少年は云う
——この世界での通貨は、“ガーネ”と呼ばれる簡易具の一種である皮袋に詰められていた。
いつかの服屋のように、外見よりも広い中身を持つ袋。
日用品ながらに使い勝手のいいそれは、ニアのお気に入りの品でもあった。
そして、ニア達がこの街へと足を踏み入れた時、ガーネの中には金銭がたんまりと溜まっていた。
その為、わずかな余裕すら抱いていたのだが、
「まいど!」
店主の元気な声と反対に、ニアは目を点にして懐を見つめていた。
その発端は、ウミの欲しいという言葉に付き従い、歩き進めたことだった。
辿り着いた先の、少年が勧めた店。
そこにはウミの要望と一致する玩具が多く備えられていた。
——否、備えられすぎていた。
結果、5個までという約束は大幅に超過し、ガーネの中にあった金銭は、底が見えるまでに数を減らしていた。
だが、当の本人であるウミはそんなニアの気など知らないかのように裾を掴むと、
「にあみて!」
「…はい」
遠い目をするニア。
それを見て、乗り気だった少年も苦笑していた。
そうして買い物が終わった頃、
「…なるほどね、今は旅の途中か。ここは広いから間違った場所から外に出ると通常の倍以上時間がかかるからな、出口の場所なら教えてあげられるが」
「助かる」
地図を見つめ、くるりと回転しながら少年は現在地を確認し始める。
「えーっと…これがここで…目的地がこれか、このまま行っても出口はないし…、じゃあ、こっちだな」
やがて目印らしきものがあったのか、少年は一定の方向を向くと、体を止める。
視線の先には、雪崩のように行き交う人々。
変わらない人波に、ニアは躊躇いを覚える。
「あー…なるほど、こっちか。ありがとう」
「送ろうか?ここに初めてきた人は大体が人混みに酔うか、単純に方向を間違ってしばらくの間出れなくなるんだ」
「いいのか?」
「おうよ、任せてくれ」
親指を立てた少年。
瞬く間に方向を転換すると、街の外れにある暗い森の中へと足を踏み入れていく。
ーーなるほど、裏道か
「ねえにあ」
迷うそぶりすらなく進んでいく少年を見て、思わず感心してしまう。
その時、当然のように背負われているウミは、肩を叩くと、
「どうした?」
「かうっていってたの、かってくれないの?」
「…?…あ」
刹那、ハッとした表情を浮かべる。
ニアの握る袋の中に、約束したはずの衣類の姿はなかった。
ふと目の前を歩く少年へと目をやると、
「すまない、ちょっと待ってくれ…!」
「…」
「待っ———」
言い切るよりも早く、少年の足が止まった。
静かな森の中。
黙々と進み続けた少年は、遂にニア達の方へと振り返ると、
「…あのさ、出会ったばっかでこんな事言うのもおかしいんだけど、ひとつ頼みたいことがあるんだ」
俯く視線。
躊躇いが見て取れる声色。
振り向いた少年の表情には、先ほどまでの陽気さはなかった。
その様子に、ニアもまたただ事ではないことを直感的に理解する。
「…わかった。ここまで連れてきたって事は、聞かれちゃまずいことなんだな」
「そう…だな。人に聞かれたくない事なんだ。無視して連れてきてごめん」
彷徨う視線は、少年の焦点を定らせない。
「いや、大丈夫だ。それで、頼みたいことってなんだ?」
「あんたは相当の実力があると踏んだ。だからこその頼みだ」
少年は、拳を固く握りしめた。
同時に、覚悟を決めたように伏せた顔を上げると、
「この街を救ってくれないか」
その表情に冗談めく感情は一つとして存在していない。
揺れる瞳は、ニアの目を射抜いていた。




