大茨の森06
考えがまとまらない。解決方法が見つからない。少しずつ焦り始め、心臓がバクバク煩くなってくる。冷や汗と指の震えが止まらない。
(ダメだ。落ち着け。落ち着いて考えるんだ……。私だって師匠の元で修行したんだから。修行を思い出して自分にできることを考えろ)
グリーティアにさせたように、自分も原点に返った。
まずは獣人の身体の使い方を教えられた。それから気配探知に実践、光魔法。魔法の知識からマンシャムの研究成果……。
(まてよ、気配探知……)
ベルは手を顎に持っていった。
(大地を取り込んでこんなに大きくなってもあの魔物の気配は変わっていない。最初のままだ。ということは、気配は身体の大きさではない別のものに由来している……。つまり、核か。だったら気配探知を正確にできれば、核の位置も分かる!)
「よし!」
ベルはにっと笑い、集中している間に攻撃されないよう高く飛び上がって目を閉じた。
全神経を気配探知に回す。音を遮断し、においも消して、魔物の放つ特別な気配を探る。
じわ、と暗闇の中で虹色の光が見えた。
「見つけた!」
ベルはタクトを向けた。
「アストロ・タイクーン!」
タクトの先から放たれた風が竜巻となって流砂を巻き上げた。
その中心が虹色に光った。
「見つけましたよグリーティア様!」
ベルはグリーティアを見上げたが、グリーティアは両掌を剣に向けたまま答えなかった。ベルはハッとして剣の先の穴を見た。
穴が十分な大きさになっていなかった。直径五から六メートルくらいで止まり、縁がぶるぶる震えている。
「グリーティア様!!」
ベルは叫んだ。
「形は円だけじゃっ」
「分かっておる!!」
グリーティアが叫んだ瞬間、ぐにゃりと円が伸び、長径十メートルを越える楕円になった。
ベルは思わず口を大きく開けて笑った。
「さすがですグリーティア様!」
「何をいまさら!」
グリーティアもにっと笑った。
ベルが大剣を持ち上げていた魔法を解いた。すると大剣は楕円の穴に落ちていき、この空間から消えた。そうして竜巻の目の上空に黒く丸い穴が空き始めた。穴はぐんぐん大きくなっていき、大剣の切っ先が現れ始めた。しかし再び五メートル強の大きさで止まってしまう。
「もう一息です!」
口には出さなかったが、心は「早く」と叫んでいた。ベルもほとんど空になりつつある魔力を注ぎ込んで、創り出した竜巻が途切れないようにしている。あまり長くは持ちそうにない。
「くっ……! つぶ、れろ!!」
ぐわん
丸かった穴が楕円になり、口が広がった。
大剣の切っ先がずるりと落ちてくる。分厚い壁のような剣身が現界し、空を切り裂いていった。
パキィィィィン
銀の切っ先が虹色の光を割った。
「ギャオォォォォォォ!!」
魔物が生き物らしい最後の雄叫びをあげる。
ベルはゆっくりと上昇し、グリーティアの隣に腰かけた。
魔物の身体が、砂の塊が溶けていく。
身体だったものが大きくへこみ、首だったものが垂れ、足だったものが完全に大地に還った。
大剣が消えると光を失った核がさらさらの砂に埋もれていった。そうして柔らかい砂の大地と魔物だったものの大きな砂山だけが残った。
ようやく終わった。
ベルは緩くなった地面を避けて降り立ち、杖をついた。タクトは大剣と共にしまってある。
「……よく頑張りましたねグリーティア様」
「……当然だ」
変わり果てた大地を見ながらぼそりと呟くとグリーティアも同じように呟いた。お互い顔を見合わせて、ふっと笑う。
「では帰りましょう。帰るまでが試験ですからね。歩いてでは間に合わニャいと思うので、これに乗って帰りましょう」
「うむ」
やり遂げた高揚感で晴れやかな顔をしているグリーティアに笑み、ベルは杖を風魔法で浮き上がらせようとした。しかし、何かを感じ取った耳がぴくりと動き、ベルは目を大きくして振り返った。
「どうした?」
グリーティアが問いかける。ベルは耳をぴくぴく動かしながら何かをじっと見つめていた。尻尾の毛が立って大きくなる。
「まさか……そんニャ」
ベルが呟いた瞬間、硬い地面がぼこぼこと盛り上がった。
「!」
グリーティアが驚いて目を大きくした。ベルはグリーティアを背に庇い、杖を構えた。
ビシビシッズルズルズルッ
ひび割れた地面から黒い鞭のようなものが這い出してくる。
木の根だ。木の根が独りでに動いて地面から出てきたのだ。その木の根が魔物の身体の一部だと気づくのに、それほど時間はかからなかった。
根の部分を鞭のように動かして移動する木の形をした魔物だった。どの魔物にも多少の違いはあれ、木目でできた顔がついている。それが何十……いや、百を超えているのではないかという程集まってきていた。辺り一面がうごうごと蠢く木だ。
「何だ、この量……」
グリーティアが思わず声を漏らし、ベルはちっと舌打ちした。
「どこまで邪魔する気だ! そんニャに気にくわニャいのか!」
届いていないことを知っているものの、天を睨んで叫ばずにはいられなかった。
強い魔物一体を残してフィールドに制限をつけるだけでは飽き足らず、こうして魔物の群れを寄越してくるとは、よほど試験に受からせたくないとみえる。それともここで弱った自分を亡き者にしようとしているのかもしれないとベルは思った。いずれにせよ、度重なる意図的な妨害にベルはキレた。
「そっちがその気ニャらやってやろうじゃニャい!」
頭の中が焼かれていく。




