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魔王は私がニャんとかします!  作者: あまがみ


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大茨の森04


「……きり?」


 辺りに白い靄がかかり始めていた。煙や湯気とは違う、冷気をはらんだ霧である。


 霧が世界を包み込み、炎の海を塗り替えていく。


 まさか、とグリーティアは再びベルを見た。これもベルの魔法なのかと彼女の横顔を観察する。しかし彼女は何も感じさせない顔で眼下の世界を見下ろしているばかりだ。


ふっ


 視界からベルが消えた。真下へ飛び込んだと気づいたグリーティアは驚いて思わず身を乗り出したが、声は出さなかった。


 ベルが霧を割いていく。


 降下しながらベルは大きなハンマーを出し、【風の舞】と【大力無双】の身体強化をかけて身体をひねった。


「はぁぁぁぁぁ!」


 咆哮をあげ、鎮火した魔物の胴体めがけてハンマーを振り切る。


ぼこっ


「!」


 驚いたことにハンマーが埋まった。修行の一環で戦った魔物と手ごたえが違う。あの時の魔物は岩でできていたため、手がじぃんと痺れてハンマーが跳ね返ってきた。しかしこの魔物は身体にハンマーが埋まった。


 ベルは大きく一歩下がって分析した。


(場所が違うから素材が違うんだ。この魔物の身体を作っている材料は茨と……それから、土。茨は周りのものもろとも焼き払ったから、あとは土)


 魔物の赤い瞳で捕らえられる前に頭の中を整理した。鎮火するために放った霧が身を隠してくれているため、魔物はベルの居場所を把握できてない。その隙にハンマーを片付け、代わりにとてつもなく大きなクリスタルの爪のついた鉤爪を装備した。


(これで削る!)


 ベルは地を蹴った。音に気づいたのか、それまでベルがいたところを魔物の長い尻尾が叩いた。茨の尻尾ではない。土を固めて作られた尻尾だった。なるほど、そういう風に再構築もできるのかと考えながら、ベルは身体強化をさらにかけて魔物に突っ込んでいった。


 魔物の身体に飛びつき、鉤爪を振るう。スコップのような爪が魔物の身体を抉った。しかし砂が集合して穴が埋まり、魔物の身体はすぐに元に戻ってしまった。おまけに魔物はベルを振り落とそうと身体をひねり、四本の足をばたつかせている。尻尾もベルめがけて伸びてきた。


 ベルは爪を魔物の身体に引っ掛けて降下することで尻尾の攻撃を避け、そのまま腹を通って反対側に回り込んだ。


ざざっ


 大きな爪で身体を抉ってみが、やはりすぐ元に戻ってしまった。


 ベルは爪を立てて魔物の身体をよじ登った。砂丘を登っている気分だ。


 今度は背を削ってみる。手ごたえは同じだったが、もう一回、と手を振りかぶった。しかし長い尻尾が向かってきていることに気づき、中断して側面に回り込んで最初に飛びついた位置に戻った。


 マンシャムからの試練で戦った魔物は硬すぎたが、この魔物は柔らかすぎる。このままでは外装を剥がすことができない。


(こんなゆっくりじゃだめだ。もっと速く! もっと深く!!)


 金色の目が光った。


【風の舞】【風の舞】【大力無双】【大力無双】


 スキルをかけ直すとぎち、と筋肉が音を立てたが無視して腕を振り上げた。


ざざざっ


 魔物の身体が大きく抉られた。ベルはすかさず反対の手で同じところを抉り、目にも止まらぬ速さでそれを繰り返して魔物の身体を掘り進めていった。


ざざざざざざざっ


 魔物の尻尾が飛んでくるまであと十秒。


 魔物の身体に開いた穴がだんだん深くなっていく。


(見えた!)


 ようやく目的のものが見えた。


 虹色の光。この魔物の核だ。


 ベルはさらに砂の身体を抉る手を早め、虹色の光を目指して砂を掻き出していった。


(あと……少し!)


 虹色に光る大きな玉に爪の先が触った。同時に目の前に現れた魔物の尻尾を咄嗟に爪で受けて叫んだ。


「グリーティア様!! ここです!!」


 尻尾の凄まじい衝撃に顔を歪ませながら、腹の底から声を出す。すると間髪入れずにグリーティアがベルと魔物の間に現れた。


「!」


 小さな隙間に空間移動魔術で滑り込んで来たのである。正確に、それも見にくい場所へ的確に空間移動した教え子の成長にベルは思わず笑んだ。


「ハ!」


 そうとも知らず、グリーティアは腕を伸ばして右手に持ったクリスタルの短剣を虹色に光る核に叩き込んだ。


ビシィッ


「ギャオォォォォォ!」


 核にひびが入り、魔物が咆哮をあげて悶え始めた。


「オオオオオオオオ!!」


どしんっどしんっ


 四つの足を踏み鳴らし、尻尾と頭をぶんぶん振り回す。


「くっ」


 ベルは奥に爪を立ててグリーティアの身体も支えながら何とか振り落とされないよう耐えた。


「割れ、ろ!」


ガッ


 もう一度グリーティアは短剣を刺したが、ひびが大きくなっただけだった。


(子どもの力じゃ難しいか!?)


 核は相当大きくて頑丈だ。グリーティアの腕力では核を割り切れない。彼の振り下ろす短剣で核を割るには何十回と叩き込まねばならなさそうだった。しかし、そんな時間はない。すでに魔物の身体は再構築され始めており、ベルの爪が巻き込まれそうになっていた。これではグリーティアも巻き込まれてしまう。


「グリーティア様! 一旦引きます!」


 ベルはグリーティアの身体に腕を巻き付け、魔物の身体を蹴って宙に回避した。途端、虹色の核が砂に埋まった。あと少し遅かったら完全に巻き込まれていた。


 爪の装備を外し、指先で呼んだ杖を右手で掴んで魔物から距離をとる。


「っ!!」


 片手で杖にぶら下がり、片手でグリーティアを抱えて上昇したベルは目の前の光景に息を飲んだ。


「なん、だ……あれは……」


 グリーティアも思わず声を漏らした。


 魔物の姿が溶けている。


 大地が溶けている。


 魔物は大地を砂に変え、身体に取り込んで肥大し続けている。魔物の身体が一回りずつ大きくなっていく。


 魔物の身体全体からは砂が吹き出しており、足元の大地は崩れて流砂になっている。ベルが焼き尽くした時点で森は様相を変えていたが、今度は砂山になってしまった。


「核にひびが入ってちゃんと再構築できニャくニャってるんだ。材料を引き寄せても、固められニャい……けど、核は身体を直そう(ニャおそう)と材料を引き寄せる。それの繰り返しでああニャってしまったようですね……」


 魔物の足元で広がり続ける流砂は核が大地を吸収してできたものだ。身体を構成するために大地を削って砂を集めたものの、核に傷がついて完全に身体を修復することができなくなってしまい、滝のように砂が噴出しているのだ。それが飽きることなく繰り返されているので魔物の周りは砂の海となり、魔物は膨らみ続けている。

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