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遠い世界の君から  作者: 凍った雫
夢と旅路
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地を踏み鳴らすは夢の跡 その四

 目の前に映った光景に、ニアは果てしない疑問を抱いていた。


 目の前に立つカラクの姿。

 先ほどと同じく人型であることに変わりはない。


 変わっていたのは、それ以外の全て。


 顔の端から端までを渡るように、大きな裂け目が生じ、口らしきものが出来ていた。


 全身を、先ほどまで間違いなくなかった鎧のような鱗が覆い尽くしている。

 何よりも、カラクの全身からは先ほど与えたはずの傷が全てなくなっていた。


「…適応と修正、それがやつの能力だ」


 切り落としたはずの腕が、再生している。

 見ると、腕が落ちていた箇所には何も残されていない。


 吐き捨てたアストーの表情は、苦いものを噛み潰したようだった。


ーー適応…これがそうなんだとすれば、単に身を固めただけ…?いや、でもさっきまではそんな予兆…



 不意に、土埃もなく目の前からカラクが消えた。


 微かに揺らいだ空気だけが、カラクが動いたことを知らせる。


「カラク…は…」


 気がついた時、視界を迫る拳が覆っていた。


 驚愕に目を見開く。

 回避は、既に間に合わない。


 ニアよりもわずか後に、アストーは迫るカラクの存在に気づいた。

 そのまま咄嗟に天啓を行使し——、


「っ…!!」


 直後、カラクは振り抜いていた拳を折りたたんだ。

 その場でくるりと身を翻してみせる。


 結果、アストーの天啓は寸前までカラクのいた空間を通過する。

 

 そのまま大きく一歩を踏み出したカラク。

 次の瞬間、アストーの横腹には鈍い痛みが訪れる。


「ぐ…っ…」


 回避の間に合わない体へ、容赦のない回し蹴りが放たれる。


 衝撃が全身を貫く。

 

「っ、アストー!!」


 木々が薙ぎ倒されていく。

 

 当のアストーは意識を手放しているようだった。


 アストーを蹴り飛ばしたカラクは、やがてゆっくりと立ち上がっていく。

 続けてニアを見上げたカラクは、


ーーこいつ、笑って…



 不意に、見上げたカラクの表情が笑っているように見えた。


 勘違いなのか、数千年ぶりの戦いを楽しんでいるためなのか。

 その真意をニアが知ることはない。

 

 ——何故なら、この時すでにニアの体は宙を舞っていたのだから。


「がっ…」


 木に衝突する激痛に、意識を覚醒させる。

 全身を駆け巡る痛みが、自身がカラクに吹き飛ばされたのだと遅れて理解させる。


 自然と空いた口からは、血がこぼれ落ちている。

 それでも勢いは和らがない。


ーー勢いを和らげろ…全身に…力を入れろ、…!踏みとどまれ…!!



 いつの間にか手から桜月は離れ、自身と同じく上空を舞っていた。


 浮いた体は、ささやかな抵抗すら許さない。


 そんな状況の中で、足を地面へと突き出すことによってかろうじて地面へと擦らせる。

 わずかな接触から数十メートルが過ぎた。


 地面を擦る体は、やがて一本の木に衝突することにより停止する。


 勢いが完全に止まった頃、ニアの視界は酷くぼやけていた。

 全身は熱く、それなのに足先だけは冷たい感覚が支配している。


 溢れた赤黒い血が、服を染め上げる。


「はぁ…はぁ…」


 足先からは、既に感覚は失われていた。

 それでも、絶えず伝わる痛みだけが足がまだちぎれていないことを知らせる。


 瞬間、地面に膝をつく。


 持ち堪えようにも、手元に桜月はない。


ーーダメだ…まだ倒れるな……立て…立って…また…



 思考は、ゆっくりと停止していく。

 そうして倒れ込んだ体は、冷たい地面へと衝突し——、


「…?」


 不意に何かに支えられる感覚が訪れた。


 その感覚に、いつの間にか閉じてしまっていた瞳を開いていく。

 やがてニアは、その先に立つ人物の姿を捉える。


 ぼやけた視界にも鮮明に映る、赤い色。


「…アンセル…?」


「久しいな。いや、久しいというにはあまりにも最近か」


 赤い髪に赤い瞳、そしてその身を包む白い鎧。


 間違うはずもないほどに、慣れた口調で語りかける人物。

 ニアの記憶の中で、それらに該当する者など1人しかいなかった。

 

 王都セレスティアの王番守人。

 いるはずのないその人は、ニアへと小さく笑いかけるのだった。

毎日投稿はこれにて終いです!

次の投稿は5/10の12時となります!

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