われたことになっているから、そういう風に説明する。


 ヘイユンの名は日本でも知れ渡っている。だが、その外見的特徴まで詳しく知っている者はほとんどいない。ヒカルもまた、彼女が何者か知らず、無謀にも真っ向からメンチを切ってきた。


「なんだぁ? お前は? 何してくれちゃってんだよ」

「別に、死にかけている仲間がいたら救出するのは、ゴーストハンターとして当たり前のことでしょ」


 さすが歴戦の強者が揃う中国でもSランクとして名を馳せているヘイユンだ、ヒカルのヤカラのような物言いに対しても、まったく動じていない。


「それが余計な真似なんだよ! こいつが無能力のランク外だってこと知らねえのか? そんなクズが、貴重な宝貝パオペイを持っているんだぜ! あの場でくたばって、もっと価値あるハンターの手に宝貝が渡ったほうが、世のため人のためになっただろうが!」

「あなたが、どこの馬の骨だか知らないけど、まさか、自分が宝貝を使うだけの価値があると、本気で信じているの?」


 クスッ、とヘイユンは口元に手を当てて、意地悪な笑みを浮かべる。


「まさかぁ」


 その安い挑発に、まんまとヒカルは乗っかってしまった。


 ピキッ、とこめかみに血管を浮き上がらせんばかりの勢いで、憤怒の表情を浮かべると、あろうことか女子であるヘイユンに対して、正面から掴みかかろうとした。


 その腕を、横から、竜之介がガシッと押さえ込んだ。


「うちの隊員だ。俺の仲間だ。暴力を振るうなら、俺が相手になってやるぞ」

「てめえは……!」


 竜之介の顔を見たヒカルは、怒りから、嫌悪へと、サッと表情を変えた。自分の腕を掴んでいる、竜之介の手が、まるで汚らわしいものであるかのように、慌てて振り払い、二歩ほど後退した。


「そうかそうか、この女、残飯狙いのゴミクズ部隊の新入り、ってわけか」

「ちなみに、お前が最初に喧嘩をふっかけた八ツ神も、本日付でうちに入隊したばかりだ」

「ああんっ⁉ ランク外もかっ!」


 大声で怒鳴った後、今度はヒカルはワハハハハ! と急に笑い出した。


「そうかそうか! とうとう、そこまで落ちぶれたか! いや、ちょうどいいじゃねーか! お前にはお似合いだぜ、ランク外! 俺達が追い込んだゴーストを横取りするんだ、楽な仕事じゃねーか! せいぜい、邪魔にならないよう、離れたところでブルブル震えながら見ているんだな! 俺達の活躍を!」


 そのまま、楽しそうに笑いながら背を向けて去ってゆく。その行く先には、例の廃ビルでシュウのことを追い詰めた、ヒカルの部隊員達が立っている。彼らは、実に複雑な表情を浮かべていた。ヒカルはともかく、部隊員達はあの時、まさかのランク外のシュウに追い詰められていたのだ。何か得体の知れないものを見るような目で、シュウのことを眺めている。


「なーんか、一人でギャアギャア喚いたと思ったら、一人でゲラゲラ笑いながら、いなくなったぞ。大丈夫か、あいつの情緒?」


 斜め後ろからリオのツッコミが入る。いやはや、まったくおっしゃる通りで、と呆れ顔のシュウは、ため息をついた。自分の中にUR級ゴーストのトウテツが潜んでいるからか、ヒカルがどれだけ脅してきても、怖くはなかった。滑稽を通り越して、哀れみすら感じるほどだ。


「珍しいね♪ 隊長が、隊員をかばうなんて」


 一番後ろで、相変わらずスマホゲームに夢中になっているエレナが、画面から目を離さないまま、明るい声をかけてきた。


「まあ、ヘイユンに関しては、うちの隊にはもったいないくらい、貴重なSランク様だからな。それなりの対応をするさ」


 言外に、ランク外のお前を守るつもりは無いぞ、とシュウに向けて言っているようなセリフだ。実際、竜之介はその発言をする際、シュウのことを冷たい目で見ていた。ここから先、お前は死んでも構わない、とでも言わんばかりの目つきだった。


「それにしても、すげー数いるな。関東中の一級戦力が集まってるんじゃねーのか?」


 リオが感心しながら、周りを見渡す。


 竜之介は、自分のスマホに届いていた、今回のミッションへの各地区の参加状況を、あらためて確認した。


「東京からは20名、千葉は5名、埼玉16名、茨城13名、栃木11名、群馬20名。神奈川は、地区長が討ち死にしたもんだから、指揮系統が機能していないんで、0人だそうだ。おっと、なんか知らんけど、山梨と静岡からも1名ずつ派遣されてるな」

「その2件は関東圏じゃねーじゃん」

「まあ、神奈川に近いから、ってだけで駆り出されたんだろ」

「千葉がすくねーな。あそこ、けっこうな数の実力者がいるはずだろ」

「ゴースト禍以前から、千葉は心霊スポットが多いことで有名だったからな。あの地域は、もともと冥界との境界線が曖昧になってる場所が多いんだよ。ゴースト禍以降、一気にトンネルが開通した。とても、他の県のトラブル対応に人員を回す余裕はねーんだろ。申し訳程度に、Cランク5名だけ寄越してきてるしな」

「舐められてんじゃねーか、大禅さん。日本の支部長の命令だっていうのに」

「仕方ないさ。千葉の地区長は、大禅じーさんと支部長の座を賭けて争った曲者だ。いまだに大禅じーさんがトップにいるのが認められないんだろ」

「器ちっさ」


 あまりの情報量に、シュウは頭が追いついていない。次から次へと、これまで自分が知らなかったようなゴーストハンター協会日本支部の裏事情が暴露されて、かなり混乱している。


 そんな中で、エレナは冷静に、ゲームを続けながら、ポツリと呟いた。


「全部で87名だね~、この任務に参加しているの」


 ゲームに集中していて脳内のリソースは僅かしか割けないであろうに、竜之介が話した各地区の人数を全部記憶して、計算して、結果を導き出した。見かけによらず、かなり頭脳の処理能力に長けているのかもしれない。


「中華街……SR級ゴーストが3体……まさか……?」


 何か気になることでもあるのか、ヘイユンは朝陽門の奥、夜の暗闇が広がる旧中華街のほうを睨みつけながら、ブツブツと独り言を言っている。


 やがて、どこからか伊庭島大禅の声が飛んできた。


「全員注目!」


 よく通る声だ。そして、どうやら現場の指揮を自ら執るつもりらしい。確かに、これだけの多様な地区の大人数をまとめ上げるのだから、日本支部長でもなければ、収まりがつかないであろう。


「間もなく、旧中華街跡地へと突入する! まず心しておくべきは、神奈川の精鋭を含めた全戦力の9割が全滅した! その事実である!」


 一気に、全体の空気が引き締まった。自分達がこれから挑もうとしているミッションの難易度について、あらためて認識させられたからだ。


「最後に瀕死のハンターより送られてきた情報は、SR級が3体いるということ! じゃが! 神奈川のハンター達はこれまでにSR級を幾度も倒してきた実績がある。その者達が、歯が立たなかった!」

「つまり――実際の敵の強さは、SR級が天井じゃないかもしれないわけだな」


 大禅の言葉に合わせて、竜之介は自身の見解を示した。その声は、周りが静まりかえっていたので、異様に周囲に響き渡った。「チッ」と鬱陶しそうに、ヒカルが舌打ちするのが聞こえてきた。


 SR級が天井じゃない⁉


 それってつまり――UR級が潜んでいるかもしれない、ということか⁉


 その可能性に思い至り、シュウは自分の毛が逆立つのを感じた。もしもUR級がいるのだとしたら、四凶の誰かの可能性は高い。もしかしたら、両親の仇のコントンであるかもしれない。


「わしから出陣前に言えることはただ一つ! 油断するでないぞ! 以上じゃ!」


 ついに、突入の時が訪れた。


 シュウの目の前の、おそらくDランクくらいのゴーストハンターが、青ざめた表情でガタガタと震えている。


 果たして、ここに集結した87名の内、何名が生き残れるのか。


 胸の奥からせり上がるような緊張感と恐怖を、無理やり胃の奥へと押さえ込むように、シュウはゴクリと喉を鳴らして、唾を飲み込んだ。

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