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魔王は私がニャんとかします!  作者: あまがみ


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四天王ギネ04

 遠くでフクロウの鳴き声がする。


 台所にある小さな窓から入った月明かりが、椅子に座るマンシャムを照らしていた。ふと視線を上げると、ベッドの上で丸まって寝ているベルが見えた。ベルが寝ているのはマンシャムの寝起きしている部屋の右側に増築した部屋である。


 この小さな家はマンシャム一人が住むための家だったのでそれだけのスペースしかなかった。当然ベルが寝起きする場所も無かったのだが、ベルが光魔法を習得した日の翌日に増築し、新しい部屋を設けたのである。


 部屋に扉はつけてあるが、ベルは何故か無防備にも開けっ放しにしていた。もともと人を疑わない質なのか、それとも危険のない環境で生まれ育ったが故なのかは量りかねる。一カ月経つが、マンシャムには彼女について分からないことが多かった。けれどもマンシャムはこうしてベルと共に穏やかに時を過ごすのは嫌いではなかった。


 マンシャムは微笑みを浮かべ、口を開いた。


「……出てきなさい」


 声が夜の闇に溶ける。


 しばらく何の変化もなかったが、瞬きの後、床に真っ黒な穴が空いてそこから黒いローブの人物が姿を現した。


 黒いローブの人物はすぐにフードを降ろし、顔を見せた。


 髪は癖のある白色で、眼球は赤く瞳は黒。羊のような黒い曲がった角のある、肌の真っ黒な魔人だった。


「ベルから話は聞いている。また懲りずに来たのかね」


 ギネは話さなかった。ただじっと闇の中に佇み、マンシャムを見つめていた。


「何度来ても、私は君の話に応じるつもりはない」


 ギネは答えない。


「帰りなさい」


 マンシャムが黙ると沈黙が降りた。


 ホウホウとどこかでフクロウが鳴いている。


 時がゆっくり流れていく。不思議と空気は気まずくない。ただ二人は沈黙している。それだけの時間だった。


「……あいつは、あんたの弟子だって聞いた。新しい弟子、取ったんだね」


「取らないとは言っていない。……君は私の言葉を覚えているかね?」


「おれ程の実力者じゃないと、もう弟子は取らないって言った。……あいつはそんなにできるの?」


「その目で見たはずだが?」


 マンシャムの深い青の目がギネを見る。ギネは再び黙った。


「……君は鋭い観察眼を持っている。それから勘も鋭い。だから私は君を弟子にしたんだ」


 口を開いて、閉じる。


 ギネは頭の中にいくつもの推論を並べていた。そのどれもが当たってほしいようで当たってほしくない推論で、口に出すのが憚られたのである。


 認めるのが嫌だった。それに尽きる。


「……認めなさい。彼女は君と並び立つ程の実力者だよ」


「!」


 見透かされてしまった。いつも、この青い瞳は心を読む。マンシャムはそんなことはできないと笑うが、ギネはマンシャムが人の心を読む魔法を獲得しているのではないかと思っていた。


「……あいつに、光魔法が使えるって言うの?」


「使える。彼女はすでに私の技のほとんどを使える」


 ギネは目を大きくして驚いた。


「なっ!? あいつが!?」


 思わず大きな声を出してベルを振り返った。ベルは猫耳をピクリと動かし、身じろぎして尻尾を抱えた。


 侵入者がいるというのに気づかず安心しきって悠長に寝ているあいつが、と心の中で毒を吐く。無意識に気配を察しているのか何なのか、ベルの耳はパタパタと動き続けていた。


「戦士としては君に遠く及ばないだろう。けれど決心すると彼女は強い。優しい心を持ちながら割り切って非情にもなれる。それから彼女は素直だ」


 にっこり笑うマンシャムをギネは睨んだ。


「おれが素直じゃないって言いたいの?」


「君は不器用なだけだ。……私では君の本心を引き出せなかっただけの話だよ」


 ギネは優しい表情で自分を見つめるマンシャムから視線をそらした。何もない床を見つめ、言葉を探す。しかし何も見つけられなかった。


「……今日のことは、魔王様に報告した。……あいつが光魔法を使えることも魔王様に報告する」


 ややあって口を開いたギネが探るように視線を上げる。しかしマンシャムは「ギネの好きなようにしなさい」としか言わなかった。


 ギネは心の中でため息を吐いた。マンシャムは腹の底が読みにくい。


「あいつ、あんたの弟子になってどれくらい経つの?」


「一カ月ほどだよ」


 ギネは目を大きくした。


「へー。随分短いね。それじゃ情も湧いてないか」


「人の情というものは、時間だけで量るものではないよギネ」


「あいつのことを気に入ってるんだね。光魔法の継承者だから?」


「弟子だからだ。私は君のことも同じくらい好いているよ。ギネ。あの子は君の妹弟子だ。可愛がってあげなさい」


「何でおれがあんなやつを」


 そう呟いたギネは一瞬ベルに視線を投げてから苦い顔をして空間に穴を空けた。


「……もう行くよ。あんたなら予想がついてると思うけど、というかあんたがそうなるよう仕向けたんだろうけど。もうあいつに会えなくなるかもしれないから、別れはしっかりしときなよ。……おれの時みたいにならないように」


 それだけ言って、ギネはマンシャムの表情も確認せず黒い穴の中に沈んでしまった。ギネの身体が完全に隠れると、空間に空いた黒い穴は小さくなってやがて消えた。


 しばらくマンシャムはギネが消えた空間を見つめていた。それからふと視線をベルに向けた。


 一番深いところまで沈んだ夜の闇がこれから明けていく。


 何をしないでも時は経ち、やがて満ちるのだ。

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