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遠い世界の君から  作者: 凍った雫
夢と旅路
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いつかの記憶と条件と

 歩くニアは、つい先ほどのことを思い出していた。

 それは、オーゼンに突き飛ばされた瞬間のこと。


ーーあの瞬間何かをされたという感覚はなかった。

それに、あれが何かの攻撃だとしても気付くまでに違和感を一つも感じなかった。

 いや、もしかしてそれこそが敵の天啓の効果…?

条件は…接触…?

 なら最初にオーゼンの話を聞いた瞬間に否定しようと思わなかったのはなんでだ…別の何かがトリガー…?



 それらは全て、憶測でしかなかった。


 『一切の違和感に気づかなかった。』

 もしそれが敵の天啓の効果なのだとすれば、何か条件があるはず。


 オーゼンの話から、複数人を同時に操作出来る可能性が高かった。


 不意に辺りへと目をやったニアは、やがて周囲の人の数を数え始める。


ーー36…52…89…143…はぁ



 瞬く間に増えていく人数。

 10秒も経たないうちに、見えている範囲ですら100を超えてしまう。


ーーもし人数に制限がないなら、もうお手上げだな



 そんな思考をしていると、


「にあ!」


 聞こえた声に、ハッとした表情を浮かべる。

 背に乗ったウミが、服を引っ張っていた。


 目の前からは、いつの間にかオーゼンの姿が消えていた。

 どこに行ったのかと辺りを見まわしていく。


「…ははっ」


 ニアの後方。

 おそらく目的地であろう店の前に、オーゼンは立っていた。


 だがその様子がどこか困り気で、申し訳なさを抱きつつもこちらを見るオーゼンの表情に、思わず口元が緩んでいた。

 そんなニアに対し、オーゼンは不思議そうに首を傾げる。


 そうして念の為と言わんばかりに手を大きく伸ばしていた。

 やがてオーゼンの元へと辿り着くと、


「何笑ってたんだ?」


「いいや?ただなんというか、不意に来るのに弱いんだ」


「…?」


 再び首を傾げるオーゼン。

 ニアとウミは、先ほどのオーゼンの様子を思い出したように顔を合わせては、くすくすと笑っていた。


 いつの間にか、明るかった空は沈み始めていた。


 人数も次第に減っている。

 歩くニアは、この街に訪れて初めて風景を視界に捉えた。


「そんで、この後はどうする?」


 ニアの両手には、変わらず玩具が詰め込まれた袋が握られていた。


 だがそれとは別に、明らかに背負う鞄が膨れ上がっていた。


 買い貯めた食料。

 底をついた金銭を考えないように、思考を回転させていく。


「そうだな。さっきの話がばれている以上、何か仕掛けてくるのはほとんど確定だろうな。とすれば、休息は取れるうちに取っておくのが最善だ」


「了解、けどあんたらは泊まる場所あるのか?」


「俺は野宿でいいが、問題はこの子をどうするかだな」


「なら、俺の家に泊めるか?」 


 その言葉に、わずかな間硬直してしまう。

 やがて動き出すと、顎へと手を添える。


 オーゼンに対し、特段不信感があるというわけではなかった。

 秘密を打ち明けた以上、他の人とは違うことも理解している。


 だが、問題はそこではなかった。


「…大丈夫なのか?お前の家族も変だって言ってたが…」


 家族が変。

 それは、他ならぬオーゼン自身が告げたことだった。


 言葉を受けたオーゼンは静かに頷いた。


「そうだな、俺の家族もあの時は変だった。でも、その後も変なんだ。危険だって意味で言ってるんじゃなくてむしろその逆って言うか…」


 それはいつかの話の続き。

 狂気に気押されたオーゼンは、街を駆けていた。


 人混みを縫い、時に衝突し。

 

 やがて体力は底をつき、地面へと倒れ込んだ。


 荒れる呼吸が、思考を白く塗りつぶす。

 それだけが救いだった。


 裸足で飛び出したために、足には幾つもの石が突き刺さった。

 歩いた場所には、微かな赤い跡が残った。

 

 次第に空は暗く染まり、気温も下がり始める。

 凍える気温が、体力を極限まで奪い尽くす。


 『見間違い』

 そんな言葉に縋るように、オーゼンは無意識に歩き始めていた。

 家が近づくにつれ、呼吸が狂っていく。 

 

 汗が滲み、足が重くなる。

 

 そうして遂に辿り着いた家は、妙に静かだった。

 灯は消え、空き家のように一切の物音がしなかった。

 

「っ…!」


 震える手に力を込め、扉へと手をかける。

 直後、扉はひとりでに開き始め——、


「ゼン?どこ行ってたのあんたこんな時間まで」


 何気ない声色と共に見えたのは、他ならぬ母の姿だった。

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