真の戦い
目の前で起きてしまったその現実に、ニアは逃げ出したいほどの絶望を覚えていた。
頭部のない怪物。
それを、カラクだと認識してしまっていた。
「——なんで…」
頭上を舞う歪な色の光輪が、先ほどとは別次元の存在になったのだと悟らせる。
呟くニアの中に、もう戦いを継続できるほどの力は残っていなかった。
全身は悲鳴をあげている。
桜月を握る手は、落とさないようにするだけで精一杯であった。
隣で遅れて動き出したアストーとアンセル。
その瞳は、ニアと同じく見開かれていた。
「ははっ…これは流石にちょっと厳しいんじゃないか??」
3人の中で唯一カラクに拮抗した実力を持っていたアンセルですら、そんな声を漏らしていた。
しかし、その声の理由はカラクが全快したこと自体ではなかった。
辺りに溢れていたはずの“過去の記録”。
先程まであったはずのそれが、異常なまでに綺麗に消えていた。
映るのは、佇むカラクの姿だけ。
同時に、その光景にアンセルはある結論へと至る。
ーー時間ごと巻き戻した…それも、ニア達が戦うよりも前の時間に…?
その視界の中には、倒壊したはずの砂の塔が映り込んでいた。
疑問は、やがて確信へと変わる。
「っ!!総員、構えろ!」
声を荒げたのは、他ならぬアンセルだった。
いつの間にか身を取り巻いていた絶望を振り払うように、ニア達へと戦いが終わっていないことを突きつける。
「…余としたことが、ぬかったな」
自嘲し、アストーは俯かせていた顔を上げる。
その時、破裂音がその場に響いた。
目をやったアンセルの視界の先では、ニアが自身の両頬を力の限り叩いていた。
「ふぅ…」
遅れてくる痛みが、意識をわずかに覚醒させる。
その行動が、2人へ戦闘継続の意を示す。
手足には、既に感覚と呼べるものが残っていなかった。
妙に気持ち悪い血の滴る感覚が、かろうじてまだその部位が動くことを知らせる。
その光景を、カラクは動じることなく見つめていた。
「…っ」
気がついた頃には、目の前に拳が映り込んでいた。
躱そうにも、間に合わない。
その時、ニアの体は見えない何かに押し飛ばされるように横方向へと突き飛ばされる。
振り向き、見えたのは腕を振り抜いたカラクの姿。
その時、再びカラクの姿が消えた。
一拍遅れて、微かに土が舞い上がる。
その光景を脳が理解した時、目前にはカラクが立っていた。
ーーこれは死ん…
「チッ!!」
舌打ちと共に、アストーはカラクへと天啓を放つ。
不可視の障壁は、前方の空間を侵食しながらカラクの元へと迫る。
その時、突然カラクの動きが止まった。
続けてアストーの元へと顔を傾けた。
刹那、カラクは身を捻り、当然のように前方へと腕を伸ばした。
見えるはずのない、不可視の天啓。
それが今、いとも簡単に砕け散る。
そして、意味することはただ一つ。
「ぐ…!!」
「っ、アストー!!」
アストーの横腹を、激痛が貫いた。
咄嗟に障壁の膜を敷くが、それはいとも簡単に貫かれる。
『修正』により起き上がった木々が、再び薙ぎ倒されていく。
その光景にニアが意識を寄せたと同時に、その視界には足を振り上げるカラクの姿が映った。
反射的に取った防御の構え。
直後、衝撃が背中を貫いた。
「っ…!!!」
朦朧とする意識と共に、体が宙を舞っていた。
胴が2つに裂けたと錯覚するほどの激痛。
やがて地面へと墜落する体は、何度も地面を跳ねていく。
「が…っ」
跳ねる体は、やがて巨岩へと衝突することにより停止する。
ニアの体は力なく倒れ込む。
そこに、すでに意識は残っていなかった。
いつの間にか手放され、近くに横たわる桜月。
ニアの付近には、赤い血溜まりだけがあった。
1話あたりの文字数を短くしてみたのですが、どうでしょうか!これからはこのくらいの文字数で投稿していきたいと思いますので、1話あたりの展開が多少ゆっくりになる代わりに投稿する話数を増やしていきます!
どうぞよしなに!




