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魔王は私がニャんとかします!  作者: あまがみ


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魔王城01


 真っ暗な空間の狭間を抜けた先は美しい庭だった。複雑な形に整えられた背の低い生垣が並ぶ、幾何学式庭園だ。右を見ても左を見ても全く同じ模様が描かれている。それがまた美しくて、ベルは少しばかり見とれた。


「こっち」


 ギネが石畳を歩いていく。ベルは少し遅れて後についていった。


 視線を上げると城壁が見えた。庭をぐるりと囲んでいるので、この庭は中庭だろうとベルは予想をつけた。


 ここはもう魔王城の中なのだろう。ゲームの中の極悪非道な魔王がここにいるのだ。緊張して心臓が早鐘を打ち始めた。


 目の前にそびえているのが魔王城だ。石でできていていくつか塔がたっており、塔の屋根は三角で茶褐色だ。裏手にあたるので城っぽくはないが、荘厳で重々しい雰囲気がある。


(デーモンクライの魔王城とは違うみたいだ。ゲームの世界では、魔王城はただの六階建ての塔だった。でも……)


 これが『魔王城』とするとゲームの世界とは違う建物だが、似たものには覚えがある。


(魔王を倒した後に行ける建物に似ている……。ゲームの中ではその建物に行くと、魔王の過去を探ることができる)


 プレイヤーが魔王について考察するための情報が詰まった建物だった。例えば肖像画が飾ってあったり、他とは違って大切に保存されていたらしい部屋があったりと、魔王の生活を知ることができた。公式には何も発表されていないが、ファンはそこからいくつも推論を立てていた。


(その中の一つが、魔王が世界を支配しようと決めたきっかけなんだけど……)


 明らかにはされていない。こうなると分かっていたら、ゲーム会社に問い合わせてでも聞いておけば良かったかもしれないとベルは思った。ここが魔王に支配される前の世界で、これから支配されるかもしれないのなら、そのきっかけはとても重要なことだ。


「これから中に入るけど、おれの傍を離れないで」


 ギネはそう告げてから階段を上っていった。ベルは言われた通りギネにくっついて階段を上った。


「……近い。離れるなとは言ったけど、くっつけとは言ってない」


 ギネが振り返ってじっとりとした目を向けた。


「了解」


 ベルは素直に距離を取った。ギネはふいっと顔を前に戻した。


 上りきったところにあった重い扉を開け、ギネとベルは城の中に入った。


 滑らかな石の床を、アーチ形の窓から入った光が照らしている。ベルは壁や天井を観察しながら注意深く歩いた。


 何度も曲がったり階段を下りたり上ったりして、ギネはようやく一際大きくて重工な扉の前で止まった。


 扉の向こうに魔王がいるらしいことはギネの態度で分かった。扉を見つめる目に、先程まではなかった真剣な光が宿っている。


「一応聞いとくけど、準備は良い? ここを開けたら確実に逃げられないからね」


「大丈夫」


「あっそ。じゃ、開けるよ」


 ギネが扉を開けた。


 途端、ベルの足が震えた。ベルは自身の身体の異変に驚いたが、理由は分かっていたのでパニックになることはなかった。


 紅い玉座に座る、黒い男。彼が放つ気にあてられたのだ。


 ギネが準備は良いかと聞いたのはこういうことかと思いながら、ベルはゆっくりと歩を進めた。


 身体が重い。心臓の音がうるさい。息が詰まりそうで、吐き気もしてくる。


 何度も止まりそうになったがその度に自分を叱咤し、なんとか赤い絨毯の上を歩いて男の前に立った。


 両脇に男と女がいる。右には銀の鎧姿の男。左には肌の色がビビットピンクで、牛のような角の生えた女。それから玉座に座る男の右隣に杖をついた老人がいた。老人の白髪頭からは真横に大きな角が生えている。


(男と女は四天王の一人。それからあの老人は魔王の相談役だ)


 ゲームの中の情報と照らし合わせていく。


(そして、座っているこの男が、魔王グリーティア)


 ごくり、と喉を鳴らした。


 癖のない黒の長髪に、真っ白な肌。黒い眼球の中に青い瞳が埋め込まれていて、頭からは先端が青く根元は黒い鬼のような角が生えている。


 顔が彫刻のように美しいので冷たい印象を持たせる。それだけならまだ良いのだが、この男、魔王は人を怯えさせる空気を纏っていた。それも離れたところでも分かるくらい大きなものだ。


 ベルはしばらく魔王を見つめていた。そうしたかったわけではなく、そうせざるを得なかったのだった。一度目が合ったらもう、視線をそらすことができなかった。


 そらしたら殺される。


 獣人だからだろうか。獣の本能がそう叫んでいる。同時に逃げろと警笛を鳴らしているが、身体が動かない。


 ドッドッドッド、と激しく脈打つ心臓が恐怖を増幅させる。冷や汗が背中にじわりと湧いてくる。


 異常だ。たった一人の人間を目の前にして起こることではない。


(これが、魔王)


 目の前の男が魔王と呼ばれ、人々に崇められる理由を体感した。こいつは別格だ。出会った瞬間にこいつには敵わないと皆が思うだろう。それだけの強さを持っている。


 魔王は口を開こうとしなかった。きっとベルの第一声を待っているのだろう。


 ベルは震える唇で息を吐き出し、意を決してゆっくりと首を垂れた。


「……私はベルと申します。召喚に応じ、馳せ参じました。魔王様におかれましては、ご機嫌麗しく」


 なんとか声は震えなかったが、緊張で噛みそうだったので時間をかけて話し、そのままの姿勢で返事を待った。


「貴様は魔法や魔術が使えるそうだな」


 低い声が心臓を震わせる。


「はい」


「見せろ」


 ベルは顔を上げた。


「よろしいのですか?」


「構わん。見せろ。ギネ、相手をしてやれ」


「かしこまりました」


 鎧姿の男の横に立っていたギネが踏み出した。ベルはついてくるようにというギネのアイコンタクトを受け取った。


「それではお見せいたしますにゃ」


 ベルは軽く頭を下げてから踵を返し、玉座から少し距離を取ってギネの向かいに立った。

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