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魔王は私がニャんとかします!  作者: あまがみ


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四天王ギネ02

(結界を破れるのは優れた魔法を使うことができる人間だと師匠は言っていた。そんな人が訪ねてきたのか?)


 ベルは素早く立ちあがり、耳をすませて扉の前に立った。


 音はしない。気配もしない。近くにいないのか……。


 考えながらベルは扉を開けた。


 扉の前には人はいなかった。しかし、ちょうど草原の入り口になっているところに一人の人間が立っているのが目に入った。黒く足元まであるローブを頭から被った怪しげな人間である。


 これくらいの距離なら感知できるはずなのに、とベルは眉をひそめ、警戒しながらその人間に近づいていった。ローブの人物は微動だにせず、ベルが来るのを待っていた。


 ローブの人物はベルよりも頭半分くらい大きかった。身長は百七十後半だろう。そしてたぶん魔人だ。街に出た時に嗅いだ魔人の匂いに似たものがあった。


「ニャんの御用でしょうか」


「あんた、ここの主人じゃないよね。ここの主人はどこへ行ったの?」


 若い男の声だった。そしてどうやらこの男はマンシャムのことを知っていてここを訪ねたらしい。


「師匠は出かけています。御用があるニャら、後日改めてお越しください。貴方あニャたのお名前ニャまえを教えていただければ、師匠には貴方が来たことを伝えておきます」


「師匠……?」


 空気が変わったことにベルは気づいた。


 ベルのことを吟味し、細かいことも見逃さないようにしていた慎重な空気が一変し、どこか怒気をはらんだ緊張した空気に変わった。


「あんたはここの主人の弟子なの?」


「そうですけど……。それが貴方あニャたにニャんの関係が?」


 気を引き締めて答える。すると男は黙ってしまった。


 どことなく重い空気が流れている。風はそよぐが、気持ちが良いとは思えなかった。


「……ふーん、へー、あっそう。あの人、弟子取ったんだ」


 ベルは金色の目を細めた。賢者マンシャムと言えば誰もが知る有名人で、誰もがすごい人だと尊敬する人物だ。ここにいるのが賢者マンシャムだと知らないのならまだしも、目の前の男はその辺りの事情を把握しているように見える。主人が賢者マンシャムであることを知りながらあの人呼ばわりするとはいったい何者なのか。


 睨んでいると男は真っ黒な手をローブから出し、フードを降ろした。


 よく整った綺麗な顔をしている。女の子のような小さな丸顔で、色はやはり真っ黒。癖のある髪は白い。そしてその白い髪の間からは羊の角のような、丸まった黒い角が生えていた。おまけに眼球は赤く、瞳は黒い。


 魔人だ。しかもベルはこの男に見覚えがあった。


(こいつ、もしかして魔王の側近、四天王の一人なんじゃ……? 四層目の魔人ギネだ)


 ゲームの記憶が起こされる。


 四天王の一人、魔人ギネ。ギネは魔王城の四層目に現れる中ボス的存在だった。他の四天王は魔王城以外でも交戦するのだが、彼だけは面倒くさがりでほとんど城を離れず、闇魔法で操った魔物などを駆使して行く手を阻んでくる敵だった。魔王城でようやく黒いローブ姿を見せてくれ、体力が減るとローブを脱いで背中からのアングルで左半身を見せてくれる。デーモンクライというゲームは、主要な敵が姿を変える。魔物は形態が変わるのだが、人は脱いだり着たりしてくれることが多く、ベルが気に入っているシステムの一つだった。その時の姿が目の前の男によく似ていた。白髪で巻き角、目が赤くて、黒いローブ。そっくりだ。


(四天王がどうして……しかも全然外に出ないはずのギネがどうして師匠を訪ねて来るんだ?)


 ベルは軽く眉を寄せてギネを見つめた。するとギネはベルよりも深いしわを眉間に寄せ、不機嫌そうな声を出した。


「何。何かおれに言いたいことでもあるの?」


「べ、別にニャいけど」


 ギネはあっそ、と返して進もうとした。しかしベルはギネの前に立ち塞がり、それを制した。


「師匠に……誰も近付けるニャと言われています。どうか、後日改めてお越しを」


 ギネはじっとりとした目でベルを睨んだ。


「あの人がそんなこと言うはずない。……もっと、過激なことをあんたに指示してるんじゃない?」


 ベルは口を開けて一旦閉じ、少し考えてから答えた。


「追い払ってほしいと」


「ふぅん。あんたにおれが追い払えるとあの人は思ってるんだ」


 それからギネは上から下にベルを見て、小さくため息を吐いた。


「面倒だけど、やり合おうか。あんたは引く気ないみたいだし、おれもただでは帰れない」


「ちょっと戦ったら帰ってくれるんですか?」


「あんたが生きてられたらね」


 冷たい瞳で見下ろしてくる。随分自信たっぷりな態度だ。


「死ニャニャいとは思います。貴方あニャたこそ、後悔しても知りませんからね」


 ベルもふふんと笑い、耳と尻尾を立てて得意げな顔をした。ギネはベルの態度を見て目を細め、小さくため息を吐いた。


「ほんとに全く、面倒くさい」


 ため息とともに漏らした小さな小さな愚痴はしっかりベルの耳に届いていた。


 お互いの譲れないもののために一戦を交えることにした二人は、草原の真ん中までくると距離をとって見つめ合った。


「三秒数えたら開始で」


「分かった」


「三、二、一」


 ギネが一と言った瞬間、ギネの周りに墨をこぼしたような真っ黒な闇が広がり、あっと言う間に世界を包んでしまった。


(真っ暗で何も見えない!)


 本当に一瞬の出来事だった。一秒にも満たない間だ。


 ベルは杖を出し、小さな炎の玉をいくつも出して辺りを照らしてみた。しかし、全く明るくならない。というより、照らしてみても『黒色』だ。


「……あんた、精霊魔法が使えるの……?」


(しまった! 身体強化だけで戦えば良かった)


 思えどももう遅い。ベルは隠すことを潔く諦めることにした。


「獣人が精霊魔法を使えるなんて……」


 声はするが、どこからしているのか分からない。全体に響いて聞こえる。辺りを見回してみても真っ暗な闇が広がっているだけでギネの姿はどこにもない。


(何だこれは……。あいつはどこにいるんだ!?)


 死角を作らないよう、素早く辺りを見回す。


 もう、初めにどこを向いていたのかさえ分からなくなってきた。どこを見ても闇、闇、闇……。


 光の無い世界に不安になってくる。自分の息だけが大きく聞こえ、心臓の音が早鐘のように打ち始める。


「いっ!?」


 突然頬に激痛が走った。触ってみたが、何もない。


 気の所為か……?


「いにゃぁあっ!」


 そう思った瞬間、今度は両足、両腕、胴体、顔、あらゆるところに深く切りつけられたような痛みが走った。しかし、確認してみても傷なんて何もない。


 いや、もしかしたら傷はあるが気づいていないだけなのかもしれない。見えないので分からない。自分の身体さえ見えない。辺りを気配を探ってみても何もない。


 不安が押し寄せてくる。


 鼓動が速くなる。


 汗が出て背中がじっとりとしてくる。


(あぁ、そうだ。闇魔法だ)


 ベルはここで突然我に返った。

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