魔王グリーティア02
ただコップを持ち上げてそこに玉を置き、かぶせただけだ。どこに玉があるか一目瞭然である。
「こっち」
案の定、エルシオンはベルが玉を入れた方のコップを指した。
「そっちでいい?」
「おう」
頷くエルシオン。子魔王はバカバカしくて呆れた顔をした。
「それじゃ、見てみましょ」
ベルが両方のコップを同時に持ち上げた。
「あ」
「む」
玉は右のコップから出てきた。
「確かに左に入れたはずだ……」
「ギリギリの大きさだから無理だろうと思ったんだが……空間移動させたのか? 魔術ってのはそんなに正確に操れるもんなのか」
「空間移動……」
ぼそりと子魔王が呟く。エルシオンは驚いた顔をしていた。
「私にかかれば朝飯前だよ。エル、デザートは私のものだね」
ベルは得意げに笑った。エルシオンは「う~ん、俺の読みが甘かったな!」と声を出して笑った。ほとんど騙されて賭けに負けたというのに、からっとした声である。
「ベル、もう一勝負だ! 今度は俺の出した条件で賭けをしよう!」
人差し指を立てるエルシオン。しかしベルは「後でね」と言ってエルシオンを椅子から追い出して自分が座った。
「さて若様。空間移動魔術を正確に操ることができればこんニャことができるんですよ」
「ベル、後とはいつだ!?」
「……若様はこんニャことを身に着けてニャんにニャるのかと言いましたが……それは若様次第です。発想次第でニャんでもできるのが魔法……魔術ですから」
「若の魔術訓練が終わったらか!?」
うっとうしくて尻尾が揺れる。
ベルはエルシオンを無視してもう一度ガラスのコップと黒猫のぬいぐるみを出した。
「一つアドバイスします。今の若様は消したものをコップの中に出現させるイメージでやっていると思いますが」
「若の訓練はいつ終わるんだ!?」
「丸い空間を空けてそこからぬいぐるみを押し出すイメージをしてみてください。こんニャ感じで」
「晩飯の時か!?」
「うっさいニャ!! 黙ってろ! 晩御飯の後に相手してやるから待っとけ!!」
流石に無視できなくなって尻尾の毛を逆立てて叫び、金色の目で睨むと、エルシオンは「おう分かった!」と言って去っていった。ベルは分かりやすくため息を吐き、気を取り直してタクトを振った。
ぬいぐるみが消え、ガラスのコップの中に縁よりも一ミリ弱小さく丸い空間が空いた。そこから黒猫のぬいぐるみがゆっくりと顔を出し、ぎゅうぎゅう詰めになった。
「こんニャ感じです。やってみてくださいニャ」
コップからぬいぐるみを取り出して元の位置に戻す。子魔王は終始じっとしてベルの話を聞いていたが、促されて居住まいを直した。そうして右の人差し指を出し、ぬいぐるみを消して人差し指の先をコップに向けた。
子魔王の眉間にしわが寄る。
コップの中心に小さな黒い空間が空いた。ゆっくり、空間が大きくなってくる……。
「あっ」
と思ったら急に空間の穴が大きくなり、コップが穴の中に落ちてしまった。子魔王は目を大きくして唖然とした様子である。
「コップの縁は数ミリです。少しでも大きければコップが空間に落ち、小さければぬいぐるみは中ニャか)入らず弾かれます。さぁ頑張ってください若様。若様ニャらできるとベルは信じておりますよ」
ベルはにっこりと笑った。




