辿り着いた部屋の中で
無事に王家選抜祭により招き入れられた、他の者達との食事会を終えたニア達は遂に用意された部屋へと向かうべく長い廊下を歩いていた。
「レヴィーナ様とカラリナ様はご友人とお聞きしました。お部屋は同じの方がよろしいですか?」
「そうですね。お願いできますか?」
「お任せください。ちょうど2人部屋が空いていますので、そちらを手配させていただきます」
迅速に部屋の手配をしてみせるライラットに、ニアとオーゼンは深々と礼を返してみせる。
時刻はすでに日が暮れ始めるほどであり、その身には多大な疲労が溜まっていた。
それを見越してか、ライラットは流れるように用意された2人の部屋の元へと歩いていくと、
「着きました。今日より、お二人にはこの部屋に住んでいただきます。好きにお寛ぎいただき構いませんが、もし何か不明瞭な点などがありましたら、是非私にお声がけください」
「はい、ありがとうございます!」
案内されたその部屋は、3人以上が想定されているのではと思うほどに広い大部屋だった。
王と謁見した部屋のような目の痛くなるほどの装飾もない、レトロな雰囲気が疲れた心に無自覚に癒しを与える。
強いていうとすれば、天井に備えられているシャンデリアだけがどうしようもない場違い感を放っていた。
そうして部屋の案内を終えたライラットは、ニア達の体力を考慮してか、深いお辞儀を残すとやがてその場を去っていく。
やがてライラットの姿が消えた頃、ニア達はどっときた疲れと共に深く息をつくと、
「…紆余曲折ありすぎじゃないか?」
鞄を下ろし、短期間に起きたあまりの色々を思い返しながら、ニアはそんなことを口にしていた。
その口調は部屋に2人だけだからかレヴィーナではなくニアの口調へと戻っていた。
だがオーゼンもまた、ニアへと言いたいことはあった。
「一応言うけど、その紆余辺りをやらかしたのはニア、お前だからな。誰が開幕でいきなり王様に喧嘩ふっかけると思うんだよ」
「まぁそれは…確かに、すまなかった」
釣られるように元の口調へと戻ったオーゼンは、やがてずっと我慢していたと言わんばかりに文句にも近しい言葉を口にする。
だがそれは紛れもない事実であり、おそらくは今まで王に反旗を翻した者はいなかったのだろう。
だからこそ、王は過剰なまでニアへ裁定を下そうと怒れていたのだと。
そうして冷静になった今、自身のしでかしたことの危うさを理解したからこそニアは素直に謝罪の言葉を口にする。
謝罪を受けたオーゼンは腕を組みながら深く息をつき、だがやがて部屋の中へと視線を移すと、
「部屋…なんだかあまりにも実感が湧かないな。本当に俺たち王家に迎え入れられたのか?」
「同感。でも王謁は終わったし、判定的には王家に迎え入れられてるんだろうな」
流れるままにというべきか、状況への理解が追いつかないままにさまざまな出来事が起こったために、オーゼンの中にはいまだに迎え入れられたという実感が湧いていなかった。
だが今いるこの部屋こそが迎え入れられたことの何よりの証明であり、言葉にできない新鮮味にオーゼンはひどくソワソワとし始める。
「これって自由に外とか出歩いていいのかな」
「どうだろうな。まぁどっちにしろ今日はもう厄介ごとを起こしすぎたし、出歩くとすればまた明日だな」
体力の有り余るオーゼンを静止し、ニアは柔らかいベットに身を沈めると、静かに思考し始める。
王城へと足を踏み入れてからここへと辿りつくまでに感じた、幾つもの違和感。
時間がなかったために思考を置いていたそれを、再び寄せ集め始める。
ーー夢のかけら…カラクみたいな怪物を作れる存在の遺したものと言われれば願いを叶えられるというその力も信じられるが、何故そんなものがここに…?それに、『白き王』の呪い…何故カラクリアの人たちにだけ記憶がある…?もしそれがラノアの言う通り呪いだとして、記憶する者を限定的にする理由はなんだ…?それと、やっぱりここでも先生の話は聞こえて来なかった。本当にここにいるのか…?地図に記されてるのは間違い無くここ、ならなんで誰も先生の話を…
絶え間なく浮かび上がる疑問は、時間と共にニアの脳内を埋め尽くしていく。
だがニアは浮かび上がった疑問に集中することなく、浮かんだ疑問はやがて霧散していく。
それもそのはず、何故なら天井を見上げるニアの視界の端には、先ほどからぴょんぴょんと飛び上がる影が映り込んでおり、
「…何してるんだ?」
「このベットふかふかなんだ!俺たちが泊まった宿のベットもは柔らかかったが、これは段違いだな!」
落ち着きなく飛び回るオーゼンの様子に、ニアは疲労も相待ってかベッドに横たわり、目を瞑る。
瞬間、受け止める柔らかいベッドがニアの意識を吸い寄せるように朦朧とさせていく。
そうして意識が落ちかけたその刹那、
『—い、彼を…彼だけはここにいては———』
——ニアは目を覚ました。




