いざ王城へ!
注意するべき人物。そして自分たちが赴き、気にかけるべき物の正体。
必要最低限といえど、伝えられたその情報はニアとオーゼン2人の脳内に埋め尽くすには容易に事足りる物であった。
だが、その何よりもニアの脳内を埋め尽くしたのは、ラノアが最注意人物として名を挙げた、ライラットのことだった。
しかし、それも仕方のないことであるのだと。
何故ならニアはこれからその最注意人物であるライラットの元を訪れ、更には王城の中へと足を踏み入れようとしていたのだから。
ーーどうする。ライラット…あの人が本当に注意するべき人…?いや、問題はそこじゃない。これから俺があの人を訪ねるとして、何よりも正体がバレないように上手く誤魔化すしかないってことだ。バレれば終わり。重役は俺が担ってるってことだ。
慣れない女装。目的のものを探しながら、3人の注意人物の目を掻い潜り、更には新たな王族として違和感のない立ち振る舞いを求められる。
いつかぶりの無理難題にどうしようもないため息を実感しながらも、ニアは改めて、これからするべきことを頭の中で整理していた。
時刻は既に朝よりも昼に近いほどになっており、出向くにあたって、これ以上の遅延は許されない。
だからこそ、ラノアは改めてニア達へと可能な限りの信頼を向けると、
「言い忘れていたわ。夢のかけら…言い伝えによれば、その力は三度まで発動できる。すまないけれど、うち二つは私が使わせてもらうわ。これは絶対に譲れない。ただし、もしあなた達が見つけてくれたのなら、その礼として最後の一つはあなた達の願うままにしていいわ」
「…いいのか?」
「…文句言わないのね。正直、私はここで待ってるしかできることがないし、それなりの文句を言われる覚悟はしていたのだけれど…」
カラクのような怪物を生み出した存在の代物となれば、叶えられる願いに制限などないに等しいのだろう。
それだけで夢のかけらの価値はニアが想像していたよりもはるかに高まる。
だが、秘匿しておけばいいはずのその情報をわざわざニア達へと打ち明けたのは、きっとラノア本人が未だにニア達を巻き込んだことに対して、わずかばかりな引け目を感じているためなのだろう。
それを感じ取ったからこそ、ニアはわずかに驚き、目を伏せるラノアへと優しく笑みを浮かべると、
「俺たちは、ラノア、君の力になりたくて今こうしてここにいるんだ。そこに対価は必要ないし、譲歩も必要ない。あくまで善意での行動だと思ってくれていい。けど、そんな行動に褒美まで付いてくるって言われてるんだ。喜ぶ以外の方が不自然じゃないか?」
「…それは…確かに??」
キッパリと伝えられるその言葉はニアの性格を端的に表したものであり、褒美はあれど対価は要らず。
予想すらしていなかった言葉にラノアは言いくるめられたように納得の言葉を口にし、その様子にオーゼンは楽しげに笑ってみせる。
そうして続けてオーゼンへと顔を合わせたニアは、やがてオーゼンと共に深く頷くと、
「なら改めて、俺たちのするべきことは決まった。信頼された以上、その信頼に応えられるよう全力を尽くすつもりだが、もし万が一失敗しても文句言うなよ?俺だって女装して乗り込むなんか初めてなんだから」
「前も言ったけれど、これは元はと言えば私個人の私情。協力してくれるだけで感謝の言葉が尽きないのに、そこに文句の言葉を垂れ流すなんて、次期国王として私が許さないわ」
一貫したラノアの王としての威厳に、ニアは安堵したように笑ってみせる。
「それじゃあ行ってくる。ヨスナさん、ウミをよろしくお願いします」
「かしこまりました。何一つ不自由をさせないと誓いましょう」
この場にいないウミは、きっといつも通りベッドの上で今もすやすやと眠っているのだろう。
わずかな別れとはいえど、寸前にその姿を見れないことにニアは多少の寂しさを覚えてしまう。
だが、ヨスナの元であれば大丈夫だと口にできるほどの信頼は、この数日間に築かれている。
そうして瞳を閉じ、深く息を吐いたニアは、やがて自らの隣に立つオーゼンへと改めてその目を向ける。
——また緊張し、不安に揺れているのではないか。
だが見えた視界の中のオーゼンは、そんな心配を打ち崩すほどに楽しげな笑みを浮かべていた。
——だからこそ、
「よし、行くか!オーゼン!」
「おうよ!」
2人は、どこか楽しげにその一歩を踏み出すのだった。
三度目のカラクリア。
その壁の内側は変わらず綺麗に装飾されており、だが王家選抜が終わったためか昨日よりもわずかばかりに落ち着きを取り戻していた。
だがそれでも依然として人々の数は先を覆い隠すほどに多く、前回同様その人混みを掻き分けながらニアとオーゼンは前へと進んでいく。
「——!!何度でも言おう!だからこそ、我々は—-!!」
やがて聞こえてくる演説は、いつかの地点に戻ってきたのだということをニア達へ伝える。
そして同時に、前回のことがあったからこそニア達の心境にわずかな不安を生じさせる。
不安を吹き飛ばしてくれるウミはおらず、頼みの綱でもある桜月は、今や鞄の中にその姿を潜ませている。
それらの要因が、一度体験したニアへ躊躇いとして次の一歩を踏み出すことを引き留め、本人ですら自覚しないうちにその足取りを重くする。
だがその時、不意にオーゼンはニアの手を掴むと、
「大丈夫。私がついてます」
いつかニアが伝えたのと同じ言葉を、オーゼンはニアへと返してみせる。
そして掴んだ手を引くと、先導するように先へと歩き始める。
聞こえていた演説はいつの間にか遠くのものとなり、それ理解すると同時にオーゼンはニアの元へと振り向くと、
「ね?言ったでしょ?」
優しく笑いかけるその顔は元が男だと知っていなければ惚れてしまう程に素敵であり、だからこそニアもまた小さく笑うと、
「えぇ、助かりました!流石です!」
大袈裟なほどの反応で、感謝の言葉を伝えるのだった。




