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魔王は私がニャんとかします!  作者: あまがみ


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魔王グリーティア01


「技を覚えた後にすることは、その技の強化です。つまり規模を大きくすることと正確さを増すことです」


 椅子に座る子魔王に、ベルは人差し指を立てながら言った。


「規模は魔力量に左右されます。鍛えてニャんとか増やせる分もあるけど、結局は持って生まれた分しか使えニャいです。でも正確さは違います。こだわりと忍耐、努力の才能さえあれば何とかニャるんです。というわけで、今日は正確さを鍛えますよ」


 ベルは用意したテーブルの上にコップや器やボウルを伏せて並べた。子魔王から見て右から小さい順になっている。それから目の前に昨日と同じ小さな黒猫のぬいぐるみを置いた。


「いいですか? このぬいぐるみを、伏せたボウルや器のニャかに空間移動魔術で移動させるんです。ちょっとやってみますね」


 ベルがタクトを振ると黒猫のぬいぐるみの下に黒い穴が現れ、ぬいぐるみは黒い穴に吸い込まれて穴ごと消えた。次にベルは一番大きなボウルを叩いてボウルを持ち上げた。するとそこには小さな黒猫のぬいぐるみが座っていた。


「こんニャ感じ。大きな空間から小さな空間に変えていって正確さを鍛えましょう」


 コツ、と器をタクトで叩く。器を開けると黒猫のぬいぐるみがあった。さらにカン、とコップを叩くと、透明なコップの中にぬいぐるみがぎゅうぎゅうになって詰まった。そこまで見せたベルはもう一度ボウルや器を伏せ直し、ぬいぐるみを元の位置に戻して魔王に目を合わせた。


「じゃ、やってみてください」


 子魔王は右の人差し指を出してすいっと一振りした。


 黒猫のぬいぐるみが消えた。


 子魔王は身を乗り出して一番大きなボウルを持ち上げた。ぬいぐるみがちょこんと座っている。


「これが訓練になるのか?」


 子魔王は訝し気な顔をしている。


「次はこっちの器で」


 しかしベルはそれには答えず、器を指差した。器はボウルよりも二回りくらい小さい。子魔王はベルを睨んでから再び指を横に振った。


 黒猫のぬいぐるみは消え、持ち上げた器の下に入っていた。


「……」


 子魔王が睨む。


「最後です」


 ベルはコップを指差す。


 子魔王は気に入らない様子で指を振った。


「!」


 黒猫のぬいぐるみは子魔王の空間移動魔法で元あった場所から移動した。しかし、移動したところはコップの底の上だった。コップの上にちょこんと黒猫のぬいぐるみが乗っているのである。


「空間移動魔術はそのニャの通り、空間を移動する魔法です。空間から空間へ移動させることしかできません。つまり物を動かした先に空間じゃニャい別のもの……この場合はコップの側面とかです。そういう別のものがあると、誤差が出てその分だけ出てくる場所がずれるんです。今の若様の空間移動魔法は正確じゃニャかったので、弾かれて上に乗ってしまったか……縦横の位置はあっていたけど上下があっていニャかったかですね」


 言いながらベルはぬいぐるみを子魔王の目の前に置き直した。


「さぁ若様。もう一度です」


 にこりと笑ってみせる。子魔王は口の端を上げた。


「昨日同様、すぐにできるようになってやるわ」


 しかしそう甘くはなかった。


 子魔王がギリギリの大きさのぬいぐるみをコップの中に空間移動で詰める訓練をし始めて一時間。進展がない。昨日はまだ目に見えてできるようになっていき、上達が分かりやすかったのだが、今日は目に見える成果がない。とにかく失敗続きなのである。


 ベルは眉間に深いしわを寄せてぬいぐるみを睨んでいる子魔王を見ながら、そろそろだろうかなどと考えていた。


バンッ


「こんなことをして何の役に立つのだ! 貴様! 思い通りにできぬ俺を見て笑いたいだけではなかろうな!?」


 机を乱暴に叩き、子魔王はベルを睨みつけた。悔しいのか歯を食いしばっている。


 ベルは涼しい顔で魔王が倒したコップを手に取った。


「若様。正確さに大切ニャことはニャんだと私が言ったか、覚えていますかニャ?」


「……こだわりと、忍耐と、努力の才能」


「そうです。こんニャことできニャくても問題ニャいですよ。正確さニャんて本人がどこまでどうしたいのかによります自己満足の世界ニャんです。けど、試行錯誤する過程は大切ですよ。それから忍耐力。世のニャか一瞬でかたのつくことニャんてニャいです。これは魔法を鍛える訓練でもあり、心を鍛える訓練でもあるのです。努力の才能とは、どんニャに辛くても諦めずに続けられることニャんです」


 子魔王は黙って下を向いた。


 これくらいの子には難しい話だ。大人が何を考えていようが辛いものは辛い。やりたくないものはやりたくない。ならやらなくても良いよと諦めさせるのは簡単で、子どもにとっても大人にとっても楽な方法だ。しかしベルはそんな楽な方法を取ろうと思わなかった。


「頑張りましょう若様。若様ニャら必ず(かニャらず)できるようにニャりますよ」


 青い目がベルを見る。にこりと笑い返せば、子魔王は顔を上げて猫のぬいぐるみを睨みつけた。


 しかし、手を動かそうとはしなかった。


 ベルはまぁそうだろうな、と心の中でため息を吐いた。どれだけこちらが諭しても効かないことは多い。子どもでも大人でもだ。


「では若様。この訓練がニャんの役に立つのかお見せしましょうか?」


 子魔王がベルを見る。ベルはそれを肯定と受け取って立ち上がった。


「少しお待ちを」


 ベルは子魔王を残し、どこかへ行ってしまった。子魔王が頭の中に疑問符を浮かべて待っていると、ベルは兜をとったエルシオンを連れて戻ってきたのだった。


「お待たせいたしました」


「おう、若。お元気そうで何よりだ」


「何故お前が来るのだ」


 親し気に片手を挙げるエルシオンに訝しそうな顔を向ける子魔王。


「ベルに賭けをしないかと誘われたんだ」


「かけ?」


「そうです。私が勝ったら今日の晩御飯のデザートをもらうんです。エルが勝ったら私のデザートはエルのものに」


「可愛らしい賭けだろう?」


 エルシオンはにこりと笑ってベルに視線を送る。ベルは「デザートを甘く見るニャよ」と言いながら自分が座っていた椅子をエルシオンに勧めた。エルシオンが座ると机の上を片付け、代わりに二つの白磁のコップを伏せて置き、直径三センチ程の玉を手に出した。


「これからどちらかのコップにこの玉を入れるね。エルはどっちのコップに玉が入っているか当てて」


「おう。分かった」


「じゃ、始めよう」


 ベルはエルシオンの左側のコップを持ち上げて玉を置き、そのままコップをかぶせた。玉はコップに入るギリギリの大きさだった。


「はい。じゃ、どっちに入っているでしょうか」


 涼しい顔で言うベル。エルシオンは唇を引き結んで腕を組み、子魔王は眉を寄せてベルを見上げた。

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