↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遠い世界の君から  作者: 凍った雫
夢と旅路
PR
68/105

誰かのスクリーン

「ニア!!」


 アンセルは、声を荒げていた。


 無情にも、木々を薙ぎ倒す音は止まらない。


 拳を握りしめ、思考を加速させる。


ーー考えろ。私1人では時間稼ぎはできても決定打には成りえない。肉体による攻撃はまず通らないと見ろ。だとすれば、私にできる最善は——



 カラク相手にも優位を貫いていたアンセル。

 しかし、その実力は天啓ありきのものだった。


 元の身体能力は、常人が背伸びをした程度のもの。

 それを抜きにしたとしても、再起させる過去のないこの場において、アンセルは無力に等しかった。


ーー2人のどちらかでいい。ここへ復帰し、状況が転機するその時まで耐えろ…!たとえ私が戦えないほどになろうとも、ここまで紡いだ軌跡を死ぬ気で繋げ…!!



 視界から消えた“過去”。

 そして、現れた巨塔の存在から、アンセルはある仮説へと至っていた。


ーー守宮のカラク…ようやくわかった。こいつの『修正』の効果…それは、事象の否定…!!



 カラクは、ゆっくりと立ち上がる。

 アンセルの元へと向くその様子は、アンセルとの一騎打ちを望んでいるかのようだった。


 額に、微かな汗が滴る。


 だからこそ、アンセルはふっと笑い、再びカラクとの戦いへと身を投じていく。

 







 暗い視界に、灯りが灯る。


『——昔々、あるところに幸せに暮らす様々な種族がおりました』


 それは突然に始まった。 

 黒いスクリーンに映った白い文字。


 それと共に聞こえ始めた聞き覚えのない声。

 その口調は、子供へと読み聞かせをしているようだった。


『羽を持ちながら、空を飛べない者。別世界へと住処を移し、平穏に時を過ごす者。穴蔵の中で一年中眠り続け、それを幸福と捉える者。人と仲良く暮らし、人が好きな影に生きる者。海の底に暮らし、生物の声を歌とする者。外の世界を憧れる、地底の者。誰にも従うことなく空を流れる、自由な者。世界を小さく思ってしまうほどに大きな体を持つ者』


 次第にスクリーンには、幾つもの絵が写り始めた。


 羽を持った小さな体の種族。

 人と同じ見た目の、笑顔の絶えない種族。

 洞窟の中に一年中籠り、尚も一切を困ることなく過ごす種族。

 映し出されたそれぞれの種族は、呆れてしまうほどに幸せそうだった。


『そしてやがて、日常は『渇望を』。平穏は『永遠を』、幸福は『不変を』、友情は『夢を』、歌声は『虚心を』、幻は『堕落を』、自由は『虚像を』、寛大は『因果を』それぞれの望みの証として世界に残しました。それは始め、小さな蕾でしたが、瞬く間に大きくなりました。それは人々の感情を吸い、同時に自らの力として蓄えていたのです。かつての人々はそれを知っていましたが、咎めることをしませんでした』


ーーどうして?



 幼い声が、問いかけた。

 

 透き通った、純粋無垢な声色。

 それを、ニアは知らなかった。


 わずかな間、語る者は沈黙した。

 だが、すぐに少女の息を吸うと、


『それが彼らの望みの証であり、彼らがここにいたという何よりの証明だからです。それがいる限り、世界が彼らを忘れることはなく、同時に人々もまた忘れることはありません』


ーー何を忘れるの?



『『¥&;;-:-“”,』が人々に成した所業。彼らの最たるものの全てを葬り去ってしまったことを』


 突如として聞こえたノイズが、一部分を不鮮明にする。


ーーそれから、その証はどうなったの?



『それから長らく、それは世界を彷徨い続けました。その中で見て、そして経験したその全てを糧とし、成長を続けました。ですが、いつしかそれより後に生まれた人々はその姿に嫌悪し、恐れ慄き、いつしかそれは、世界でこう呼ばれるようになりました。——『厄災』 と』


 直後、スクリーンの文字が消えた。

 暗い室内は明るさを取り戻し始める。


 観客達は、ぞろぞろとその場を後にし、感想を口にしていた。

 その全ての頭部には、黒い炎のようなモヤが生じている。


 やがて、劇場の中は静寂が取り巻いた。

 そうして、——は再び語り始めた。


『…ですがいつか、それを救う存在が世界に現れました。幾度も死せしその者は、予言として世界のたった一冊にその名を残し、それを後世に伝えました。そしてそこにはこう書かれているのです。『世界を見つめしその瞳には、消えゆくながらも眩い光が尽きることはない』と』


 視界が黒に染まる。

 あたりを静寂が包み込む。


 ——そしてニアは、目覚めを迎えた。







「…」


 目に映ったのは、果てしなく続く地面。

 硬く、冷たい感覚。


「ここは…、っ…」


 眠り落ちそうな意識を覚醒させ、周囲へと意識をやる。

 その時、ニアはようやく自身が血溜まりの中に横たわっていたことを知る。

 

 桜月は、少し離れた場所に横たわっていた。


 体を起こそうと、力を込める。


「いっ…」


 悲鳴と共に、体は血溜まりの中へと落ちる。

 脳が、先程経験したことを思い出す。


「…俺は、そうか…気を失って…」


 痛みを伴いながら、無理矢理に体を起こしていく。


 幸いにも、倒れた木々の群れが、戻るべき方向を示していた。


 流れる血が、片目を赤く染め上げる。

 

 力なく、歩き始める。

 ふらふらと踏み出す足は、少しでも気を抜けば崩れ落ちてしまうほど。


 ——ニアは、再び戦場へと向かうのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。