魔王城06
味見がてら腹を満たしたベルと厨房のほとんどの食材を食べつくしたエルシオンはその後それぞれの部屋に向かった。
風呂や厨房、それから四天王とベルに与えられた自室は生活塔に集まっている。地下に大浴場、一階に厨房と食堂、二階からはそれぞれの部屋だ。
エルシオンとギネは二階、レチェットは三階だとエルシオンは教えてくれた。ちなみにベルは三階の部屋を与えられていた。
「それより上は誰が生活しているの?」
「四階はアスガープが。五階は魔王様や王妃様、若が生活している」
「ニャるほど」
エルシオンは三階のベルの部屋の前まで送ってくれた。
二人は扉の前で向かい合った。
「ここまでありがとね」
「おう。厄介なやつがいるからな。寝込みを襲われないように気をつけろよ」
「それってもしかしなくてもレチェット?」
「そういうことだ。あいつは気に入れば誰でも良いからな」
「警戒しておく」
苦笑いで返すとエルシオンは「じゃぁな」と手を挙げて去っていった。
エルシオンが階段を下りていくところを見送ってから、ベルは部屋の中に入った。
(おぉ。ホテルのスウィートルームみたい)
部屋にはキングサイズのベッドやテーブルにソファ、鏡台にクローゼット、キャビネットが置かれていた。家具の色合いはダークブラウンに統一されており、ベッドとソファの柄も同じだ。
ベルは大きなあくびをしてベッドに潜り込んだ。肺に溜まっていた空気を残らず出して目を閉じる。身体がベッドに沈んでいくのが分かった。気持ちが良い。意識が枕の中に消えていく。
今日一日で様々なことがあり、心身ともに疲れていたのでベルはすぐに寝息を立て始めた。
すうすうと眠る。
月がゆっくりと落ちていく。部屋の中は真っ暗闇だ。
暗闇の中で何かが蠢く。人の形をした影が枕元に立ち、ベルの寝顔を見つめていた。
ふと、影が揺れ、ベルに首を垂れた。
「!」
しかし肩を掴まれ、それは動きを止めた。
振り返ると同じ暗闇の中に男が立っていた。髪が白く肌は黒く、眼球の赤い黒い瞳の男だ。
「ギネ」
レチェットが口角を上げながらゆっくりとその名を呼ぶ。ギネは何も返さず、レチェットを睨むだけだ。
「あら~。貴男が邪魔しにくるなんてぇ、思いもしなかったわぁ。なぁに? 貴男もこの子のことがお気に入りなのぉ?」
にっこりと笑うレチェット。しかしギネは何も答えない。
「怖い顔ねぇ。いいわぁ。今日は貴男に譲るわぁ。そのかわり、明日はわたしのものよぉ」
そう言ってレチェットは闇の中に沈んだ。
残されたギネはしばらくレチェットの消えた闇を見つめてから、ベッドで眠るベルを見た。
相変わらず侵入者がいるにもかかわらず悠長に寝ている。こんなことでこの先やっていけるのだろうかという気持ちがギネの中に湧いた。マンシャムに可愛がってやれと言われたので気にしてやっているのだが、危なっかしくて仕方がない。
「……」
心の中でため息を吐く。こんなやつどうでも良いけど、と忘れることにして自分も姿を消した。
ベルの耳がピクリと動く。けれども瞼は重いままだった。




