『夢の終わりを告げる者』
「さて、それじゃあ決着と行こうか」
「愚問だな」
声と共に、アンセルとアストーは一歩を踏み出した。
大地を踏み締めると共に、カラクの姿が消える。
カラクの動きは『修正』直後と比べ、大幅に弱体化していた。
3人の気づかない間に行われていた『修正』。
それにより、カラクは負傷を瞬き一つの間に完治させていた。
だが、その発動条件が見破られた今、カラクの傷を治癒するものはない。
足に負った負傷が、“本来あるべき負傷”としてカラクの身を蝕んでいた。
ーー右、上、左…
カラクとは対照的に、ニアの意識はさらに研ぎ澄まされていく。
それでも、戦いの中で成長しているのはニアだけではなかった。
「…っ」
力が見破られた事により、カラクは自身の戦い方を改めていた。
頼り切っていた『適応』への信頼を捨てる。
残ったのは、生まれた時から生まれ持った“本来の適応力”だけ。
——カラクは高揚していた。
久しく現れなかった自身の好敵手となり得る存在に。
自身と同じ、常軌を逸したものを持ち得る存在との死闘を。
「そこだ」
迫るカラクの体は、声と共に地面を擦っていく。
不意に、ニアの瞳はぐらりと揺れた。
焦点はズレ、崩れるようにして地面へと膝を折る。
追い越したはずの限界が、再び目前へと迫ってきていた。
溢れた血が、地面を赤く染める。
咄嗟に顔を上げる。
目前に見えたのは、カラクの拳。
「…!!」
回避は叶わない。
迫る拳が額へと接する。
刹那、ニアの体は見えない壁により後方へと押し除けられる。
立ちあがろうとも、力を入れた途端に膝はくずおれる。
戦いを継続することなど不可能なほどの重症。
だからこそ、ニアは笑った。
「次の一撃…っ、それで、この戦いを終わらせる…。だから…こい、カラク…!!」
全身の感覚は無いにも等しい。
そんな状態の中、ニアは桜月へと手を伸ばす。
消えたカラクの姿を、瞳は捉えない。
それでも、無理矢理に立ち上がった足は一歩を踏み出した。
現れた拳が、ニアの額を狙い打つ。
その時、ニアの体は見えない壁に押し上げられるように、宙へと空いた。
踏み出した一歩を支えるように、幾つもの不透明な足場がニアを支える。
直後、ニアは駆け始める。
背中を押す壁が、体を無理矢理に前進させる。
そんなニアを叩き落とすべく、カラクは拳を振り抜いた。
反射的に身を低くし、さらに加速する。
振り抜かれた一撃が、つい寸前までニアのいた箇所を削り飛ばす。
「ふぅ…」
息を吐き、桜月を引き抜く。
光る刀身が、カラクの身へと迫っていく。
その軌跡は、全てを断ち切る一撃。
接触したカラクの肌にはヒビが生じ——、
「…!!」
突然膨張し始めたカラク。
異常への反応が遅れる。
その場から退こうと足を踏み出す。
踏み出した足は、無意識に崩れ落ちる。
——桜月が、空を舞った。
そこにいたはずのカラクの姿が、瞬きすらしない間に忽然と消え失せた。
同時に、ニアの背後に現れた影。
その姿を捉えたニアは、目を見開く。
ーー…脱皮…!!!
拳を握りしめるカラクの姿。
全ての力は、使用されていない状態へと戻る。
『修正』のそんな当たり前のことを、今理解する。
刹那、ニアの胴体を衝撃が貫いた。
「ごふ…っ…」
視界が歪む。
“脱皮”により意識が逸れた。
それにより、目の前のカラクは全快を果たしていた。
軋む体は、やがて打ち上げられる。
落胆したように、カラクはアストー達へと目をやる。
「…ナイスだアストー!!」
その声は、カラクの上空から聞こえてきた。
躊躇いなく笑う声。
カラクは、咄嗟に見上げる。
そこには、先ほどと同じ姿のニアがいた。
手は、ビリビリと痺れている。
離してしまいそうな桜月を、気合いだけで握りしめる。
——その様子に、カラクは妙な違和感を覚えていた。
笑うニア。
疑問は、瞬く間に解決される。
ーー大丈夫、力はいらない。意識しろ、刃先、その寸前だけをこいつに当てるイメージ…斬れ、成し遂げろ!!
カラクの一撃を受けたニアは、先程までの集中から解かれていた。
視界の先にいるのは、“ただそこにいるだけ”と切り捨てた弱者に他ならない。
にも関わらず、背筋は絶えず脅威として知らせる。
臓器の浮く感覚。
しかし、ニアの瞳には微塵の恐怖も含まれていなかった。
『…!!!』
捉えるのは、カラクの姿だけ。
タイミングを合わせ、カラクの拳が振り抜かれる。
「——言っただろ?そこには既に“君”がいる。と」
気がつけば、体が傾いていた。
自身の力を跳ね返したかのような威力。
アンセルは、ニヤリと笑った。
「ふぅ…」
不安はない。
迷いも、躊躇いもない。
なぞる軌跡は、全てを断ち切る一撃となる。
そうして遂に、その技は完成する。
冷たさを持って、鋼鉄の肌を切り開く。
よって、その技の名は、
「寒縫」
——甲高い音が響いた。
やがて、カラクの体は二つに切り隔てられる。
ズレていく胴体が、勝負は決したことを知らせる。
夢の産物であるカラクに死という概念は存在しない。
胴体がズレていく中、悪あがきのようにニアへと拳を振り抜く。
「…真喝」
ニアは静かに呟いた。
迫っていた腕は、宙へと弾かれる。
地面へと落ちていく胴体。
その場に沈黙が訪れる。
だが、戦いはまだ終わっていなかった。
「女!!」
「アンセルだって!わかってる!!緊急だ、我慢しろよ、君達!!」
息を吐き、アンセルは目を瞑る。
カラクの胴体が地面へと接するまでの、1秒にも満たない集中。
ーー3点の再起…負荷上等!!やってみせろ!!無敗の守り手!!
アンセルの瞳が、紅く光り輝く。
攻略不可能な『修正』の突破方法。
それをアンセルは無意識のうちに理解していた。
ーーよかったよ、カラク。私が君の天敵で、本当によかった。おかげでこの勝負は…
目から血が吹き出す。
足りない分のエアを無理矢理行使する代償。
臓器の全てが、握り潰されるような激痛が走る。
気がついた頃には、3人の体は吹き飛ばされていた。
カラクの一撃。
人の命など優に奪える威力。
それこそが、戦いを終えるために必要なものだった。
「『修正』は意識に依存する。なら、発動するよりも早く全員が気を失えば——」
——カラクの『修正』の、唯一にして無二の破り方。
それは『修正』が発動するよりも早く、その場の人間全ての意識を手放させる事。
それは、アンセルという存在により容易く行われる。
「ぐ…」
「っ…」
「ははっ…、私たちの勝ちだ」
体が、巨岩へと衝突する。
3人は、意識を手放すのだった。
カラクさんの能力。分かったとて対処することすら不可能なその力の破り方、みなさま予想できたでしょうか!!!そんな破り方が…!!みたいに思っていただけたなら何よりです!!
そして寒縫!!かっこいい!!!




