家族のようなもの
森を抜けて見えた景色。
そこは予想していた山岳地帯ではなく、人混みに溢れた全く別の空間だった。
木でできた家が連なる街並み。
地面を覆う土が、セレスティア程の都会でないことを知らせる。
道幅は広く、数十人の人が横並びに歩いてもなお余りあった。
中でも、ニアの気を引いたのは、
「…なんだあれ」
その景色の中央に見える、巨大なピラミッドのような建造物。
遠目からでもはっきりと見えるそれに、ニアはつい絶句してしまう。
ーー道がずれたのか…どうする…?
戻ってもいいが、ここに来るまで数日…戻ってからまたいくにしても、最低でもその1.5、下手すれば2倍…
この子にそんなに我慢させるのは気が引けるな…仕方ない、誰かに方向を教えてもらって進路を修正するか…
「ウミ、お面、忘れないようにな」
「わかった!」
諦めたように静かに息を吐く。
いつの間にか目覚めていたウミは、ニアと同じく目の前の景色に声を漏らしていた。
そうして森を抜けると、
「…近くで見たらもっと壮観だな」
「ねー!…にあ、そうかんってなあに?」
流れる人波。
その様子に、つい息を飲んでしまう。
立ち呆けるニアたちを、何人もが横切っていく。
その様子に、微かに引き下がったその時、
「…お、その服装はお客人かな?ここにくるのは初めてかい?」
——その声は、背後から聞こえてきた。
咄嗟に意識を向ける。
間も無くして、声の主はニア達の前へと姿を現した。
「ここには何でもあるからな。ぜひ見て行ってくれ!必要なら案内もするぜ?もちろん、仕事としてなら、だけどな」
その者は、ニアと同じか、少し歳下に見える少年だった。
暗い金髪に、緑色の目。
少しやけた肌のその少年は、図らずともこの地に住む者であると知らせる。
そうしてキョロキョロと辺りを見回すウミの存在に気がつくと、
「お、嬢ちゃん、何か欲しいのあったか?」
躊躇いなく声をかける少年。
その様子に、ウミが怯える可能性が脳裏によぎる。
だが、声をかけられたウミの反応は、そんな予想とは真逆だった。
「うーん…まだわかんないけど、多分いっぱいある!」
笑みを浮かべ、答えるウミ。
予想外の反応に疑問を抱いたものの、それは瞬く間に解決される。
ウミの両手は、ニアの服をがっしりと掴んでいた。
固く握りしめたその様子は、ニアへの信頼を表しているかのようだった。
図らずともわかったウミが元気な理由に、つい頬を緩めてしまう。
だが、それはそれである。
「一応言うが、そんなに買わないからな。金銭に余裕があるわけでもないんだ」
「聞いたか?君のお兄ちゃんは君の欲しいものを買う気がないらしい、ケチだな」
「けちー」
悪態をつくウミ。
不満げな表情を浮かべるニアへ、少年は口元を緩めていた。
同時に、瞬く間にウミとの距離を詰めた少年へ、ニアは感心と驚きを抱いてしまっていた。
「だめなの?にあ…」
向けられた凶器に、言葉を詰まらせる。
だが、やがて折れたように息を吐くと、ウミを抱き抱える。
地面へと優しく降ろすと、
「…3個…いや、5個までなら買ってやる。それ以上はダメだ」
「わーい!」
ニアには、兄弟と呼べる存在がいなかった。
物心がついた頃から、家族と呼べる存在もいない。
記憶の中にいるのは、常によくしてくれる家族代わりの人たちだけだった。
だからこそ、躊躇いなく甘えてくるウミという存在を、喜ばしく感じてしまっていた。
「ま、冗談はここまでにして、何か用があるなら探すの手伝うよ」
割って入った少年の表情には、微笑ましく笑みが浮かんでいた。
そんな少年へ、ニアは申し訳なさそうに目を向けると、
「すまないが、目的地に向かう途中でここに着いただけでな。特に用はないんだ。強いて言うならさっきのウミが欲しいって言ってたものくらいだな」
「ははっ、仲がいいんだな。じゃあ行くか?嬢ちゃん」
「にあもいっしょ」
「だってさ」
そうして向けられた瞳に、ニアはわざとらしくため息をこぼすと、
「はあ…わかった、はぐれるなよ」
3人は、街の中へと足を踏み出すのだった。




