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遠い世界の君から  作者: 凍った雫
夢と旅路
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オーグリィンの歴史

「ここはかつては『終末の果て』と言われるほどに荒れ果てた地でね…文字通り人が住める場所なんて何処にもなく、想像できるかね?ここらはただ一面に砂丘が広がるだけの寂しい場所だったんだ」


「終末の果て…」


 呟かれた言葉を、ニアは静かに繰り返す。


「だがある時、1人の男が何を考えたのか、ここで商売を始めてね。もちろん人の姿なんて今までに一度も見たことのない場所だ。何も売れるわけがない。

だがしばらくして、この砂漠に1人の女性が迷い込んだんだ。その人はどうやら近くの国の王家から追い出された可哀想な人で、男は女に同情して近くに建てた自らの家に住まわせる事にした。

そこからおかしなことが起き始めた。それまで人の姿などなかったはずなのに、その日から日を追うごとに、何故かだんだんとこの場所に遭難する人が増え始めたんだ。そして、家が男のもの一つじゃ足りないからって、迷い込んだ者達は段々とここら辺に新たな家を作り始めた。

その光景を見かけた何も知らない商人が、「ここは人が多い場所を栄えている場所なんだ」と勘違いし、仲間の商人を連れてたくさん訪れるようになった。

そんな勘違いの末に、ある者はここにあった物を売り払い、そしてまたある者は家族ぐるみでこの地で営みを開始した。そうして流れ流れて人が集まり、幾つもの偶然が重なった結果、このオーグリィンという街ができたんだ」


 ニアはどこか納得していた。


 都市であるセレスティアよりも多い人の数。

 にも関わらず、“街“という名称にとどまっているその訳を。


 立場などない。

 ここに住まう者は、皆家族であり、友人であり、一線を守るべき知人なのだろう。


 語り終えた老人は、久方ぶりの長話なのか、息をついていた。


「街の概要はおおよそこんなところだ。他にはないかい?」


 優しく微笑みかける老人。

 その言葉に甘えるように、ニアもまた口を開く。


「終末の果てって、何でそんなふうに言われていたんですか?」


「…それが不思議な事に、何も記録がなくてね…私もかつては色々と読み漁ったものだが…一説には『伝説の龍が暴れたから』だとか、『大昔の大戦の地であったから』だとか、どれも書いてあることが違くてね…色々と考察されているようだけど、どれが本当かは私にはわからなくてね」


「なるほど…わかりました。ありがとうございます」

 

 この街に隠された『何か』に、胸の奥の違和感を強めていた。


ーーこの人に聞いても分からないなら…オーゼンの情報に頼るしかなさそうだな



 立ち上がったニアは、老人へと会釈をし、ウミを地面へと下ろすとその場を後にする。


「はぁ…ウミ、時間が空いたし何処か行きたい場所でもないか?」


「ねぇにあ」


「どうした?」


「あのひと、しりあい?」


「——いや、知らないな」


 ウミの瞳は、揺れていた。

 それが不安からくるものなのだと察するのに、そう時間は要さなかった。


 ウミにすら感じ取れるほどの敵意。

 瞬間、ニアは微かに微笑みながら頭を撫でると、


「大丈夫。俺はいなくならないし、最悪なんてことも起こらない。だから、心配するな」


「…うん!」


 笑みを浮かべたウミの様子に、もう不安はなかった。

 そうして手を繋いだ2人は、止まっていたその足を進ませ始めるのだった。









 同時刻、オーグリィンの書館にて。


「これも違う…はぁ、本当になんも書いてないんだよなぁ…」


 高く積み上がった本の横で、オーゼンは深いため息を吐いていた。

 ニア達と別れた後、書館へと籠っていた。


 できるだけ家に持ち帰る分を減らそうと、休むことなく読み続けている。

 だが、積み上げられた本の中にオーゼンの期待するものは一つとしてなかった。


 集中は、既に尽きかけている。

 その時——、


「痛っ…ん?なんだこれ」


 頭上に鋭い痛みが走った。

 咄嗟に頭を抑え、軽く涙を浮かべる。


 ——落ちてきたのは、一冊の本だった。

 見あげれば、本棚の最上段。

 ハシゴを使わなければ届かない位置に、一冊分の隙間がぽっかりと空いていた。


 古びており、埃を大量に纏っている。


 恐る恐る、オーゼンはその本へと手を伸ばしていく。

 開かれたページには、子どもの落書きのような絵だけが描かれていた。

 それは一見すればクレヨンで書かれた、ただの子供向けの絵本のよう。


 しかし、その内容を見たオーゼンはやがて目を見開く。


「これ…まじか…!あったぞ、やった!!…けど何でこんなとこに?」


 求めていたものだった。

 この地の歴史が記された本。

 歓喜に拳を握りしめ、慎重にページをめくっていく。

 やがて、その額には微かな汗が滲み始めた。


「…これは…まさか、んな馬鹿なこと…」


 途端、オーゼンは立ち上がった。

 手にはその本を握りしめ、ニア達にも見せるべくその場を後にする——はずだった。


「…は…」


 視界の先の景色に、声を漏らしていた。

 そこには、幾人もの、気味の悪い笑みを浮かべた老人が立っていた。

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