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遠い世界の君から  作者: 凍った雫
夢と旅路
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地を踏み鳴らすは夢の跡 その五

 軽快に現れた、王番守人アンセル。


 ぼやけた視界に映ったその姿は、ニアの意識を引き戻すには十分だった。


 そうしてアンセルは微笑んだ。


「…そうか、オーゼンが要請を出したのは…アンセルだったか…」


「わかっているなら話が早い。アレだな?彼が助けを求めた要因は」


「…あぁ、『守宮』のカラク…聞いた話だと、夢の世界の産物だとか」


「カラク…厄災の産物か。なるほど、ならこの事態にも納得だな」


 ニアの吹き飛ばされてきた方を見つめながら、アンセルは納得する。


 目線の先には、衝撃により舞い上がった土埃だけ。


 アンセルは不意にニアの体を抱き寄せた。

 そのままその場でくるりと体を捻ってみせる。


 刹那、先程までニアのいた空間を何かが通った。


「っ…!」


 地面を削りながら突き進む物体。

 それが一本の木であると気付くのに、そう時間はかからなかった。


 通り過ぎた木に、意識が吸い寄せられる。

 その直後、アンセルは呟いた。


「なるほど、はやいな」


「…!!!」


 音もなく振り抜かれた一撃。

 その存在にニアが気づいたのは、真隣を通過した拳を見てからだった。


 いつの間にか、足元まで接近していたカラク。

 その瞳が、アンセルと交わる。


 アンセルはニアを抱き抱えるとそのまま軽く後方へと飛び下がる。


 続けて振り抜かれた足蹴りが、寸前までアンセルのいた空間を突き抜けた。


「へぇ…」


 揺れる空気に、微かに驚きの表情を浮かべる。

 

 カラクは、完全な奇襲を避けられた事に疑問を抱くように、カラカラと喉を鳴らしている。


 直後、姿が消えた。

 次に映ったのは、アンセルの目前へと迫った拳。

 ——にも関わらず、アンセルは不敵に笑った。


「——動線注意だ。そこにはもう『君』がいる」


『…!!』


 反応する間も無く、視界の中からカラクの姿が消えた。

 代わりに聞こえたのは空気を切り裂く金切り音。


 その体は、ニアが吹き飛ばされてきた空間を逆向きになぞるように吹き飛ばされていた。


 その光景に、アストーの天啓が衝突したのかと脳裏によぎる。

 だが、その威力はアストーの天啓を遥かに凌駕していた。


 ニアを立たせると、アンセルはゆっくりと歩き始める。


ーーどうなってる…一体何が何だか…


 

 全身は、かろうじて動ける程度までに回復していた。


 そんなニアを他所に、アンセルが数歩を進んだ頃。

 木々の間を抜け、影が瞬く間にアンセルの側へと急接近した。


 気が付けば、あと数歩という距離まで近づいていた。

 その手は硬く握りしめられている。

 

 アンセルはそんな様子にも動じる事なく、半歩左方向へと飛び下がる事により難なく回避する。


 瞬間、それすら予想していたのか、カラクもまた握りしめた腕を振り抜くと、その場でくるりと一回転してみせる。

 その勢いのまま振り上げられた足は、アンセルの顔を的確に捉えていた。


「惜しいな」


 再びカラクの姿は消え失せる。


 続けて聞こえてきた轟音が、何が起きたのかをニアへと知らせる。


「なにが起きて…」


「私の天啓、その内容は『過去の再起』だ。それは読んで文字の通り、過去にあった出来事を私の目で観測し、現実へと引き戻す。単純だろ?」


「いや…すまないが全くわからない」


「そうだな…すまないな。どうやら私は昔から説明が下手なようで、見て理解してもらうしかなさそうだ」


 何もかもが理解できない。

 それでも、ただ一つだけ確信を持って言えることがあった。


「要するに、心強い味方が来てくれたってことだな」


「ふっ…そうだな、あぁ。そう思ってくれて構わない」


 微笑み、アンセルはカラクの元へと目をやる。


 戦いに勝ち目が生まれた。

 その事に、力の入らない体を無理矢理に奮い立たせる。


「助けは必要か?」


「いや、問題ない。このくらい…、極夜に比べればどうってことない」


 表情に、下手な笑みを浮かべる。


 やがて立ち上がったニアは、近くに横たわっていた桜月を拾い上げると深く呼吸を繰り返す。


「それじゃあ、「守宮」退治と行こうか」


「あぁ」


「余を忘れてもらっては困るな」


 割って入った声に、ニアは驚愕を覚える。


 同じく顔を向けたアンセル。

 見覚えのない顔に疑問を抱くが、ニアの反応から静かに状況を把握する。


「アストー…!」


 いくつもの土を身に纏った姿。

 

 ニアと同じくその全身は満身創痍だった。


 被っていたフードは脱げ、代わりに山吹色の髪が露出している。


「その者は仲間か」


「あぁ」


 アンセルへと一瞥をくれ、続けて2人の見ていた方向へと顔を向ける。


 同じくして、視界の先でカラクが起き上がる。

 

 その姿には、再び一つの傷も見えない。


「なら良い。いくぞ」


 声と共に、カラクの姿が消える。

 桜月から、数多の火花が散った。


 vs夢の産物。

 その戦いの火蓋は、再び切って落とされた。

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― 新着の感想 ―
アンセルの登場によって物語に新たな希望と緊張が生まれ、絶望の中にも光が差し込む展開が熱い。ニアたちの信頼と覚悟が胸を打ち、息を呑む戦闘描写とテンポの良い展開に引き込まれました。 評価、ブックマークさ…
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