事項と行動
「さて、そんじゃまずは何からしようか」
「そうだな、じゃあまずは買い物をしてくる」
「おう!…え、買い物?」
「さっきは特に用もなかったから素通りしたが、用ができたなら買い物をすることくらい普通だと思うが」
やる気に満ちたオーゼンの言葉。
それは当たり前のように放たれたニアの言葉により、呆気なく撃沈した。
オーゼンの依頼を受けたことにより、この街へのしばらくの滞在が確定した。
その為、動けるうちに必要な物を揃えておこうと考えたのだ。
「それはそうだけどさ…うーん…まぁいいよ、それこそ俺が手伝ってあげよう。お代は…」
「そうか?ありがとう。だが言っておくが金は出さないぞ」
「…友達割引。タダなのは今回だけな」
付け入る隙すらない言葉に、オーゼンは静かに肩を落とす。
3人は、再び街へと戻ってきた。
「そんで、何が欲しいんだ?」
「そうだな。服と、食料が主な目当てだな」
「なるほどね、金はあるか?服は嬢ちゃん用、であってるよな、特に柄にも指定がないならこっちで嬢ちゃんに似合いそうなのを幾つか買ってくるけど」
「そうだな、頼めるか?」
「おうよ、任せてくれ」
慣れたように群衆の中へと消えていったオーゼン。
ニアは辺りを見回すと、
「それじゃ、俺たちも行くか?」
「…」
ウミは返事をしない。
頬は膨らんでおり、目線はわざとらしくニアから外されていた。
「…一応言うけど、本当に何でもかんでも買える程余裕はないんだ」
「むー…はあい…」
優しく頭を撫でる。
ようやく落ち着いたウミは、代わりに瞬く間にニアの肩へと乗り掛かる。
ウミもまた、金銭に余裕がないことを幼いながらに理解しているようだった。
「さて、とはいったが…」
踏み出した足は、目の前の人混みを捉えたことにより停止する。
優に人を覆い隠すほどの人混み。
変わらないその様に、諦めたようにため息を吐くと、
「…流石にこの人混みの中で迷ったら大変なことになりそうだし、迷惑はかけるが待つほうが無難かもしれないな」
そうして待つこと数分後——、
「戻っ…あれ?」
驚くほど早く戻ってきたオーゼン。
その手には、幾つかの袋が握られていた。
「なるほどなぁ、ははっ、確かに無闇にここに突っ込んでったら迷子になってたかもしれないな」
「すまない、先に何処に行けばいいか聞いておけばよかった」
「んや、そこまで気が回らなかった俺の責任でもあるし、気にしなくていいよ。それじゃあまずは…」
話を区切るオーゼン。
代わりに手に持った袋を前へと出す。
「まず服だけど、こんなのでいいか?」
そこには、多種多様な子供用の服が詰め込まれていた。
自慢げなオーゼン。
その自信の通り、詰められた服はどれもウミのサイズとピッタリだった。
予想以上の働きっぷりに、思わず感心してしまう。
やがて背になるウミへと目をやると、
「ウミ、好きなやつを選んでいいぞ」
「うーん…」
滑るように地面へと着地するウミ。
袋の中へと手を入れると、ガサガサと中身を吟味していく。
不意にオーゼンは一枚の服を広げると、
「念のため、こんな感じで柄のないのも買ってきてるんだ。まぁ嬢ちゃんくらいの年頃にはあまり好まれないかもだけ…」
無地の白いシャツ。
子供用ではなく、どちらかと言えばニアやオーゼンが着るようなもの。
だが、見ると同時にウミは前へと踏み出すと、
「これ!」
言い切るよりも早く掴み取られた服。
直後、ウミは躊躇うことなく突然その場で着替え始めた。
「ちょ、ちょっと…!あんたどんな教育してるんだ!?」
「待ってくれ、俺じゃない。ウミ!こんな場所で…」
動揺するオーゼン。
だが、反応を遅らせていたのはニアも同じだった。
そうして声をかけた時には、既にウミは着替え終わっていた。
「にあ、どう?」
「お前…はぁ」
その片手には薄汚れた服がかけられている。
着替えたウミは、自信満々にニアへと胸を張っていた。
白い髪は、少し汚れているにも関わらず十分に澄んでいる。
しかし、それはそれである。
ニアはその場にかがみ込むと、
「街中で着替えるな。わかったか?」
「なんで?」
「なんでって…倫理観的な…とりあえずやめるんだ」
ウミは首を傾げていた。
だが、すぐに納得したように笑顔を浮かべると、
「わかった、にあがそういうならやめる!」
頭を撫で、ニアは立ち上がっていく。
その途中、不意にウミが服の裾を掴んだ。
目をやると同時に、ひらりとその場で回転すると、
「どう?」
回答を求めるように、じっと見つめていた。
少しの時間が経った。
やがてニアは諦めたように息を吐く。
少し目線を逸らすと、
「…そうだな、似合ってる。けど髪とか、もう少し清潔感のある方がいいとも思う」
途端、ウミはニアの元へと駆け出した。
ニアもまたその場にかがみ込むと、やがて胸には軽い衝撃が訪れた。
「あー…それとだな、オーゼン」
「…おう、もう平気か?」
オーゼンは、両手で目を覆い隠していた。
声をかけられたことにより、躊躇いがちに手を退けていく。
やがてその視界に着替え終わったウミの姿が映ったことにより、安堵の息を吐く。
そうして何か言いたげなニアに気がつくと、
「わかってるよ。その子、何か訳ありなんだろ?さっきは咄嗟にあんなこと言ったけど、流石に俺もそこまで察し悪くないからな」
「…気づいてたのか」
「まぁな。髪の色も違うし、嬢ちゃんの懐き方も兄妹それじゃないと思ってな」
そういうと、ニアの隣で腰を折る。
「それに、俺も拾われた子だからさ。見ればなんとなくさ…わかるんだよ」
ポツリと呟いた。
感情は見えなかった。
「よし、暗い話はここまでにして、それじゃあ買い物再開だな。食料って言ってたけど、とりあえず俺のおすすめでいいか?」
「そうだな、日持ちするやつを頼む」
「おーけー、じゃあまずはこっちだな。嬢ちゃんもはぐれないように…そうだったな、ちゃんと抱えておけよ?ニア」
振り向いたオーゼンは、当然のようにくっついているウミの姿に、笑みをこぼす。
そうして3人は、再び街を歩き始めるのだった。




