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第20話 OJT

 次々と各部隊が旧中華街の中へと突入していく。


 だが、竜之介は少しも動こうとしない。


 リオは呑気に朝陽門の周辺をブラブラと観察して回っているし、エレナは相変わらずパンツが見えるのも構わず地面に直に座ってスマホゲームに興じている。


 ふう、とヘイユンは呆れたようにため息をついた。だけど、何も言わない。もともとカバネバミの特徴を聞いていたから、何を今さら、ということなのだろう。


 だけど、シュウは言わずにはいられなかった。


 もしも旧中華街の中にいる強敵ゴーストが、実はUR級で、しかもコントンだとしたら、他のゴーストハンターに先を越されたくない。もちろん、本来のシュウの実力では瞬殺間違いなしだが、今は、この身にトウテツを宿している。勝ち目は無いわけではない。


「行かなくていいんですか?」

「俺達の戦い方を知っているなら、無駄な質問するな」


 冷たく言い放ち、竜之介は煙草に火をつけると、ふー、と気持ち良さそうに煙を吐いた。


「まあ、新人のお前に、親切に説明してやると、俺達みたいなハイエナ部隊にも、一定の需要はあるんだよ。だから、大禅のじーさんもお目こぼしをしてくれている」

「どういうことでしょうか?」

「精鋭連中が最前線で頑張って敵ゴーストを消耗させ、あとちょっとでとどめを刺せる、っていう時に、そのあとちょっとがもうしんどい、精根尽き果てて、これ以上戦うことが出来ない、ってこともあり得るだろ? そのタイミングで、それまでまったく戦っていないピンピンした元気な部隊が突入してくる。で、安全に弱り切ったゴーストを仕留める。どうだ? 合理的だと思わないか?」

「それだったら、最初からみんなと協力して戦ったほうが、効率よくないですか?」

「お、正論」


 竜之介は否定しなかった。シュウの言ったことも筋が通っている、ということだろう。だったら、なおのこと、なぜ周りから憎まれるような戦い方を、わざわざ選ぶのか。


 ふうう……と煙を盛大に吐き出し、竜之介は真っ暗な夜空を見上げて、どこか遠い目をした。


「ま、無能力のランク外だと『本物の戦い』ってものをあまり知らないんだろうな」

「俺だって、いつも生き延びるのに必死なんですけど」

「そんな足手まとい君だと、誰もチームを組んでくれなかった。違うか? お前、チームメンバーと一丸となって戦う、なんて経験はないだろ」

「ま、まったくないわけじゃ、ないです……」

「その様子だと、全然なさそうだな。まあいい、見栄張るな」


 まだ吸っている最中だというのに、急に竜之介は煙草を足元に捨てると、踏んで火を消した。一割も吸っていないというのに、どうしたことかとシュウが不思議に思っていると、


「行くぞ」


 急に、そんなことを言い出した。


「え、行くって?」

「何すっとぼけたこと言ってるんだ。お前は待機しているのが耐えられないんだろ。だから、この俺が直々に、OJTで教えてやるよ。『本物の戦い』ってやつを」


 そう言い放つやいなや、竜之介はスタスタと歩き始めた。向かう方向は、朝陽門。旧中華街の中へ入ろうというのだ。


 もうすでに、他の部隊は全員突入している。残っていたのは、カバネバミの5人と、大禅およびその秘書の龍花だけだ。


「おーい、竜よ。まさか、らしくないことをしようとしているのでは、なかろうな?」


 後ろから大禅が声をかけてきた。


 竜之介は苦笑しながら、振り返った。


「新人教育だよ。この甘ちゃんに、現実の地獄ってやつを見せてやろうと思ってな」

「ならんぞ。わしが何のために、カバネバミの戦い方を黙認していると思っているのじゃ? バックアップ部隊がおらんと、いざという時に大変なことになるではないか」

「じーさん、あんたがいるだろ」

「わしはもう最前線に立つほどの実力はないぞ」

「よく言うぜ」


 大禅の制止を、竜之介はあえて無視して、「ついてこい」とシュウを促すと、再び朝陽門へと向い始めた。


「え? え? 隊長、もう行くの? まだ全然早いよ!」

「おいこら、隊長。勝手な真似すんなよ。俺達らしくねーだろ」


 エレナとリオもまた止めに入ってきたが、竜之介は全然聞き入れない。


「リオ、エレナ、ヘイユン。お前らは大禅じーさんと残ってろ。突入するのは、俺と八ツ神だけだ」

「何でよ。私も行くわ」


 Sランクとしての誇りもあるのだろう。ヘイユンは不満そうにそう言って、自分もまたついていこうとしたが、それを竜之介は片手を上げて制した。


「ダメだ。残ってろ」


 有無を言わせぬ語調の強さに、ついヘイユンは足を止めてしまった。


 その隙に、竜之介はさっさと朝陽門をくぐり抜けた。慌てて、シュウも後を追い、旧中華街へと突入する。


 門がちょうど防波堤のような役目を果たしているのだろう。向こう側は、入った瞬間から、異様な空気で充満している。


「うぷ」


 DPゼロのシュウは、肉体的には一般人と大差ない。漂っている濃厚な瘴気を吸い込んで、吐き気を催した。


 不気味なほどに、静かである。突入した部隊が戦闘を繰り広げているのであれば、道術が飛び交い、もっと激しい音が鳴り響いていてもおかしくない。それなのに、なぜか、無音である。


「随分と静かですね」

「誰か、結界を張ったんだろ」

「えっと……つまり?」

「素人か、お前は。結界を張ることで、相手のゴーストを自分専用の空間に閉じ込めて、そこでなぶり殺しに出来る。その代わり、外にいる仲間も結界には入れなくなるから、援軍も望めない。逆に自分がなぶり殺される可能性だってあるわけだ」

「音が聞こえないのは、そのせいですか」

「たぶんな。あるいは――とっくの昔に全滅しているか」


 などと話をしていると、電柱の陰から、ヌルリと瘴気状のゴーストが這い出してきた。まだ実体を伴っていない。見た目からしてN級。普通のゴーストハンターであれば、大したことのない敵だ。


『つまらん』


 それまでずっと黙っていたトウテツが、久々に心の中で話しかけてきた。


(何がつまらないんだよ)

『あんなもの、いくら喰らっても無駄だ。スキルを一切持っておらん。相手せずにやり過ごすのが良い』


 トウテツはそう語ったが、一方で、竜之介はまったく異なることを言い出した。


「入隊記念だ。あのゴーストをどう倒すのか、見せてもらおうか」

「え。隊長は?」

「俺は見学させてもらう。お前の戦いぶりをな」


 マジかよ、と弱り果てながらも、シュウは桃木剣を抜き、ゴーストを前に戦闘態勢に入った。


『わしは今回は手伝わんぞ。まずいものは喰いたくない』

(ちくしょう、俺一人で何とかしろってことか!)


 覚悟を決めた瞬間、瘴気状のゴーストは、もやのような体を路地いっぱいに広げて、シュウに襲いかかってきた。

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